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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
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白への対抗策

 順路を進み、階段を下りると大きな廊下に出た。

 どれぐらい大きいかというと、六車線ぐらいはある。

 ……廊下の右から左へ移動するだけでも、一苦労だろう。

 等間隔で細かい彫り物を施された柱が並んでおり、これも決して細くはないのだが、廊下自体の大きさを考えるとどうしても頼りなく見えてしまう。

 そして、左右の壁には、絵画や彫刻が飾られていた。

「下手な美術館よりも立派だな……」

 ゆっくりとそれを眺めながら、僕らは廊下を進んでいく。

「上手い美術館というのは、どういうモノなのじゃろう」

「揚げ足を取るな、揚げ足を」

 金色の額物に飾られた大きな風景画で、足を止めてみる。

「ふむ、この絵はアレじゃな。多分立派なのじゃろうな」

「……うん、多分ね」

 ケイの判断基準もおそらく、僕と同じく額縁と大きさだろう。

「お互い、芸術関係には造詣が浅いのう」

「感性とか、やっぱそういう施設通ってなんぼとか、自分で創作したりとか、そういうのが必要なのかもな。とりあえず、高そうなのは分かる」

「俗物的発言なのじゃ……」

「というか、それぐらいしか分からないよ。まあ、人物は分かりやすいね。皇帝と皇妃と皇子とか」

 僕は隣の、やたら目立つ絵を指差した。

 具体的にどう目立つかというと、その人物が光っているのである。

「……凄まじく浮いておるの、皇子」

「一人だけ光輝いてるからねぇ」

 このモチーフの時は、サングラス必須だと思う。

 なんて毒にも薬にもならない批評をしながら、僕達は廊下を進み続ける……けど、一向に終わりが見える気配がない。

 待て、この城どれだけ巨大なんだ。

「なお、この通路をどう思うかや?」

「広い」

「うむ。他には」

「さすがにお前でも迷いようがない」

「大きなお世話なのじゃ!?」

 何せ、分かれ道は全くないからなあ。

 そういう意味では、迷子の心配だけはしなくていいのだ。

「じゃが、一直線という点の指摘は正しいのじゃよ。ここまでで二人離脱し、ここで白々しきワルスが待ち構えておったという」

「つまり……」

 僕は、大聖堂でのエピソードを思い出した。あそこで白々しきワルスは死に、その時の対戦相手は……。

「……狼頭将軍クルーガーとの戦いって訳か」

 そこで、ちょっと首を捻った。

「ふと疑問に思ったんだけどさ、兵士とかどうなってたんだろうね。いくら隠し通路使って侵入したとは言え、いくら何でも敵だって気付いてただろ」

「そりゃそうじゃ。じゃが考えてもみよ。目にも留まらぬ速さで動き回る戦士やら、言葉一つで人を殺せる子供やらの戦いに、どうやって参戦するのじゃ」

「僕なら絶対嫌だな」

「妾だって嫌じゃ」

 仮に戦闘スキルなるモノを僕が有していたとしても、ごめんである。

 自慢じゃないけど、性格的に戦いとか苦手なのだ。

 ただ、城の兵士達はそうも言っていられないだろう。……が、中心となって戦う二人の次元がまるで違うとしたら。

「……仕事、といってもそもそも幹部の仕事の邪魔をしてちゃ、駄目だしなぁ」

 ついでにもう一つ、疑問をケイにぶつけてみる事にした。

「ところでさ、先に倒し方は外で分かったけど、根本的な問題として白々しきワルスの『言葉』を防ぐ手段ってないんじゃないか? 『死ね』って言ったら死ぬんだろ?」

「そうじゃが……お主のような迂闊な使い方をすれば、周囲の人間動物植物、軒並全滅してしまうのではなかろうか」

「え、そ、そうなのか?」

 困惑する僕に、ケイが教えてくれた。

「『死ね』では主語(ターゲット)がないじゃろ。誰が死ぬのじゃ、何が死ぬのじゃ。標的を定めねば、おそらく聞こえた範囲無差別じゃろうて」

「……おっとろしいな」

「最悪、自分も死ぬのじゃ」

「ホントにおっとろしいな!?」

 なんつー物騒な力だ。

「コレは想像じゃが、子供の頃からこんな能力持って追ったら、確実に性格歪むじゃろうのう。基本、自分の願望口に出した時点で、よくも悪くも大抵の事は叶ってしまうからの」

「?」

 ちょっと、よく分からない。

 眉を寄せる僕に、ケイが更に説明する。

「例えば自分の親に、『構って』とお願いすれば叶うのじゃ。親の愛情とは別にの」

「僕にはきつい例えだな。重い話は却下で頼む」

「うむ。それでこうした声に対する対策じゃが、一番シンプルな方法は耳栓じゃの」

「身も蓋もないな!?」

 そりゃ確かに、言葉で人を虜にする類の相手にはすごい有効だろうけど。浪漫がまるでない。

「もう一つ、実は狼頭将軍クルーガーにしか出来ぬ対策というのは、妾にも想像出来たのじゃ」

「それは、パンフレットには書いてなかったのか?」

「うむ、伝承には通じなかった、とだけなのじゃ。が、博士の説として書いておった。妾と同じ推測じゃの。これは狼頭将軍の特性を考えると有り得るし、そも当時ではこの考え方自体がおそらく出来なかったのじゃろう」

「焦らすなぁ」

 ずいぶんと回りくどい言い方だ。

「狼頭将軍クルーガーの特性は、超高速移動じゃ。つまりの、音より早いのじゃ」

「……音速超えるなら、そりゃ通じないに決まってるね」

 音を超える、すなわち声が届くより先に動けるのだから理屈は合っている。

 それに音速という概念が、千五百年前にあったかと言われると、確かに疑問だ。

「ただ、白々しきワルスも隠し球を持っておっての。『人を超えろ』という自己暗示。これによって将軍と同格の戦闘力を身につけておったという。そして、二人の戦いの痕跡が――」

 ケイは廊下の左右を見回し、逆の壁を目指した。

 ちなみに僕達がいたのは左側の壁であり、右側に行くにもちょっとした運動である。

 僕も、ケイの後ろをやや駆け足で追う。

「――これじゃ」

 ケイが指差したのは、大型トラックが突っ込んで出来たような亀裂の入った壁だった。

 こちらの壁は外に通じており、等間隔で窓が並んでいる。

 ただ、この一画だけ、やけに分かりやすく補修の跡があった。

「破壊跡?」

「じゃの。ユフ・フィッツロンを先に行かせるため、将軍が開けたと伝わっておるようじゃの」

 開けっ放しという訳にも行かず、ひとまずこれが修繕の跡なのだという。

「どこのバトル漫画だコレ」

「ここで狼頭将軍クルーガーが離脱し、いよいよユフ・フィッツロンは一人で城を探索する羽目になったという事じゃ」

「城一つ分の兵士VS一人とか、無茶すぎるだろ……」

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