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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
150/155

世話になった人達と

「仮面?」

「というか、お面?」

 観客である僕らは、首を捻った。


「行くぜ。まずは――黄金の皇子オスカルド」

 ニワ・カイチが黄金色の仮面を顔に装着する。

 直後、拾った棍を足で掬い上げて手に取ると、それを振るった。

 その速度は尋常ではなく、まるで居合切りのような鋭さを持っていた。

「っ!?」

 チルミーも、瞬間移動でなければ避けられなかっただろう。


「おおっ、六禍選の技か!!」

 ケイ、大興奮である。

「けどこういうのって、味方の技を借りるってのが定番じゃないのか……?」

「みんなの力でお前を倒す! って奴ですよね! まったくどうしてかなぁ?」

 ペンドラゴンさんがジト目で見るのに対し、ジョン・タイターは戦闘から目を離さずボソッと言った。

「……敵の方が格好良かったから……じゃねえの?」

「酷っ!?」

 丸目の下ににょろんと涙が垂れるペンドラゴンさん。

 一方、まったくショックを受けていないのはアヌビスである。

「私で良ければ、自作するぞ。等身大のフィギュアでも抱き枕シーツでも構わん」

「あ、何かちょっと理由が分かった気がします。というかこれ、別にアヌビスさんのお話じゃなくて、ニワ・カイチの仲間のお話だという事をお忘れなく」

 頬の汗をハンカチで拭いながら、ソアラさんがフォローっぽい発言をしていた。


 紅き魔女ズッキーニを始めとした六禍選の仮面を次々と繰り出し、ニワ・カイチはチルミーを追い詰めていく。

「こ、の……!」

 チルミーは後ろに下がり、腕と翼を広げる。

 あれは……。

「遅ぇ!!」

 草隠れのドルトンボルから玄牛魔神ハイドラに仮面を変えたニワ・カイチは、その膂力で相手を空高くへぶっ飛ばした。

 そしてその直後、周囲には無数の青い羽根が展開される。

「その、技は……っ」

 ニワ・カイチを見下ろし、チルミーが呻き声を上げる。

「ああ、お前の技だ」

 チルミーの仮面を着けたニワ・カイチが、指をクイッと上に上げる。

 青色の羽根がチルミー目掛けて飛び、その身体に突き刺さった。

 羽根の串刺しにあったまま、チルミーは弧を描いて境内に倒れた。

 背後の装置のゲージは……完全に赤。

 チルミーも、動かない。

 勝負は、ニワ・カイチの勝利だった。

 そして巻き起こった歓声と、それを上回る女性達の罵倒。

「ってすげえブーイング!?」

 勝ったのに涙目になる、ニワ・カイチであった。


「……まあ、美形と並の顔との勝負じゃ、こうなるよな普通」

 ニワ・カイチ=ジョン・スミスの弟である、ジョン・タイターは遠い目をしながら、虚ろな笑いを浮かべていた。

「だ、大丈夫! ボクは加一を応援してたから!!」

「ふ……競争相手が少なくていいじゃないか」

 ペンドラゴンさんは何か必死にフォローを入れ、アヌビスは不敵な笑いを浮かべていた。

 そんな皆を眺めていたソアラさんが、パン、と手を鳴らす。

「そういう見方も出来ますか。ま、とにかく皆さん、撤収よろしくお願いしますね」


 イベントも終わり、観客が吐き出されていく。

 ……何か、ガストノーセン王家の紋章のついた黒塗りの車も見えた気もするんだけれど、残念ながらちゃんと確認することは出来なかった。

 そして。

「って、何でみんなついてくるんですか!?」

 僕は後ろを振り返った。

 駅に続く大通り、僕とケイ、白戸先生に園咲女史、ウチの爺ちゃん以外に、同行者が増えていた。

 ペンドラゴンさん、アヌビス・クルーガー、ジョン・タイター、ソアラさんの四人である。

 サウスクウェア老は、ジョン・スミスに何やら色々話を聞きたいと残ったのだが……ジョン・タイターは兄のことはどうでもいいのだろうか。

「大所帯になっていくな」

 他人事のように、白戸先生が言う。

「……先生達にも、原因の一端はあると思うんですが」

「保護者はカウントしないでくれ」

「まあそれに、駅前までだしな」

 ジョン・タイターが後ろから言う。

「え、そうなんですか」

「はい。お話はお爺様から伺ってますから、そのお見送りです。ついでに資材を受け取ったり、そちらの用事があるんですよ」

 と、こちらはソアラさん。

「……いや、そのついでの方が本来の目的であろうに」

 今度はケイがツッコミを入れていた。

「それが実はそうでもなくて、重要度ではこちらの方が上なんですよ」

「公務より重要な……ああ、そういう事かや」

 何だか納得風のケイに、アヌビスは首を傾げる。

「どういう事だ?」

「実はこれをしないと、世界が崩壊するんだ」

「何と!?」

 どこまで本気か分からないジョン・タイターの言に、アヌビスは本気で驚愕していた。

 それとは別に、白戸先生がソアラさんに話し掛けていた。

「……ところで貴方、どこかで会った事はないか? 全然別の場所で」

「いえ、初対面ですよ」

 何だかナンパっぽい言い回しだけど、あの先生だしそんな事はないだろうなあ。


 駅前に着いた。

 雑踏の中でも一際目立つ男女が、四勇者の像の前に立っている。

 素人目でも分かる高級スーツに身を進んだ中年紳士と、パンツスーツ姿の秘書風の女性だ。

 何者だろう……なんて思っていたが、僕達の姿を認めるとこちらに駆け寄ってきた。いや、そんな生やさしいモノじゃない。全力疾走だ。

「お」

 ケイ、お前の知り合いか。

「ケイーーーーー!!」

 と聞く間もなく、男の方がケイに抱きつこうとする。

「ススム、回避じゃ」

「え、あ、えぇっ!?」

 ケイの首根っこを掴み、こちらに寄せる。

 目標を失い、中年紳士はそのまま手を空振らせ、地面に倒れた。

「うむ、ナイスじゃ」

「って、いいの今の!?」

「ナイスです」

 こちらに追いついてきた、美人秘書さんもグッと親指を立てた。

「ナイスではないっ!!」

 ガバッと、男が立ち上がり、こちらに怒りの表情を向ける。

 それを諫めてくれたのは、白戸先生だ。

「落ち着け、賀集。子供のすることだ」

 賀集……って事は、ケイの父親か。うん、そりゃ怒るわ。

 賀集氏は僕に指を突きつけてきた。

「ケイは許す。が、そこの小僧は許さん。よくも娘を拐かしてくれたな」

「あ、その、すみません。……おい、僕誘拐犯になってるのか?」

「親からすれば、そう見えてもしょうがないのう。ま、ここは妾が諫めてやるのじゃ」

「話、聞きそうにない人だしなあ」

 唯一まともに話が通じそうなのは、ケイぐらいのモノだろう。

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