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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
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待ち受ける幹部達

 狭い螺旋階段を昇ると、僕達は広間に出た。

 いや、部屋こそ大きいモノの、絨毯の敷かれたこの部屋は来客数人向けの個室であるようだった。

 中央に木製のテーブル、向かい合わせのソファ、壁の一画には絵画に暖炉。

 どれも高級そうだ。

 僕達が出て来たのは、部屋の隅にある太い円柱だった。

 柱の中が空洞になっており、そこが螺旋階段になっていたのだ。

「ここは、応接室の一つのようじゃの」

「隠し通路として使うなら、当然か」

 それなりの部屋とはいえ、あまり頻繁に利用されそうな感じじゃない。

 要するに内装に金は掛かってるんだろうけど、全体で見ると地味な部屋だ。

 それはケイも同意見であるようだった。

「まあ、城の中にあからさまに脱出口なぞ、造れぬわな」

「でも脱出路の使い方から考えると、ここって玉座と近いのかね?」

 そうでないと、えらい人が敵に攻め込まれたりの緊急避難時に使用する、という用途からは外れてしまう。

「ここはむしろ、皇帝達の寝室から逃れる場合のルートのようじゃの。もっとも、そちらに直接は行かぬぞ。近道しては探索の醍醐味もなくなってしまうのじゃ」

「……そりゃ、もっともだ」

 ちょっと見では分からないけれど、何か壁の一つがどんでん返しになっているらしい。

 いや、即座に分かるような造りだったら、それはそれで困るか。

「ちなみに当時は一方通行だったそうじゃ」

 こちらからは、押しても駄目、という事か。

「ユフ王らなら、蹴破れそうな気もするけどね」

 そして、皇帝の間まで一直線。

 これがゲームなら色々台無しだ。

「……一応、同レベルの敵がおって、その連中が作った罠が用意してあったそうじゃが」

「…………」

 頭の中に、コマンド選択式のゲーム画面が浮かび上がる。

 ボスに皇帝と皇妃、そして残っている幹部四名と同時バトル。

 無理ゲーすぎる。

「それは、通りたくないな」

「うむ」


 ガイドブックには、王城の案内図も当然掲載されている。

「でも実際、隠し通路を通れば、ビックリするぐらい近いな」

 この部屋から三つほど壁を隔てると、玉座に到達するのだ。

「うむ。じゃがそもそも、妾達は城の構造を知っておるが、当時のユフ一行はそれらを知らぬはずじゃて。ここからどう進めばよいのか、分からぬであろ」

 そうなると、扉から出る事になるのは当然だ。

 ただ、別の疑問が僕の頭にもたげてきていた。

「それ言ったら、脱出路自体どうやって知ったんだって話になるんだけど?」

 ふむ、とケイがガイドブックの文字を追う。

「妾達が通ったルートは、ユフ・フィッツロンの養父セキエンの話によるモノじゃという。ユフ王は城から出た場所だけは、教えられておったのじゃろうな。二つ目のルートは何故か、ニワ・カイチが知っておったらしいの」

 二つ目のルートはここより更に玉座に近い、クローゼットの奥のようだ。ほぼ目と鼻の先になる。

「……青き翼のチルミーと消えて、再び現れた間に何かあったんじゃないかなぁ?」

「そう思う根拠は?」

「最初から知ってたら、そっちを使ってる気がする」

 距離が短い、という事は敵に気付かれる可能性が下がるという事だ。

 六禍選が訪れるより前や、もしくは機を伺って皇帝を襲撃する事だって出来ただろう。

「一理あるの」

「そういう所から考えて、つまり最初の侵入時にはニワ・カイチも第二の通路を知らなかった。……例えば、戦闘になってからチルミーから何か聞き出したとか、かな」

「もしくは、想像も付かぬ方法で知ったのかもしれぬの。魔法使いじゃし」

「ああ、魔法使いだもんな」

 何となく、あの魔法使いには、それでもいいような気もしてきた。


 部屋を出ると、そこは城内二階の回廊だった。

 彫刻の彫られた手すりの向こうには、中庭の庭園が広がっている。

 植え込みで出来た迷宮のような造りだけれど、木々の背丈が低いので、子供ならともかく大人なら迷う事はないだろう。

 冬の花なんて僕は知らないけれど、色んな彩りの花が咲いていた。

 そんな庭園を、案内人が先導する観光客達が歩いていたり、庭師が木を刈り込んだりしている。

 何より、僕は自分がいる位置にちょっと感心を憶えていた。

「なるほどなぁ」

「何がじゃ」

「隠し通路を探すなら普通一階から探すから、そういう意味では盲点だなって思ってさ」

「うむ、まさか二階から地下へ移動とは、あまり考えぬな」

「まず真っ先に玉座の後ろとか探したりな」

 古いRPGを思い出しながら、言ってみる。

「当時の皇帝に対してそれやったら、多分頭から囓られてたじゃろうがの」

「そういえば、玉座とかってやっぱメイドとかが清掃してたのかな」

「上級メイドとかきっと、そんなのがいるのじゃよ」

「メイドの世界でも階級差があるのか……奥が深いな」


 そして改めて、中庭を見下ろした。

「これは見事な庭園だ……」

 素人でも分かるレベルの、手間の掛かってそうな造りなのだ。

「……んん?」

 ただ、妙に既視感を憶えた。

 何だろう、と思い出せない一方で、僕はガイドブックをめくっていた。

 そうしたら、あった。

「うむ、妾が言う前によく気付いたの」

「あれってまさか」

 僕は、玄牛魔神ハイドラの黒の館があったという商店街のページを指で押さえ、迷宮庭園をもう一度見下ろした。

 やっぱり、そっくりだ。

「形自体は、後のユフ王の命で当時を保っておるそうじゃの。察しの通り、ハイドラ作じゃ」

「クリエイター幹部!!」

「肉体面では明らかに武闘派なのじゃが、根っ子の部分はやはり魔術師なのじゃのう。紹介によると、この庭園自体が転移装置となっており、あちらの――」

 と、ケイはとある方角を指差した。

「――迷宮に送られてしまうそうじゃ」

「ケイ」

「む?」

「向こう西だけど、お前が言いたいのって商店街だよな?」

「あっちじゃ!」

 真反対の方角を指差し直した。

 コホン、とケイが咳払いをした。

「ホントかどうかは知らぬが、伝承ではここでニワ・カイチは玄牛魔神ハイドラと対決、仲間と離脱する事になったとあるの」

「強制転移かー……事前情報ゼロじゃ、引っ掛かっても無理はないな」

「ほぼ同時に、あの展望塔」

 と次にケイが指差したのは、僕達のいる部屋の向かい、王城の向こうにある尖塔だ。位置的には城壁に造られたモノだろうか。

「ああ、あれ?」

「あそこで羽を休めておったチルミーが急襲、龍のレパートもまたパーティーから離脱する事になったという」

「それが、外の戦いに繋がる訳か」

 黒の地下迷宮付近での、ニワ・カイチVSハイドラの兄弟弟子対決。

 青の館近くでは、龍のレパートと青き翼のチルミーの空中決戦。

「なお、残っているユフ・フィッツロンと狼頭将軍クルーガーは、あっという間の戦力の半減に唖然としておったそうじゃ」

 パンフレットを読みながら、ケイが言った。

「そんな記録も残ってるの!?」

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