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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
139/155

黒と緑と銀

 次に訪れたのは、玄牛魔神ハイドラの部屋だった。

()()()、普通だ」

()()()、普通じゃの」

 一見した感じ、部屋は黒ベースである事を除けば、それほどおかしくはない。

 家具だってソファとテーブル以外に、大きなキャビネット、部屋の主に合わせた大きな姿見、クローゼットにも服が並んでいる。

「でもこれ、魔術師の部屋じゃないよなあ」

 壁には交差された一対の斧、飾られた黒塗りの全身甲冑、暖炉の上には見事なスークの剥製が飾られている……けど、これ自分で仕留めた物では無かろうか。

 床のカーペットにしても、巨大な黒虎の敷物である。

「明らかに武将の部屋じゃ。……というか、寛げる部屋ではない気がしてきたのじゃ」

 よく見ると、クローゼットの衣服の下にはダンベルがあった。

 部屋の隅にあるクッションかと思ったモノは……サンドバッグではなかろうか。

 ワインか何かの瓶がいくつかあるけど、中には砂が詰まっている。

 あれ、何か普通じゃなくなってきた。

「……これ、もしかしてトレーニングルーム?」

「それじゃ」

「つか六禍選はホント、まともな奴がいないな!?」

「落ち着くのじゃ、ススム。突っ込み魂が騒ぐのは分からぬでもないが、少なくともさっきの二人よりは遙かにマシであろ」

「どっかにプロテインの入った壺とか、あるんじゃないか?」

 キャビネットにあるのは小瓶類だ。

 魔術師らしいけど、逆にこの筋肉部屋では違和感を感じてしまう。

「魔術師は古来より薬師でもあったというからの。その類の薬品はあってもおかしくなかろう」

「書物がほとんどない……」

 そう、この部屋には本棚がなかった。魔術師の部屋なのに。

「それはあれじゃ。おそらくすぐ近くにあんな立派な図書室があるのじゃから、そちらを利用したのではないかのう」

「ああ、確かに汗で本が湿りそうだもんなあ」

 何だか、当時の雄の臭いまで感じられるような錯覚を覚えた僕であった。


 玄牛魔神ハイドラの部屋を辞して、次に入ったのは緑色の間。

 草隠れのドルトンボルの部屋だ。

「ここは、ちょっと広いな」

 他の部屋も、僕の知っている太照の一般的な『部屋』に比べると広かったけれど、ここはそれらと比べてもその倍はあった。

 ソファも多く、明らかに個室ではない。

「基本、チームで動いておったそうじゃから、それが理由であろ」

「ああ、そうか。そういう戦い方だったっけ。おまけに二つも部屋があるなんて、贅沢だよな」

 他の部屋は基本一室だ。その点でも、この部屋は破格だ。

 クローゼットは別にあるので、城に詰める為の寝室だろうか。

 扉は開いているので、覗いてもいいのだろう。

 ……見てみると、何だか雑な造りだ。

 床も板張り……どころか、むしろ土間に簀の子のようだし、とにかく部屋には棚ばかりが目立つ。

「いや、そちらの部屋は厳密にはこちらでいう所の『部屋』ではないそうじゃぞ」

「え?」

「保存庫じゃ」

「保存庫!?」

「地下にはワインセラーもあると書いてあるのじゃ」

「ワインセラー!?」

 言われてみれば、簀の子の一部が切り取られ、地下への扉らしきモノが床にあった。

 改めて部屋を振り返り、見渡してみる。

「まさか……!」

 やっぱりあった。

 分厚いブロックのようなテーブルは、いわゆるキッチンだった。

 へこんでいる部分は、水洗い用だろう。

 暖炉はオーブン代わりになるのだろうか、鉄製の器具が近くに立て掛けられている。

「さすが食通ドルトンボル。どうやら、己で料理もするようじゃのう」

「これはこれで、生活感溢れすぎてやしないか」

「なお、あそこにある書物の多くは手製のレシピ集らしいのじゃ」

 と、ケイは本棚に並んでいる、分厚い書物を指差した。

「徹底してるな……」

「故にここは水回りも完備、そこの棚には食器類も揃っておる。ドルトンボルの部下達は、料理の味見役も兼ねておったとあるの」

「……実は、ドルトンボルは料理がすごく下手だった、とかいうオチは?」

「いや、むしろ逆じゃ。彼の者の料理を食べるため、直近の部下になろうという者が後を絶たず、熾烈な競争が繰り広げられていたそうじゃ。なお、料理の一部は皇族用のメニューにも加えられていたというから、腕前は本物だったのじゃろうのう」

「涎、涎」

「おっと」

 想像だけで、口に唾液が溜まったらしいケイが、慌てて口を拭う。

「ごめん、ここの住人、暗殺者ってイメージから料理人にクラスチェンジしてる」

「ある意味、ここもまともではないの」

 ホントまともな人はいないのか、ここ。


「……あれ?」

 次は白々しきワルスか、黄金の皇子オスカルド……と思ったら、全然違っていた。

 色は銀色。

 といっても、鉱物としての銀ではなく、銀色に輝く鉄製の部屋というべきか。

 天井からは幾つも鎖が垂れ下がり、床には人がスッポリ入れそうな長方形の穴。

 何か重いモノを運ぶのか、大きな台車もある。

 壁の一面は上開きになり、おそらく仕掛けでスロープが出来るのだろう、外に出られるようになっていた。

 ソファだのテーブルだのは部屋の隅に追いやられている。

 これは……。

「銀輪鉄騎のダービーの部屋じゃの。つまり、六禍選入り()()だった者の部屋という事じゃ」

「狼頭将軍、この部屋に来る前に離脱しといてよかったのかもな」

 狼頭将軍ケーナ・クルーガーは、ユフ王陣営に属する前はこちら側、つまり銀輪鉄騎のダービーだったのだ。

「相当複雑な心境になったのは、間違いないの。もちろん、この城がユフ一行によって陥落(おと)された後に、訪れはしたのじゃろうが」

「個室というか、ガレージだよなあ」

 天井からプラプラとたれ下がる鎖を眺めながら言う。

「狼頭将軍ではなくダービーとしては、あの二輪騎馬が重要じゃったからの。その整備の為の施設も兼ねるつもりであったのじゃろう」

 キャビネットは開かれ、様々な工具らしきモノが並んでいた。

「個人的には、こういう秘密基地みたいな部屋は嫌いじゃないんだけど」

 他の部屋より若干手狭なのも、むしろ好感が持てる。

「男の子じゃのう」

「……問題は、部屋の住人は女の子の予定だったって事だ」

「洗脳されておったから、その辺り気にしなかったのかもしれぬの」

「この辺の工具とかは、現代から見るとよく分からないな。ただの棒とか、何に使うんだ……」

 スパナっぽいのやらペンチっぽいのはまあ、分かるんだけど。

「妾達には想像も付かぬ使い方をしておったのか、もしくは魔法の道具だったのかもの」

「それにしても、まさか現在の……いや、違うか」

 ちょっと訂正する。

 現在というと、大変ややこしい。

「最後の六禍選以外の部屋もあるとは思わなかった」

「ふむ……確かもう一つ、あったはずじゃぞ」

 ケイは思い出すように、自分の頭を指差した。

「え、残り白と黄金色だけじゃなくて?」

「最後の六禍選にその称号を譲りながらも、動いておったのが二人おったであろ? ……深緑隠者ディーン・クロニクルともう一人」

 ディーン・クロニクルは主に外で研究をしていたから部屋はないのだという。

 もう一人。

 そういえばいたなあ、すごく傍迷惑っぽいのが。

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