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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
143/155

空の舞い手ノインティル

「皇妃っていうとアレか、パラメーター操作のチート持ち」

 イフでのマホト川の戦いで、応援に来ていた女性だ。

「ぶっちゃけると、そういう力を持っておったと言われておるの。ついでに言えばユフ王の実母故、不死でもあったという」

 パラメーター操作というのはつまり、RPGで言えばレベルカンスト、MP(マジックポイント)は実質無限で魔法使いまくり、所持金にも困らない。

 しかもそれは、自分以外にも通用する。

 要するに恐ろしく強くて、おまけに相手を弱体化させることが出来、しかも不死。

 普通なら勝てない。

「でも、負けたんだよな」

「うむ、負けたの。でなければ、お話が終わらぬ」

「……どうやって負けたんだ?」

 最大の問題は、それだ。

 ケイは額に指を当て、うーん、と唸った。

「それが、パンフレットにはあっさりとここがユフ一行が勝った部屋としかないのじゃ」

 絢爛豪華な謁見の間を、ケイは見渡す。

「ニワ文庫には載ってるのかな」

「それならば、その資料があるぐらいの紹介、このパンフレットはしておるじゃろ。何ぞ、ノリノリの文章じゃぞ」

 そう言ってケイは、パンフレットのページを開いて僕に見せた。

「って渡されても読めないんだって……何だこのミッチリ文章!? ブラウザバック!」

 パンフレットのページは、細かい蒸語の文章で埋まっていた。

「いやいや待て待て何じゃその専門用語。ブラバ?」

「あれ、知らない? 小説サイトとかで『あ、これは駄目だ』と思ってすぐ戻るボタンを押すのをこういうんだけど」

「たまにお主、為になる事を話すの。憶えておくのじゃ」

「うん、今さりげなく普段は毒にも薬にもならない事しか言わないってディスられた気もするけど、忘れることにする。ともかく、これは……まあ、預かっておこう」

 どうせケイは内容を全部憶えているし、僕はパンフレットを自分の鞄にしまった。

「ま、パラメーター云々は別にいいんだよ。ユフ一行も大概だし、確か教会の聖印だかで、デバフ系も役に立たないんだろ? 問題は、ヒットポイントの欄が存在しない相手にどうやって勝つかだろ」

 一つのゲームとして、ケイに提案してみる。

 要するにチート持ちの皇妃を相手に、どうやって勝つかの仮想戦闘だ。

 なおデバフ系というのを説明すると、敵を弱らせたりする補助呪文である。逆にバフ系は主に自分や味方を強化する呪文類を指す。


 三枚目の絵画には中央に皇妃が描かれていた。

 金髪碧眼で白いドレスを着ている。豊かな胸がやたら特徴的だ。

 パッと見、とても邪悪な女性には見えない。でも傾国の美女ってのは案外こういう人なのかもしれない。

 そして、その後ろには禍々しい龍……ただし、その身体は傷だらけの血まみれであり、目にも生気がなかった。

「……うわ、グロ注意じゃないかこれ」

「いわゆるドラゴンゾンビじゃの」

 ただし、死んだばかりなので、腐ってはいない。

 ケイによるとこれと先の龍と化した皇帝の絵は、後に描かれたモノだという。

 ……まあ、目の前で描いてたら、画家も死ぬよね。

「皇妃、まさかの死霊使い(ネクロマンサー)

「というかこの皇妃の場合、単に戦力として欲しただけで、別に職業が死霊使いという訳でもないと思うのじゃが」

「……まあ、イメージ的に一番しっくり来るのは『魔女』だよなあ」

 パラメーター全操作なら、クラスもスキルも取り放題だ。

「うむ。こちらのドラゴンゾンビに対しては、倒すのに苦労はしても苦戦はしなかったそうじゃ」

「あ、そっちの描写はあったんだ。でも、苦労と苦戦は違うの?」

 いや、違うか。

 例えとして適当かどうかは分からないけど、敵の攻撃がこちらに通じず、苦戦はせず倒すだけだったとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「うむ。何故かニワ・カイチが用意していた聖なる武器の数々を手当たり次第にぶつけ、倒したとあるの。その辺りは大変だったそうじゃ」

