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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
148/155

ニワ・カイチVS青き翼のチルミー

 なお、撮影は禁止とされたが、文章として起こす分には問題ないと許可を受けた。

 故にこれは、僕が見聞きしたモノをケイや爺ちゃんらの補完により、なるべく忠実に再現した出来事である。

 この戦いは口コミで一部に伝わってはいるが(主にチルミーの役者の素性に関して)、フィクションや都市伝説の類ではない。

 僕達はちゃんとこの場に居合わせた。


 魔法使いと六禍選が向かい合う。

「よう」

 棍を肩に預けながら、ニワ・カイチがチルミーに声を掛けた。

 が、チルミーは無反応だ。

 足を組んで宙に浮いたまま、物憂げな視線を魔法使いに向けた。

「何か言えよ。頭の毛も生え治ったみたいでよかったじゃねえか」

 が、それでもやはり、青い髪の青年は答えない。

「一通り資料は読んだぜ。アンタもこっちに来て、大変だったみたいじゃねえか。……ま、古代(エンシェント)級の龍に睨まれちゃ、迂闊な真似は出来ねえわな」

 ニワ・カイチは口を休めないが、それでもチルミーは相手を見据えたままだ。

 やがて諦めたのか、ニワ・カイチは肩を竦めて、嘆息した。

「……なんか、俺の方が悪役っぽいなあ。俺と話す事はないってか?」

「ないな」

 ようやく放たれた声は、驚くほどの美声だった。

 周囲の観客、主に女性達から黄色い悲鳴が上がった。

 バサリ、と翼がはためき、その右腕が瞬いた。

「って――!?」

 ギャリ、とニワ・カイチの棍が盾のように回転する。

 すると、青い羽根がいくつも弾かれ、地面に突き刺さった。

 そこでようやく、チルミーが手を瞬かせた瞬間に羽根を放ったことに僕は気がついた。

「……ま、そうだな。空気に当たられてた。アンタと俺は、お喋りに興じるような間柄じゃなかった……な!!」

 足を溜めた魔法使いが、チルミーに躍り掛かる。

 しかし次の瞬間には、チルミーはその場におらず、ニワ・カイチの背後にいた。

 瞬間移動、いや、時間停止か? どっちなのか、僕には分からないが、瞬間的に移動したのは間違いない。

 だが、チルミーの放った延髄目掛けての蹴りを、ニワ・カイチは前に転がって回避する。

 そこから息もつかせぬ攻防が始まった。


 チルミーは主に空間から空間への移動を瞬間的に行ない、一方のニワ・カイチも地面が札を使い始めた。

 地面に叩き付けることで火の柱、凄まじい風の渦が巻き起こる。

 二人の激戦に、白戸先生が唸っていた。

「すごいな。アレは一体、どういう技術を使っているんだろう」

「そういう視点で見ると、色々と参考になる部分があるのう」

「再現出来るのか?」

 僕の問いに、ケイは不敵に笑う。

「然るべき準備を整えればの」


 ニワ・カイチが煙玉を投げ、境内が白い煙に包まれる。

 その煙が裂かれ、僕達のすぐ間近にチルミーが迫っていた。

 当たり前だけど、彼の目当ては僕らではない。

 その視線の先には――微笑むソアラさんがいた。

「契約は守ってもらうぞ」

「はい」

 何の契約だろうか。まさか求婚か。

 なんて阿呆な事を考えていると、そのチルミーの頭上に棍が生えた。

 煙を裂いて、振り下ろされる。

「隙ありぃっ!!」

 だが、チルミーの脳天を砕く直前、彼は姿を消していた。

「ちっ……」

 ニワ・カイチが舌打ちする。

 大きく風が巻き起こり、煙が晴れていく。

 風の中心にはチルミーがいて、彼の青い翼の回転力によって煙が散らされたのだ。

 その彼に向かって、ニワ・カイチは腰の二挺の銃を撃ち放った。


「すごいな、およそ正義の側とは思えないえげつない攻撃」

「ほほ。隙があればそこを攻めるのは当然じゃろ。むしろそれを見過ごす方が失礼じゃて」

 僕の感想に対し、さすが爺ちゃんは笑いながらも辛辣だ。


 空高くに飛翔したチルミーが、ニワ・カイチを見下ろしていた。

 その姿は豆粒よりも、少し大きい程度。

