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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
144/155

皇帝夫妻の私室

 玉座の左手から、僕達は皇帝と皇妃の私室に入った。

 要するに寝室である。

 天蓋付きのベッドを始めとした見るからに高級そうな家具。

 ただ、残念なのはそれらが皆、金箔でコーティングされているという点か。個人的にはちょっと悪趣味だ。

 そしてそれとは別に気になる点が、一つ。

「……こういうのってさ、普通は王様の部屋とか復元しないものかな? この場合はユフ王治政の城内って意味で」

 皇帝の居城は、ユフ一行との戦いの後、修復されて長らく王城として機能していた。

 ならば、ここは皇帝の私室としてではなく、ガストノーセンの王家の私室になるべきではないのだろうか。

「まあ、そうじゃの。しかし、王の遺言でここを破棄する時は、前皇帝の居室を再現するようにとあったそうじゃ」

「何でまた、そんな面倒な」

 まさか、死者を尊べ、という話でもないだろう。

 こう言っては何だけど、尊ぶ対象として間違っていると思う。

「妾達ですらそう思うのじゃから、当時の職人達はもっと不可解な気分だったであろうのう。ちなみに先ほどの謁見の間、屋上から幾つも旗が垂れておったであろ。アレもオーガストラ神聖帝国時代のモノじゃ」

「……王様本人が許可してるとは言え、何か国的には微妙な気がする。その帝国に勝ったんだろ?」

「観光資源として活かしたという事ではないかのう。ぶっちゃけタダの城よりは、あの六禍選の間などがあった方が確かに面白いのじゃ」

「それもまあ……そうか」

 建物というのは人が入らないと朽ちるという。

 このガストノーセンの初代国王が仲間と共に駆け抜けた戦場の再現、という事ならば、実際観光客の訪問で毎日賑やかだろう。

 ついでにお金も落としていってくれるので、国庫も潤うという訳だ。

「とまれ、ここが終点じゃ。皇帝と皇妃の私室の感想はどうじゃ」

「絢爛豪華」

 なお、家具が金箔貼りなのは先述の通り、壁紙も金糸が縫い込まれているわで、とにかく目に優しくないお部屋である。

「うむ。さすがアレの親じゃの」

「ユフ王の」

「違う」

 ボケてみたら、一蹴されてしまった。

 半分は正解だけど、正しい答えは言うまでもなく、黄金の皇子オスカルドである。

「眩しすぎて落ち着かないというか、アイマスクでもないと眠れそうにないな、この部屋」

「さすがに暗くなれば……いや、ランタン程度でもきついかもしれぬの」

 通常の光でこれだけ反射して、僕達の目を細めさせるのだ。

 例え灯りの一つでも、煌々と輝くのは想像に難くない。

「ここはここで、掃除係泣かせな部屋だよな。手間的な意味で」

「うっかり宝石の一つをくすねて首を刎ねられた輩がおっても……」

 ケイはキャビネットに埋め込まれている紅玉に視線をやる。

「……無理じゃの。本人どころか家族恋人親戚縁者まで処刑されかねぬわ」

「まあ、皇帝陛下のお部屋だからなぁ」

 そういえば、宝石類も多い。

 宝石箱の中には本物かレプリカか知らないが、色とりどりのそれがひしめいていた。


 城の出口は裏手だったが、そこもまだ城内だった。

 と言うのも、城壁があるからだ。

 城と城壁の間の通路は舗装されており、定期的に多人数用の電動バスが巡回しているらしかった。

 無料のそれに乗り、僕達は正門前に戻ったのだった。


「まだ、ずいぶんと明るいな」

 今度こそ本当に城を出て、僕は青い空を見上げた。

 やや日は傾いているけれど、没するにはまだ何時間かあるだろう。

「結構歩いて、大体三時間弱……ふむ」

「そろそろ気は済んだか」

 どうするかな、と二人で考えていると、後ろから声が掛かった。

 振り返ると、白戸先生だった。

「あ、先生」

 もちろんその後ろに園咲女史と爺ちゃんもいる。

「妾としては、まだ一つ心残りがあるの」

「お、そりゃ奇遇だな。僕もだ」

「まだ、あるのか……」

 僕達の会話に、白戸先生はどこかうんざりしている風だった。

 それをフォローしてくれたのが、爺ちゃんだった。

「まあまあ、そう言わずに。それは時間の掛かるモノなのかの?」

「いや、帰り道にあるんだよ」

「やはりそれか」

 という事は、ケイも同じ事を考えていたらしい。

「ああ、まあ見て帰れるんなら、悔いのないようにしときたいなってレベルなんだけど」

「うむ、気になったまま飛行機に乗っては、眠れぬかもしれぬしの」

「その……気になるモノって何ですか?」

 控え目に手を挙げたのは、園咲女史だった。

「それが妾達にも分からぬ」

「ツインサム寺院ってトコでイベントやるらしいんですよ。ソルバース財団が」

 ただ、内容はケイも言った通り、不明なのである。

 だから、()()()()程度なのだ。

「それは確かにちょっと気になりますね」

 はい、と園咲女史も興味を抱いたようだった。

「おい」

 ミイラ取りがミイラになる……じゃないけれど、確実にこちら側になりそうな仲間に、白戸先生は声を上げる。

「まあ、要は帰り道なのじゃろ? 幸いまだ日も高いし、歩いて駅まで戻っても問題はなかろうて。そのついでじゃ」

「そう、ついでです」

 爺ちゃんと僕は、生真面目な表情で頷いた。

 それを見て、白戸先生は溜め息をついた。

「……何というか、その顔に血筋が見えるぞ」

「いわゆる隔世遺伝じゃの」

 うむうむ、とケイが納得していた。


 そんな訳で帰り道。

「イベントという割には、それほど混雑しているようには見えないな」

 人の行き来はもちろんあるけれど、それはあくまで大きな都市では平均的。

 イベントに向かう……という気配の人間はほとんどいないように感じられた。

「ですね。町の人も気がついていない感じがします」

 園咲女史もちょっと不思議そうに首を傾げる。

「もしかすると内々のイベントの類じゃったのかもしれぬの。ならばやはり、妾が聞きに行って正解だったではないか」

 ふんす、とケイが胸を張った。

「はいはい。確かにえらいです」

「ここからツインサム寺院ですと……それほど遠くなかったですよね?」

 園咲女史が、爺ちゃんの広げていた地図を覗き込む。

「ふむ、歩いて五分ちょいと言ったところかの。ま、健康には良いわい」

「うん、あまり歩くと、また腹が減ったとか訴える奴が出るし、これぐらいがちょうどいい」

「ぬお、ススムよ。あそこに旨そうな揚げ芋を売っておるぞ!?」

「って言った傍からこれかよ!?」

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