「ちょ、そんな伏線どこにあった。いくら何でも御都合主義過ぎるだろ」

 事前に、そんなモノを用意出来るはずがない。

 購入したって言うなら、その説明ぐらい、事前にあるだろう。

「武器の調達は、シティムの大聖堂とセイスイバン大工房からじゃ」

「あ」

 シティムの大聖堂。狼頭将軍と白々しきワルスの決戦の地。

 セイスイバン大工房。ユフ・フィッツロンと黄金の皇子オスカルドの決戦の地。

 どちらも、僕達は通った場所だ。

 確かにその二つなら、聖なる武器があってもおかしくはない。

「え、それ伏線だったの……?」

「妾としてはやはり、一時失踪したニワ・カイチには何かがあったとしか思えぬのう。もし最初から必要と分かっているならば、最初の皇帝城突入時に用意しておるじゃろ」

「いわゆる現地調達だしなぁ」

「それも、セイスイバン大工房にあった聖なる武器など、奥に隠してあったそうじゃぞ。とにかくそうした武器を持ち込んだことにより、ドラゴンゾンビは時間を掛けつつも、ほぼ無難に倒せたという」

 それとほぼ並行して、皇妃ノインティルとの戦いだ。

 その異名は空の舞い手。

 名前の通り、空を飛ぶ魔術を得意としていたらしい……が、これは龍のレパートがいれば解決する。

 とすると、皇帝のドラゴンゾンビを狼頭将軍クルーガーと魔法使いニワ・カイチが。

 ノインティルを、レパートの背に乗ったユフ・フィッツロンが相手取っていた、と考えるのが妥当だろう。

 ただ、皇妃最大のアドバンテージである不死。

 これをどうにかしなければならない。

 ユフ・フィッツロンも同格とは言え、仲間達はそうではないのだ。

 例えるならHP(ヒットポイント)欄がない状態だ。

 これをどう解消するか……と考え。

「……今思ったんだけどさ、パラメーターがないなら作ればいいんじゃないか?」

「む?」

「だって軍隊相手に数人で無双したり、三次元を二次元に出来るような魔法使いなら、そっちの方が簡単じゃないか? お前、ハード方面は強いけどソフトの開発としてはどうなんだ?」

「…………」

 ケイが顎に手を当て、考える。

 さすが樸の数十倍は頭の回転が速いだけあって、すぐに結論は出たようだ。

「……出来るかもしれぬの。いや、確かにそちらの方が難易度は低い。あくまでプログラムとしての話じゃが」

 パン、とケイは小さな手を打ち合わせる。

「つまりそれは、命という概念がないモノに、()を与えると言う事ではないのかの」

「無から有を生み出すってのなら、それぐらいは可能だろ。となると残る問題はただ一つ。ガチの実力差かな」

 皇帝が『ぼくのかんがえたさいきょうのせんし』なら、こちらは『ぼくのかんがえたさいきょうのきゃらくたー』だ。反則もいい所である。

「四対一じゃぞ?」

「だからこそ、消耗させたんじゃないか。一応城内に入ってからも戦いはあっただろ。例え雑魚でもユフ一行に薬草の一つも消耗させりゃ役目は果たしてる。その上で、六禍選との個別戦闘、皇帝との二戦。一行は消耗している。対して、皇妃は無傷でドラゴンゾンビの駄目押しも加えた。まあこれは、あんまり意味がなかったみたいだけど」

「……皇帝が可哀想になってきたの」

「ま、真のラスボスなら範囲攻撃の一つや二つは軽いだろ。一向が複数でも、それはあんまり意味がない」

 むしろ、範囲攻撃で減っていく仲間の体力の回復に気を取られ、ジリ貧に陥る……なんてのは、ボス戦ではよくある話だ。

「つまりガチの勝負をどうやって勝ったか……じゃの」

「性能としては魔術師系レベルカンスト。もしかすると他の職業も弄ってるかもしれないな。でも、そこの資料がないんだよなあ」

「うむ」

 ユフ一行は強いチート持ちとはいえ、基本性能としては皇妃の方が上だろう。

「お主ならどうする?」

「魔術師相手なら、呪文を使えなくさせるのが鉄板なんだけど」

 絵の女性を見た感じ、装備は薄い。

 性格的なモノもあるのかもしれないが、やはり戦士系ではなく魔術師系。回復も(ポーション)よりは回復魔術を使う……と考えても、問題はないと思う。

 ならば、それを失わせれば、勝機は出て来る。

「ボスに呪文封じ系はまず、通じぬ」

「だよなあ。ま、あとはMP(マジックポイント)自体をゼロにするとかも、手かもな。具体的にどうするかは、僕は知らん!」

「威張っていう事ではないの!!」

 ただ、魔法使いならそれを可能とする方法を見つけるかもしれない……なんて投げっぱなしの結末で、僕達の話は終わった。


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