 そして手を振るうと、無数の青い羽が雨のように降り注いできた。

「今更そんなモノ、喰らうか……ガッ!?」

 横に転がり回避しようとしたニワ・カイチに、急降下したチルミーの蹴りが炸裂した。

 魔法使いの身体が大きく跳ね、地面にバウンドする。

 チルミーは速度を緩めず、弧を描いて再び高みに戻る。

 ニワ・カイチもよろめきながらも、立ち上がった。だが、無傷という訳にもいかないようで、今にも崩れ落ちそうになっていた。

 チルミーは容赦なく、急降下からの蹴撃を繰り返す。

 そのスピードはまるで、青い弾丸だ。

 先の攻撃で足を殺されたニワ・カイチは、致命傷こそ回避しているモノの、徐々にダメージが溜まっていっていた。


「速っ!?」

「有翼人の飛翔速度というのは、凄まじいのう」

「アレを回避するのは不可能かもしれぬな」

 ケイと爺ちゃんが、頷き合っていた。

「爺ちゃんならどうする?」

「儂は別に、戦闘要員ではないぞ。密偵はしておったがの」

 ふーむ、と顎の手を当て、考える。

「まあ、対策がないでもないが、それよりもあの高さが厄介じゃのう」

 言われてみれば、ニワ・カイチも銃で反撃はするモノの、高い位置にいるチルミーは、軽く身体を揺らすだけでそれを避けられていた。

「ニワ・カイチなら、高さをゼロにする魔法を使えた筈だけど……」


「いや、それじゃ芸がない」

 と、僕の意見を否定したのは、ジョン・タイターだった。

「芸とか、そういう問題じゃないんじゃない?」

「そうでもないです。魔法使いと奇術は通じるモノがあり、同じ芸を出すのは悪手なんですよ。効きづらいという話です」

 ペンドラゴンさんの話に、今度はケイが食い付いた。

「む、どこで、そのような話を聞いたのかや?」

「そりゃ本人に……じゃない、奇術師に聞いた事があるんです。あと、何かの本とか……タ、タイトルは憶えていませんけど」


「しゃーねーな……せっかく皆がお膳立てまでしてくれたんだ。このまま逃がす訳にもいかねーし」

 空に留まるチルミーから目を離さないまま、ニワ・カイチは地面に棍を突き立てた。

 だが、チルミーは容赦せず、再び急降下を開始する。

「『繋がれ世界、並び重なる無限の異界へ上昇り給え!!』」

 ビッとローブの一部が派手に裂ける。

 血飛沫が飛ぶが、ニワ・カイチはそのまま言葉を紡ぎ続ける。

「『我は望む!! 二者の戦に他は認めず、届かぬ距離に意味はなく、三魂賭ける法則!!』」

 いきなり、境内に光が灯った。

 違う、背後にある装置だ。

 あの、妙に横に長細い奇妙な装置が、動き始めたのだ。

 危険を感じたのだろう、弧を描いて空に戻ったチルミーだったが、今度はそのまま再びブランコのように、地上へと戻ってくる。

 超高速で迫ってくる敵に対し、それでもニワ・カイチの口は止まらない。

「『来たれ来たれ侵食せよ!! 魔を糧に刹那の宴よ輝き拓け!!』」

 ニワ・カイチの足下から強い風が吹き荒れる。

「招来――中位修羅異界『ティセナ・コ・クトォーア』」

 そして、ニワ・カイチは指を鳴らした。

 風の障壁がチルミーの攻めを阻み、仕方なく彼は空へと逃れる……が、その高度は何故か、これまでよりもずっと低い。

 建物の三階程度だろうか。

 そして、妙に窮屈そうだ。

 まるで見えない天井にでも、阻まれてでもいるかのよう。


 一方、僕達にもちょっとした異常があった。

「お……」

「何か、空気が軽くなった……?」

 単なる気のせい……かと思ったけど、周囲の反応からするとそうでもないようだ。

 まるで、空気中にある何かの要素が急激の消耗したような……そんな感じがした。


「さー、遊ぼうか、青い鳥。こっちも本気出すからよ」

 ニワ・カイチはチルミーを指で招いた。


「あ」

「どうした、ススム」

 僕を見上げたケイが、ハッと境内に視線をやった。

 正確にはその後ろにある装置だ。

「いやこれ……そうか。あの装置も……お前も気付いたか」

「うむ、これはあれじゃな」

 僕とケイは頷き合った。

「「格闘ゲーム」」

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