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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
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ワールド・コースター

「……これで、午前中のノルマは全部回った訳か」

 大通りを歩きながら、僕はメモのセイスイバン大工房の項目にチェックを入れた。

「となると、いよいよ午後のメインである王城じゃの。ユフ王の物語で言えば、魔王城という事になる……が」

 ケイが、通りの向こう、右手のビル越しに見える城の尖塔に視線をやった。

「とてもそうは見えないなぁ」

 魔王城と呼ばれた、シティムの王城は今は白く塗り替えられていた。

「当時は真っ黒だったそうじゃがの。さすがにイメージが悪いと言うことで、塗り直されたそうじゃのう」

 そういう意味では、今の色はなかなか悪くない。

 この辺りの建物は茶色や灰色が多いが、青い空の下に黒い城はちょっとセンスに問題がありそうだ。

「僕も、悪趣味だと思うんだけど……誰の趣味だったんだ?」

「一説にはハイドラじゃの。あれは魔術以外に建築技術も優れておったそうじゃ。城の改装も一部手掛けておったという」

「ああ、黒色だしねえ」

 玄牛魔神ハイドラは、顔も黒毛牛だったし、自分のイメージカラーでもあるそれを、割と重んじていたのだろう。

 ……商店街が黒一色じゃなかったのは、もしかすると誰かに止められたのかもしれない。

「あるいは単純に、皇帝の趣味」

「それも、納得がいく話だ」

 黒色は何だか、強そうだし。


 そして僕達は城の正面に着いた。

 城の周囲全体が大きな広場のようになっており、外周に飲食店や土産物屋らしき店舗が並んでいる。

 ケイが標識を読んだ所、この付近は昼間自動車は通行禁止なのだという。通りで車を見ないはずだ。

 幅が広いアスファルトの歩道が逆T字になっており、その先には王城がある……のだが。

「でかいな」

「……うむ」

 城もそうだけど、僕達が驚いたのは正門から城へ通じる庭園だ。

 何というかこれ、カートか何かで移動した方がいいんじゃない? ってぐらいに、広い。

 正門は高い鉄柵になっており、その柵や上部も精緻な細工が施されている。

 右端には警備員の詰め所兼出入り口があり、観光客の列が出来ていた。

 庭園にも、案内人が先導しながら、十数人の観光客が進んでいるのが、チラホラと見受けられた。

「僕達は、こっちが入り口じゃないんだって?」

「こちらからでも入れはするそうじゃがの。妾達はユフ王達のルートで進むのじゃ」

 ケイが、標識を指差す。

 文字は読む事は出来ないけれど、矢印は左手を差しており、僕達はそちらに行く事になるそうだ。

「……が、まずは腹拵えじゃの。うむアレじゃ!」

 ギンッとケイの目が輝き、真後ろの店に振り返った。

 白地に赤い文字で店名や縁取りがされた店だ。

「こと食事に関する事になると、お前の眼力数倍にアップするよな」

 名前は『ワールド・コースター』といい、(パスタ)料理が旨い店なのだという。

「で、あれが昨日言ってたパスタ屋か」

「うむ!」

 やや駆け足で店に向かうケイを、僕も少し早足で追い掛ける。

「……水差すようで何だけどさ、あまり張り切りすぎるなよ? もし外れだったら、ダメージでかくなるし」

 僕の忠告に、ケイは振り返り、ふ、と笑った。

「ススムよ、憶えておくのじゃ……後悔とは、後になってするモノなのじゃ!」

「いい事言った風だけど、それ普通にパクりというかよく言われてるからな」


 店はカウンターと、テーブルがいくつか。

 ちょうど昼食時という事もあり、僕達は二人席についた。

 この店は、基本のソースは一つで、他の具材をトッピングするという形式を取っているようだった。

 僕もケイも特に具には拘りがなかったので、一番スタンダードなのを注文した。

 そして、食べた感想。

「麺の味は悪くない。ただ、ソースはこれ、ものっすごく好みが分かれるな。駄目な奴はとことん駄目な類のソースだ」

 なお、このソースだけれど、ベースはオイル。

 そしてとてつもなく濃い。

 やたらと粘りけのあるこれは多分、麺じゃなくてご飯でも食べられる……けれど、体調が悪い時などには正直、お勧め出来ない。

 僕は一皿でお腹いっぱいになってしまった。

 が、ここにそれだけでは満足しない奴がいた。

「おかわりじゃー!!」

 ペロリと一皿平らげ、既に追加を注文するケイであった。

 ソースはまだ余っているので、麺だけおかわりするつもりのようだ。

「……うん、お前が大丈夫なのは、よく分かったよ」

「このソース、お持ち帰りとか出来ぬかのう……」

「確か、お土産であったんじゃないか? ああほら、あった」

 僕は店の隅にあった棚を指差した。

 パッケージされた麺とソースのセットだ。

 値札があるって事はあれも売り物なのだろう。

「何と!? それは買って帰らねばならぬの!」

「……大丈夫だと思うけどこれ、ちゃんと空港の税関通るよな?」

「ヤバイ物では無く普通にお土産なのじゃ! 問題ないはずじゃ!」

「別の意味で、ヤバイ系っぽいけどなあ」

 既に僕の目の前に、中毒になりつつある奴が一人いるし。

 なんて話している間に、麺の替え玉が来て、再びケイは料理に没頭し始めた。

「うむ、これは癖になるの」


「じゃあ、ウチでも一食買って帰るかのう」


 なんて、聞き覚えのある男性の声が、後ろからした。

 ぶわっと、脂汗が全身に浮かぶ。

 恐る恐る振り返ると、そこには背広姿の白髪の老人……っていうか、ウチの爺ちゃんが、いたずらに成功した子供みたいな笑いを浮かべていた。

「どう思う、ススムや」

「げぇっ、爺ちゃん!?」

 ここにいるはずのない存在の出現に、僕は本気で仰天した。

 水を飲んでなくてよかった。間違いなく噴いていたと思う。

「何じゃ、久しぶりに会ったというのに、その叫び声は。儂はそんな挨拶を仕込んだ覚えはないぞ?」

「う、う、うん、久しぶり。っていうか、何でここに?」

 我ながら阿呆な問いに、爺ちゃんは呆れたように肩を竦めた。

「そりゃ孫が行方不明になったら、心配するじゃろうて。適当に荷物をまとめて、こっちに来たのじゃよ。あ、ちなみにこっちでの泊まりは、そこの嬢ちゃんのお父さんトコで世話になっとる」

「コイツんちとも繋がってんの!?」

 いまだ、パスタに没頭しているケイを、僕は指差した。

「失踪した二人の保護者同士じゃ。当たり前じゃろ? それにしても、見事にヒットしたのう」

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