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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
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欠けていたエピソード

「クイズ番組?」

 広場の向こうには、何やら妙な装置が設営されていた。

 いくつかの柱で支えられた、横長の棒だ。

 中央にはデジタル表示のタイムカウントがあり、左右に液晶だろうか長細いバーが伸びている。

 スタッフがスイッチを押すと、バーは黄色と赤の交互に点滅していた。

「それにしては、解答者席がないの。それともこの国では席はフリーなのかや」

「椅子そのモノがないクイズ番組とかあまり……いや、ない事もないけど、そういうのって普通、多人数の場合だよな」

 それに、そもそもクイズ番組とは違うような気がする。

「……何か見覚えがあるんだよなあ、アレ」

「奇遇じゃな。妾もじゃ」

 何だろう、すごく馴染みがありそうなのにそれが何なのか思い出せない。

「ちなみに、クイズ番組ではありませんよ。演劇です」

 と横から教えてくれたのは、ペンドラゴンさんだった。

「まさか二日連続で演劇を観る事になるとは思わなんだのじゃ」

「演目は、レパ……あ、いや、ソアラさん?」

 口元を押さえるペンドラゴンさんから、ソアラさんに説明役が代わった。

「これは一種の実験的な劇でして、一般公開するかどうかは不明なんですよ。ある種、ちょっと派手なリハーサルみたいなモノと考えて下さい。そしてその演目ですが……ニワ・カイチと青き翼のチルミーのお話はもうご存じですね?」

「当然じゃ」

 もちろん僕も、憶えている。さすがに昨日今日、それも実地で学んだ話を忘れるほど、記憶力は落ちちゃいない。

「戦闘中に消失したって話ですよね。そして、しばらくしてニワ・カイチだけは戻って来た」

 だが、その詳細は不明のままだ。

 その間に何が起こったのか、どうやって戻って来たのかは、現在でもまったく分からないままでいる。

 ふん、とソアラさんの横から、ジョン・タイターが現れた。どうやら作業は終わったらしい。

「そう、これはその消えていた二人の間に起こった出来事を語る劇でな。つまり、連中は遙か未来にタイムスリップしていた! そしてそこで戦いが繰り広げられたのだ! という内容だ」

「……何か、その紹介だと恐ろしく陳腐ですね」

 途端に、ジョン・タイターは苦虫を潰したような顔になった。

「別に俺が考えた訳じゃ……訳じゃ……」

「脚本はこの人、ジョン・タイターさんという事になっています」

「なっているんだ……何故かな」

 ソアラさんの紹介に、ジョン・タイターは深々と溜め息をついた。心なし肩も落ちている。

「そのように、血反吐を吐くように言わんでもよいと思うのじゃが……」

 ケイが頬を掻き、その後ろにいた白戸先生が手を挙げた。

「一ついいだろうか。俺もユフ王の物語なら一通り知っているが、そも何故、この時代に飛ばされた? その辺の解釈はされているのか?」

 その疑問に、ジョン・タイターは肩を竦めて答えた。

「それを言えば、どの時代なら納得するのか、という話になるな。飛ばされた要因については、時空を操ると言われていたチルミーの力の暴走という事にしている。千五百年前の戦いの最中、頭にあった飛び出た一房の毛、これを奪われたのが痛かった。能力を制御出来なくなり、ニワ・カイチを巻き添えにこの地にやって来た……という筋書きだ」

 そして、とジョン・タイターは付け加える。

「その途中、チルミーとニワ・カイチははぐれてしまった。チルミーは今から数日前、ヒルマウントの地に墜落した。そしてそこにあった青羽教の支部に保護された」

「待て、現実にあった事件も絡めるつもりなのか?」

 白戸先生が目を剥いた。

「そう、支部が潰され、彼はグレイツロープ、ラヴィット、シティムと渡り、そして今この地で追い詰められた」

 ジョン・タイターが話を区切る。

 その視線を追うと、いつの間にか園咲女史が離れた場所で獣人……アヌビス・クルーガーと何やら話をしている光景が目に入った。

 園咲女史は何度も頷き、やがてこちらに駆け寄ってきた。その後ろを、アヌビスがついてくる。

「ん、園咲、話は終わったのか」

「は、はひっ! 無事に、その、何とか……!!」

 園咲女史がアヌビスを振り返ると、彼女は澄ました顔で一言だけ。

「問題は、ない」

「で、でで、です」

 ガクガクガク、と園咲女史が何故か緊張した面持ちで、肯定を繰り返す。

 ふむ、と白戸先生が顎に手をやり、首を傾げる。

「そういえば君は獣人だが……それに、金髪の子もいるな。園咲、お前を青羽教から助けてくれた言うのは……」

「た、た、ただの偶然ですよ!?」

「そうか……まあ、お前が言うのなら、別に構わんが……」

 どうも深く追求してはいけない雰囲気のようで、白戸先生も黙ることにしたようだった。

 そして、話の続きを思い出したらしい。

 再び、ジョン・タイターに向き直る。

「すると、ニワ・カイチはチルミーよりもずっと前に、この時代に落ちて来たという事か。そうでなければ、青羽教の支部がこのタイミングで襲われるという事はないだろう」

「いや、それは単なる偶然じゃないのか? そういう事もあるだろう。たまたま、謎の襲撃にあって、チルミーが渡り鳥よろしく各地を移動した。苦しいかもしれないけれど、誰が襲撃したかはこの演劇の本題じゃない。俺の説明は、とにかくチルミーのルートはこうだった、というだけにすぎないからな」

「む、う……」

 ジョン・タイターの説明に、腑に落ちないという表情を見せる白戸先生。

 それをフォローするように、ジョン・タイターはメモを取り出し、何やら書きだした。

「だがまあ、そこの指摘は手直しの必要があるな。合理的な説明があった方がいい」

「ああ」

「例えば五日前、ユフ王の墳墓が中から荒らされたという事件があったな。そう、実は襲撃者はユフ王その人だった、とかどうだ?」

「罰当たりも甚だしいな!?」

 たまらず白戸先生が叫ぶ。

「何、戯言の中から新しい物語が生まれることはよくある。そうなってくると問題になるのは、この時期にユフ王が甦るのは偶然かって話だ。それでもいいが、そうだな……例えば龍のレパート。龍は長寿という話だ。もしかすると千五百年前から今まで生きていてもおかしくはない。彼女が、王復活のための何らかの儀式を行なった、とかどうだろう」

 ジョン・タイターの話を聞きながら、何故かソアラさんが苦笑いを浮かべていた。

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