世話になった人達と
「仮面?」
「というか、お面?」
観客である僕らは、首を捻った。
「行くぜ。まずは――黄金の皇子オスカルド」
ニワ・カイチが黄金色の仮面を顔に装着する。
直後、拾った棍を足で掬い上げて手に取ると、それを振るった。
その速度は尋常ではなく、まるで居合切りのような鋭さを持っていた。
「っ!?」
チルミーも、瞬間移動でなければ避けられなかっただろう。
「おおっ、六禍選の技か!!」
ケイ、大興奮である。
「けどこういうのって、味方の技を借りるってのが定番じゃないのか……?」
「みんなの力でお前を倒す! って奴ですよね! まったくどうしてかなぁ?」
ペンドラゴンさんがジト目で見るのに対し、ジョン・タイターは戦闘から目を離さずボソッと言った。
「……敵の方が格好良かったから……じゃねえの?」
「酷っ!?」
丸目の下ににょろんと涙が垂れるペンドラゴンさん。
一方、まったくショックを受けていないのはアヌビスである。
「私で良ければ、自作するぞ。等身大のフィギュアでも抱き枕シーツでも構わん」
「あ、何かちょっと理由が分かった気がします。というかこれ、別にアヌビスさんのお話じゃなくて、ニワ・カイチの仲間のお話だという事をお忘れなく」
頬の汗をハンカチで拭いながら、ソアラさんがフォローっぽい発言をしていた。
紅き魔女ズッキーニを始めとした六禍選の仮面を次々と繰り出し、ニワ・カイチはチルミーを追い詰めていく。
「こ、の……!」
チルミーは後ろに下がり、腕と翼を広げる。
あれは……。
「遅ぇ!!」
草隠れのドルトンボルから玄牛魔神ハイドラに仮面を変えたニワ・カイチは、その膂力で相手を空高くへぶっ飛ばした。
そしてその直後、周囲には無数の青い羽根が展開される。
「その、技は……っ」
ニワ・カイチを見下ろし、チルミーが呻き声を上げる。
「ああ、お前の技だ」
チルミーの仮面を着けたニワ・カイチが、指をクイッと上に上げる。
青色の羽根がチルミー目掛けて飛び、その身体に突き刺さった。
羽根の串刺しにあったまま、チルミーは弧を描いて境内に倒れた。
背後の装置のゲージは……完全に赤。
チルミーも、動かない。
勝負は、ニワ・カイチの勝利だった。
そして巻き起こった歓声と、それを上回る女性達の罵倒。
「ってすげえブーイング!?」
勝ったのに涙目になる、ニワ・カイチであった。
「……まあ、美形と並の顔との勝負じゃ、こうなるよな普通」
ニワ・カイチ=ジョン・スミスの弟である、ジョン・タイターは遠い目をしながら、虚ろな笑いを浮かべていた。
「だ、大丈夫! ボクは加一を応援してたから!!」
「ふ……競争相手が少なくていいじゃないか」
ペンドラゴンさんは何か必死にフォローを入れ、アヌビスは不敵な笑いを浮かべていた。
そんな皆を眺めていたソアラさんが、パン、と手を鳴らす。
「そういう見方も出来ますか。ま、とにかく皆さん、撤収よろしくお願いしますね」
イベントも終わり、観客が吐き出されていく。
……何か、ガストノーセン王家の紋章のついた黒塗りの車も見えた気もするんだけれど、残念ながらちゃんと確認することは出来なかった。
そして。
「って、何でみんなついてくるんですか!?」
僕は後ろを振り返った。
駅に続く大通り、僕とケイ、白戸先生に園咲女史、ウチの爺ちゃん以外に、同行者が増えていた。
ペンドラゴンさん、アヌビス・クルーガー、ジョン・タイター、ソアラさんの四人である。
サウスクウェア老は、ジョン・スミスに何やら色々話を聞きたいと残ったのだが……ジョン・タイターは兄のことはどうでもいいのだろうか。
「大所帯になっていくな」
他人事のように、白戸先生が言う。
「……先生達にも、原因の一端はあると思うんですが」
「保護者はカウントしないでくれ」
「まあそれに、駅前までだしな」
ジョン・タイターが後ろから言う。
「え、そうなんですか」
「はい。お話はお爺様から伺ってますから、そのお見送りです。ついでに資材を受け取ったり、そちらの用事があるんですよ」
と、こちらはソアラさん。
「……いや、そのついでの方が本来の目的であろうに」
今度はケイがツッコミを入れていた。
「それが実はそうでもなくて、重要度ではこちらの方が上なんですよ」
「公務より重要な……ああ、そういう事かや」
何だか納得風のケイに、アヌビスは首を傾げる。
「どういう事だ?」
「実はこれをしないと、世界が崩壊するんだ」
「何と!?」
どこまで本気か分からないジョン・タイターの言に、アヌビスは本気で驚愕していた。
それとは別に、白戸先生がソアラさんに話し掛けていた。
「……ところで貴方、どこかで会った事はないか? 全然別の場所で」
「いえ、初対面ですよ」
何だかナンパっぽい言い回しだけど、あの先生だしそんな事はないだろうなあ。
駅前に着いた。
雑踏の中でも一際目立つ男女が、四勇者の像の前に立っている。
素人目でも分かる高級スーツに身を進んだ中年紳士と、パンツスーツ姿の秘書風の女性だ。
何者だろう……なんて思っていたが、僕達の姿を認めるとこちらに駆け寄ってきた。いや、そんな生やさしいモノじゃない。全力疾走だ。
「お」
ケイ、お前の知り合いか。
「ケイーーーーー!!」
と聞く間もなく、男の方がケイに抱きつこうとする。
「ススム、回避じゃ」
「え、あ、えぇっ!?」
ケイの首根っこを掴み、こちらに寄せる。
目標を失い、中年紳士はそのまま手を空振らせ、地面に倒れた。
「うむ、ナイスじゃ」
「って、いいの今の!?」
「ナイスです」
こちらに追いついてきた、美人秘書さんもグッと親指を立てた。
「ナイスではないっ!!」
ガバッと、男が立ち上がり、こちらに怒りの表情を向ける。
それを諫めてくれたのは、白戸先生だ。
「落ち着け、賀集。子供のすることだ」
賀集……って事は、ケイの父親か。うん、そりゃ怒るわ。
賀集氏は僕に指を突きつけてきた。
「ケイは許す。が、そこの小僧は許さん。よくも娘を拐かしてくれたな」
「あ、その、すみません。……おい、僕誘拐犯になってるのか?」
「親からすれば、そう見えてもしょうがないのう。ま、ここは妾が諫めてやるのじゃ」
「話、聞きそうにない人だしなあ」
唯一まともに話が通じそうなのは、ケイぐらいのモノだろう。