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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
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三度目の魔法

「ニワ・カイチの魔法という奴か」

 既にレポートに目を通したのだろう白戸先生の問いに、僕は頷く。

「ええ、世界の法則を変える術です。これでチルミーには縛りが生じました」

「縛り? 大して変わりがあるようには見えないが」

 確かに、一見して大きく何かが代わったようには見えない。

 強いて言うなら装置が動き、黄色いバーが横に伸びた事ぐらいか。そのいく分かは減り、端が赤いゲージに変わっている。

 それとは別に……妙に周りの人間がのっぺりとしたように見える。()()()()()()()()()

 ただ、問題は見かけじゃない。

 もしもこれが、あの世界だとするならば……。

「まず、法則(ルール)として、この境内から出ることが出る事が出来なくなっているはずです」

 僕の仮定を、ジョン・タイターが補足する。

「スタンダードな格闘ゲームは、ある一定の領域が存在する。それより向こうには進めない」

「そう、見えない壁が存在するんですんですよね。そして、遙か高みまで飛ぶ……これも、おそらく使えないはず」

 白戸先生が、まだ青さを保っている空に視線を向けた。

 そこに遮蔽物はない……が、存在するのだ。

「格闘ゲームでは、届かない距離に逃げる事は基本、出来ないんですよ」

 せいぜい()()()()()が限界だ。

「左様。追えば届く距離、悪くても飛び道具の届く距離が離れる限界じゃ。ここには今、ススムの言う見えぬ天井が存在するのじゃ……となると」

 ケイも察したらしい。


 空に何か異常を見つけたらしいチルミーは、急降下して再びニワ・カイチに蹴撃を放つ。

 だが今度は空に戻らず、地面に足を滑らせ、両手をついて無理矢理ブレーキを行なう。

 完全に停止するより前に、ザワリ、とその青髪と背中の羽が逆立った。

 そして、チルミーは消えた。


「な」

「先生、あっちです!!」

 僕と同じような声を上げた白戸先生を、園咲女史が指で指し示す。

 ニワ・カイチのすぐ目の前に、チルミーは立っていた。

 そしていつの間にか無数の青い羽根が、ニワ・カイチの周囲を取り囲んでいた。止まっているように見えたのもほんの一瞬、全ての青い羽根がニワ・カイチの身体を貫いた。

 ビクリ、と身体を一瞬震わせ、ニワ・カイチが仰向けに倒れる。

 背後の装置は、左側のバーが真っ赤に染まっていた。

 ほんの一瞬でついた決着に、周囲も無言だった。


「って負けたじゃないか!?」

「……いや、多分そこも織り込み済みというか」

「うむ」

 僕達は、白戸先生のようには慌てなかった。

 だって、僕らの予想通りなら……。


 しばらくして、むくり、とニワ・カイチは起き上がった。

 身体から、青い羽根がパラパラと取れる。

 その身体のどこにも、傷はない。

「……致命傷だったはずだぞ」

「ああうんまあ、実際死んだかもしれねーな、今のは」

 そして、背後のゲージを指差した。

 横に長いバーの両端には、よく見るとスポットライトのようなモノが二つ、取り付けられていた。

 その右側のバーのライトが一つ、灯っている。

「でも、ここでは、この世界では命が三つある。その内の一つが消えただけに過ぎない」


「格闘ゲームは基本、()()()()なのじゃ」

 事情を飲み込めていない白戸先生に、ケイが説明した。

「逆に言えば、三本勝負で最初の一本取られたって事は、追い込まれたとも言える訳だけどね」

「こればっかりは、どうにもならぬの」

「魔法ってのはアレだよなぁ。基本使用者のアドバンテージって、先にルールを把握してることぐらいしかないよね」

 何せ、ニワ・カイチの傷は完全に回復したとは言え、それはチルミーも同じ筈だ。

 格闘ゲームの法則が働いているならば、今の二人の体力は完全に回復している……という事になっているだろう。

 実際、ゲージも両方、黄色に戻っている。


 そして、戦いが再び始まる。

 チルミーも最初こそぎこちなかったものの、すぐにそのスピードは本来のモノに戻っていた。

 ルールでは、この空間からは出られない……が、全力で動いてもダメージは受けないと気付いたかのようだ。


 その間も、僕とケイのやり取りは続く。

「あとは、自分に有利なルールを引き出すことだけじゃ。逆に言えば、相手が馴染んでしまえば意味がない」

「イフの無双の時にしたって、大半の兵士が雑魚化したとはいえ、帝国側に勝ち目がなかった訳じゃないし……そもそも、魔法は強力だけど、『必殺技』でもないしな」

「まあ、必殺技というのならむしろ魔術の方が……おお、二戦目はニワ・カイチが勝ったのじゃ」


 ニワ・カイチの放った金色の金具が、チルミーの身体を縛り付けた。

 それが強烈に締まり、チルミーは石畳に転がった。

 ……金色の金具というかアレだ……その、どこから取り出したのか分からなかったけど、巨大な――スプリングである。


「さすがにストレート負けはないと思ってたけど。……あれ、絡まると元に戻すの面倒なんだよな」

「そうなのかや」

 どうやらあの道具には、ケイは馴染みがないらしい。

「下手に弄ると、逆に重なる部分が増えたり、変な癖が付いたりするんだよ」


 スプリングから脱出したチルミーが、眉を顰める。

「何故だ……」

 それは、本来の自分の性能の一部を引き出せなかったからか。

 最も身近でそれを見ていたニワ・カイチがその問いに答える。

「自分の能力が使えないのがそんなに不思議か。いや、ちゃんと使えるぜ? そこまで俺も非道くない。ルールがあるのさ」

 チルミーが立ち上がり、服の埃を軽く叩く。

 ただそれだけの動作で、周囲から黄色い悲鳴が上がっていた。

「教えてやる。『瞬間移動』はともかく、『()()()()()()()()()()。ゲージを溜めなきゃ使えねえんだよ。他、『大旋風』『衝撃の間』も同様だろうが、こっちの方がまだゲージは少なくて済むだろうな」

「ゲージ……」

「感覚で分かるはずだぜ? さあ、ラスト一本、観客もいるんだ。派手に行こうじゃねえか」

「……いいだろう」

 バサリ、と羽を鳴らし、後ろに下がる。

「珍しく、上機嫌だな」

「ああ、興味深い戦いだ」

 だが、ニワ・カイチの魔術はほとんど手持ちの術を使い切っている。

 その戦い方は基本、トリッキーなモノだ。

 相手の虚をつかなければ、割と好きが多い。

 だから。

「最後に取っておくつもりだったんだがな……」

 ニワ・カイチはローブを翻した。

 その裏地には、いくつかの仮面が張られていた。

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