表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
133/155

決意

「団体行動を乱したという点は認めるな?」

「クラス全体の、という意味では認めますけど、そもそもはぐれた原因からすると団体行動を乱したのはK原達です」

 僕は、自分が連中とはぐれた事情を説明した。

 まあ、要するに置き去りにされた訳だが、理由は知らない。多分、ただの面白半分だったんだろうとは思うけれど、実際何が面白いのか僕にはサッパリ分からないし。

「そこは曲げられんか」

「本当の事なんで、曲げようがないです。証拠が出せないのがホントに残念です」

「分かっているとは思うが、今の所は完全な水掛け論だからな」

「ですね」

 向こうだって、何らかの言い訳をしているのは察しが付く。ただ、先生の言い方からすると、向こうも人数がこちらよりも多いだけで、ちゃんとした証拠がある訳じゃないんだろう。

 先生の表情からは、僕の言い分がどれだけ通じたか、いまいち読む事が出来ない。

 そして、その考え自体が表情に出たのか、白戸先生はメモを取る手を休めて僕を睨んできた。

「俺はまだ、どちらが正しいとは言えん。それぞれの話をようやく聞けた状態だからな」

「分かっています」

「しかし、ここまでしておいて、仮にレポートを提出したとして、留年を免れると思うか?」

「無理かもしれませんけど、自分なりに筋は通しておきたいんです」

 かも、とは言うものの、実際無理だろうなあとは思っている僕であった。

 その辺はもう、開き直っているのだ。

「筋か」

「正直、もう留年になろうが退学になろうが、知った事ゃないです。それなりに今回の旅行楽しみにしていたのに、面白半分にぶち壊され、カッとなってやったって部分もあります。けどここで僕にとって一番重要なのは一番最初の決意、この旅を全うしようって事です。それは今も、変わっていません」

 胸に手を当てて考えてみる。

 ここでやめて、先生の保護下、帰国の手順を踏むというルートもある。

 けど、まあ、ないな。

 その道に踏み込んで残るのは、中途半端でこの旅を終わらせてしまったという後悔だけだ。

「つまり、帰る意思はないと」

「ありますけど、それは半日待って欲しいです。あと、レポートはちゃんと提出します」

「ずいぶんとムシのいい話だとは思わないか? 駄目だと言ったら?」

「ここで先生を殴り飛ばして、逃げます」

 白戸先生の目が、わずかに細まった。

「一応、俺には武道の心得があるんだが」

「手段は選んでいられませんから」

 と、そこで爺ちゃんがケイの手首を押さえた。

「おっと嬢ちゃん、そこのフォークから手を離しておいてくれんかの」

「ぬ、さすがじゃの」

「って本気で手段選ばないつもりか、お前ら!?」

 舐めてもらっては困る。

 これでも文字通り、寝食を共にした関係だ。

 この程度の息ぐらいは、合わせられるというモノである。

「武道の心得のある人間が、ロクに運動神経のない人間を制しようって言うんですよ? だったらこっちも()()卑怯な手ぐらい使います」

「ちなみにスプーンで眼球抉り取るという手も、一応考えてはおったのじゃが」

 ひょい、と空いている方の手には、いつの間にかスプーンが握られていた。

「いやいや、そこまですんなよ怖いよ!?」

「決心は固いという事か」

 わずかに表情を引きつらせ、白戸先生が尋ねてきた。

 こちらとしては肩を竦めるしかない。

「毒食らわば皿までって奴ですよ」

「なるほど……少し待ってろ」

 言って、先生は腰を浮かせる。

 何をするのか気付いたらしいケイが、先んじてそれを止めた。

「おっと、連絡もちょっと待って欲しいのじゃ」

「そういう訳にはいかん。保護者への連絡は、俺の務めだ」

「いやいや、妾達は逃げも隠れもせぬし、どういうルートを通るかも説明する。が、ここを出てそうじゃの、十分待ってもらいたいのじゃ」

 ケイの奇妙な交渉に、先生の眉が少しひそめられた。

「その十分に、何か譲れないモノがあるのか?」

「ブックメーカーで賞金を受け取らねばならぬ。先に連絡されては、妾達の取り分が取り消されてしまうかもしれぬからの」

「そういや、その可能性があったな。あ、ちなみにこの金で、国に帰る予定でした」

 胸ポケットからブックメーカーの賭博票を出した。

 ケイも同じくだ。

 これが成立すれば、それなりのお金が懐に入る。

「予算的には、余裕だったの」

 振り返ってみれば、金銭面ではそれほど苦労しない旅立ったような気がする。

「なかなかに逞しいコンビじゃのう」

「ふてぶてしいとも言いますな」

 爺ちゃんが皮肉そうに笑い、白戸先生は再び席に腰を下ろした。

「まあ、それぐらいはいいだろう。それと、保護監督責任からここからは俺もお前達と一緒に行く事になる」

 正直、この提案には「えー?」となった。

 別に先生が悪い訳ではない。

 目上の人が一緒だと、どうしても息苦しさを憶えるって事は、誰にだって覚えはあると思う。

 ただし。

「む、それは緊張するの」

 コイツは別だ。

「嘘つけ。僕はともかくお前が教師相手に緊張なんてする柄か」

「そんな事はないのじゃ。これでは迂闊に寄り道も出来ぬではないか」

「さりげなく僕舐められてるよね、それ!?」

 僕らのやり取りに、爺ちゃんが軽く息をついた。

「ま、監視せざるをえんじゃろ。お前達はいつも通りにやればええわい。儂らがその後を追おう」

「ちょっ、お爺さん!?」

 爺ちゃんの提案を、白戸先生が咎める。

 けれど、爺ちゃんはいつもの温厚な笑みを浮かべたまま、主張を覆す様子はない。

「まあまあ、固い事を言いなさんな。本人も言っておったように、もはや意地でここまで来たんじゃ。今更目的から外れるような事はせんじゃろ」

 何気にこの笑いと押しの強さって逆らいにくいんだよなあ。

「僕としては、これの脱線が怖いぐらいです」

 僕は、ケイを指差した。

「余所の国は、興味深いモノが多いのじゃ!!」

「主に食べ物関係で!」

「うむ!」

 そこは、否定しないケイだった。

 方針は決まった。

 僕は自分の手帳を先生に渡した。

「ひとまず、ここまでのレポート預かっておいて下さい。手帳で読みにくいし、後で整理はしますけど、四日間の僕らの行動は大体、これで分かると思います」

「分かった。読ませてもらう」

 ただ、ここから先が困るだろうと、爺ちゃんが別の手帳を貸してくれた。

「んじゃ、続きと行くか」

「うむうむ」

 という訳で、料理店を出て僕達は城侵入ルートに向かうのだった。

 ……いやあ、ここで先生や爺ちゃんに会うとは、ホントビックリした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