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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
153/155

青い羽根にまつわる収録されなかった短文(7)

ちょっと短めです。

 非公開の、最後のエピソードである。


「殺したって死なない面子だけどな」

 というジョン・タイターの台詞に、

「色んな意味で、シャレにならない台詞だと思います、それ」

 と、僕が返したその時、懐が熱を帯びた。

 さすがにもう慣れ始めた、例の青い羽根の波動だった。

 視界がぶれ、世界が色褪せる。


 淡い色彩のその空間は……駅前とはほとんど変わりがなかった。

 いや、それは大きな間違いだ。そもそも、駅ビル自体が存在しない。

 ただ、ジョン・タイターの後ろにあったユフ一行の銅像が健在だったせいで、そう錯覚してしまっただけだろう。

 舗装された石畳にも変化がないのが、それに拍車を掛けていたのかもしれない。

 駅ビルのあった場所には、赤い屋根で三階建てぐらいの洒落た建物が存在していた。これはこれで……駅なのだろうか。

 周囲を王家の紋章を記した馬車が取り囲み、輝く甲冑を着た騎士達が直立不動で待機している。

 そして、僕から少し離れた場所に、三人の人物と一頭の小さな龍が立っていた。

「さ、て」

 紺をベースに白と金で縁取ったコートを着込んだ青年が、両手を合わせる。

 頭からすっぽり覆うフードを被っているが、服装からしてニワ・カイチだろう。

 彼は周りを見渡し、ちょっと呆れた声を出していた。

「大層な護衛だな」

「そりゃまあ、王様だからね」

 ピンク色という、珍しい色のローブを被った人物が苦笑する。

 これまた頭からフードを被り素性を隠している……が、まあこぼれている金髪やら背中の紋章から察するに、ユフ・フィッツロンと判断出来る。

 もう一人は、銀色のボディースーツに似た全身甲冑に身を包んでおり、頭も犬系獣人用の兜で覆われている。これは、狼頭将軍ケーナ・クルーガーで間違いないだろう。

 何せ最後、大型バイクぐらいの大きさの(レパート)がいるのだから、()()()()以外の何物でもない。

「うっし、それじゃ最後のまとめといこうか」

 ニワ・カイチの言葉に、三人は頷いた。

「うん」

「ああ」

「いーよ」

 ニワ・カイチは、ユフ・フィッツロンの方を向いた。

「まずユフは身体を大事に。眠る前にラクストック村に墳墓を築いてくれ」

「了解です」

「後、お前が復活した時の騒動と対応とか城の扱いみたいな細かい点は、本にまとめて記す事にしてあるから、その時は保管よろしく。あ、これは王家に代々伝わる書物なので……とか適当に門外不出にしといてくれよ。下手に表に出ると俺に予言者みたいな新しい称号が出来ちまう」

「ある意味、それも正しいんですけどねぇ」

 ユフ・フィッツロンの口元が、困ったように笑う。

「ま、眠る前にも、もう一回顔を出すさ。宝玉預からないと駄目だからな」

「アレがあると、ボクは死ねないからねえ。ま、なるべくさっさと取りまとめて、終わらせるつもりだよ」

「この先国に降りかかる受難の類はもう書き記してるんだから、チートだよなぁ」

 アッハッハッと笑い合う。

 そしてニワ・カイチは次に、銀色の甲冑――ケーナ・クルーガーに視線を向ける。

「で、ケーナの方はまた然るべき時期に、現れることにする」

「むぅ、時期ぐらい教えてくれてもよいだろうに」

 甲冑で見えないが、憮然とした感情は伝わってきていた。

「何、そう遠くない時期だ。気長に待ってろ」

「ふむ……不満だが、しょうがあるまい」

「……ただ、その後がやたら長いんだがな」

 ケーナ・クルーガーの腰の後ろから伸びた銀毛の尻尾が、ピクンと反応する。

「むむむ? 今何やら聞き捨て難い呟きが耳に届いたぞ?」

「聞き流せ。ちゃんと姿は現わす」

「ならばよしとしよう」

 ケーナが落ち着くのを待ち、ニワ・カイチは最後に龍に話し掛けた。

「それからレパート。一番忙しいぞ。何せ、このまま生きて予定の時まで待つことになるんだからな」

「うん」

「人間に化ける術を完璧に使いこなす練習。それから俺達が動きやすい環境作り。遺跡のマップ、時代ごとの医療技術、福利厚生のシステム、大きな戦争の発生時期なんかを活かせば、それなりに大きな組織が出来るはずだ。名前は任せる」

「え、知らないの?」

「知ってるけど、こういうのは流れに任せるようにしてんだよ」

「そういうもんかー」


 それからニワ・カイチ主導で細かい指示があり、やがて話は終わった。


「……ひとまず、こんなトコか」

 まとめに入り、ニワ・カイチが再び両手を合わせる。

「だねぇ」

 ユフ・フィッツロンが同意する。

「じゃ、皆それぞれ元気でな」

「はい。いずれ、また」

「早く、戻ってくるのだぞ。……この表現もいまいちおかしいのだが」

「それ言ったら、わたしが一番長い年月待つことになるんだけど……」

 三人と一頭の拳が、打ち合わさった。

「いずれまた、皆揃って再会しよう」

 そう声を揃えて、四人はそれぞれバラバラの方角に去って行った。

 僕の方には、ニワ・カイチが近付いてきて……。


 世界に色彩が戻った。

 耳には車の排気音や列車が線路を走る音、それに人々に賑わい。

 僕の前に、ジョン・タイターの拳が突き出された。

「いいレポート、書いてくれよ」

「分かった」

 僕とケイは拳を打ち合わせた。

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