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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第一章 始まりの地・ヒルマウント
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博物館内部へ


 博物館の中も、こう言っては失礼だが田舎の博物館の予想を覆す、しっかりした造りだった。

 床は顔が映るほど磨かれた結晶系の石材だし、全体的に白塗りで清潔感が保たれている。

 人の入りはそこそこか。どちらかと言えばお年寄りの夫婦のような人達が、数分に一組、というペースで訪れてきていた。

 順路に沿ってガラスのケースが収められており、ホールで一番最初に僕達を出迎えてくれたのは、先刻洞窟で見た、霊剣キリフセルだった。

 ケース内で逆さに吊され、その隣に凝った意匠の鞘も並んでいる。

「ほおぉ……これが霊剣キリフセルの刀身か」

「洞窟は半分、台座に埋まってたからなぁ」

 ガラスに、ベッタリ顔をつけそうなケイの襟首を掴む。

「といってもこれもレプリカですけどね」

 僕の隣に並んで、ペンドラゴンさんも剣を見上げる。

「うん、本物は寺院の宝物蔵に収められているんだっけ。……今回公開されないのはまあ分かるけど、された事ってあるのかな?」

「ボクも知りませんけど、何か国自体の重要な行事の時とかじゃないでしょうか。それに、そういう時はこっちじゃなくて、シティムの方になると思いますよ。あっちには元の皇帝城がありますから」

「そういや、大博物館もあるんだっけか。なるほどね」

 あっちはあっちで、楽しみだ。

 何て僕達が剣を見上げていると、いつの間にやらケイの注意は別の方に向けられていた。

「ススムススム、見よ! お土産屋さんで剣のレプリカを売っておる! 欲しいぞ!」

「ちょっと、騒ぐなよ。こういう場所では静かにするのがマナーだぞ?」

「にゅ? そうか。だが欲しい!」

 なるほど、ホール受付の横に据えられた売店では、お土産に混じってキリフセルのレプリカも販売されていた。

 安っぽいモノは傘立てに突っ込まれているが、本物っぽい感じのそれは、やはりガラスケースに収められている。

 そして、そのお値段も、相応だ。

「……僕も欲しいけど、値段的にどうかと思うぞ? 多少の無駄遣いならともかく、これはちょっと」

「むむむむむ……」

 傘立てに入っている方には、見向きもしない。

 ……まあ、どう見てもビニールで出来た、子供のチャンバラ用っぽいもんなぁ。

「あ、えっと、単に触りたいってだけなら、融通聞くと思うんですけど」

「え?」

「ちょっと、そこの休憩所へ」

 博物館に入って早々、僕達はホールの隅っこにあるソファに向かった。


 ペンドラゴンさんがアームドバッグから取り出したのは、正に今ケースの中で見た、霊剣キリフセルだった。

 もちろん、鞘に納められている。

「……つ、剣じゃあ……!」

 柄を握り、ケイが感動した声を上げた。

「レプリカ、買ってたんですか」

「あ、あはは……まあ、そんな所です。刃には触らないように、お願いしますね」

 恥ずかしそうに、ペンドラゴンさんは頭を掻いた。

 ケイはというと、長テーブルに寝かせた剣の鞘を、慎重に抜いている所だった。

 ……その澄んだ刀身は、相当職人の腕がいいのか、とてもレプリカとは思えない輝きを示していた。

「駄目なのかや?」

「この手の刀身は、指紋がつくと曇るんだよ。それに手の脂も錆の元。ですよね? いくらレプリカでも、人様のモノを汚す訳にはいかないだろ」

「え、ええ、ごめんなさい」

 というか、とても高そうだし、下手に触れそうにない。

 ケイもあっさり諦め、刃部分を鞘に戻した。

 そして、ソファから立ち上がると、剣を垂直に持ち上げる。

「……ふむー、重さも本物に忠実なのかや?」

「質感も重量も、本物と寸分違いません。……えーと、データ上では、そのはずです。という事にして下さい」

「僕にも持たせてくれ。……こうして持ってみると思ったより軽いけど、これを振り回すとなるとやっぱり相当な体力がいりそうだなあ」

 軽いとは言え、戦いはそんなすぐに終わるモノじゃない。

 継続して使用するとなると、それなりに訓練が必要だろう。

「その辺は、古代の戦士の体力であろ。妾達のようなもやしっ子とは比較する事すらおこがましいのではないであろうか」

「だなぁ」

 僕は、キリフセルのレプリカをペンドラゴンさんに返した。

 いやはや、貴重な経験をした。


 そして今度こそ、博物館内を見て回る。

 ガラスのケースには、ユフ王が住居で使っていたカップやら、セキエン氏の日記やらが収められている。

 それらは全て、本物らしい。

 ちなみに、粘土細工の人形もいくつか、飾られていた。……と言う事は、あっちの生家にあったのも、レプリカだったという事か。

「当たり前だけど、ユフ王に関する事ばかりだな」

 ユフ王は、三人の仲間と共に旅を続け、前皇帝を倒したという話だ。

 なら、その仲間の情報はどこにあるのか。

「他三名に関しては、別という事かの」

「四人はそれぞれ、別の国出身ですから、それぞれに博物館があるんですよ。そしてそれを統括するのが、件のシティム大博物館ですね。あそこにはボク……じゃない、ユフ王や他三名の展示品の他、前皇帝やその幹部に関する展示も多かったというお話です」

「ふむぅ……ススムや」

「もちろん、行くつもりだぞ。ただし予定では、四日後になるけど」

 シティムは旅の最終目的地だ。

 このガストノーセンどころか、世界でも有数の古都であり、当時の建築物と現代の町並みが共存しているという。

「ボクはご一緒出来ませんけど、楽しんできて下さい。見所は多いと思いますよ」

「その話は聞いてます。……多すぎて困るんですけどね」

 シティムは観光名所としても有名で、残された文化財などを全部回るとなると、とても一日では終わりそうにない。

 観光場所を絞り込むのに、苦労しそうだった。

 そしてケイはというと、そんな僕の様子にはまったく気づかず、大きな絵画を見上げていた。

「お、ユフ王の肖像画じゃ。大きいのう!」

「……絵がでかいんであって、本人が大きいんじゃないと思うぞ」

「そうですよ。こんな大きくありません」

 やけに強調する、ペンドラゴンさんだった。

「ふーむ……」

 ケイはしばらく絵を見上げ、やがてペンドラゴンさんにその顔を向けた。

「……アーサーとやら、よく似ておるの」

「え、そ、そそそ、そうですか?」

 えらく動揺する、ペンドラゴンさんだった。

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