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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
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セイスイバン大工房

 地上に出て、僕はホッと一息ついた。

 どうやらさっき通った商店街の一角だったようだ。

 額の脂汗を拭う。

「焦った……本気で焦ったぞ、今のは」

 一方ケイは泰然とした足取りで、先を進む。

「すまぬの。じゃが、それほど歩いてもおらぬ。もし見当違いの場所に出たとしても、すぐに取り戻せておったよ」

「そりゃ、そうだけどさあ」

 僕はケイの身体を反対方向に向けた。

 ……今来た方角に戻ってどうするコイツ。


 仕切り直し、僕達は午前中最後の目的地、セイスイバン大工房に向かう。

「完全に初見の場所とか、こんなトコで迷子になったら確実に混乱するって」

「ふ、妾がおるのじゃ。心配はいらぬ」

 お前たった今、道を間違っておいて、何故そこまで自信満々なんだ。

 そう突っ込みたくなるのを我慢した。

「……だから逆に不安な部分も大きいんだが、さすがに最終日に来て喧嘩別れになるのもアホみたいなので、ここは妥協しておこう」

「そこはかとなく失礼な事を言われたのじゃ!」

「オッケー、僕が止めずにどっか寄り道しないって断言出来るのなら、誠意のこもった謝罪をしよう」

 ケイは足を止め、振り返る。

 そして、僕をキッと見上げた。

「無理じゃの!」

「断言するしね!!」


 何とかケイの手綱を握り、僕らはセイスイバン大工房に到着した。

 四角い、大きな石造りの建物だ。

 大工房というか、僕としては港の巨大倉庫のような印象を受ける。

 屋上には幾つもの煙突が立っているが、今は煙は出ていない。

 建物の周囲は柵で囲まれ、僕達はその外側にいた。

「うむ、ちゃんと着いたの」

「時間的にはまあ、許容範囲内かな。ここは見学とか出来るのかなぁ」

 ちょっと見、入り口も分からない状態だ。

「現在では、武器は打っておらぬようじゃの。さすがにこの時代に、剣や槍を作っておったら、それはそれでビックリじゃが」

「千五百年前の建物だもんなあ」

 柵には間隔を置いてポスターが貼られており、これは大工房の案内のようだった。

 ケイに読んでもらう事にする。

「じゃが、中を覗くことは出来るようじゃの。建国祭のイベントの一環として開放されておるそうじゃ」

「お、そりゃラッキーだ」

 僕達のいる場所から角を右に曲がった所に、入り口はあるという。


 滅多には入れない建物、というだけあって、入場者はそこそこのようだった。

 入場料はタダ。

 年齢層はやや年かさの人が多く、次に学生、それも男性客がほとんどだ。たまに家族連れも見えるけど……何というか旦那さんの付き添いみたいな感じがする。

 建物は吹き抜けで、ほぼ作業場のみで構成されているようだ。

 広さはほぼ、体育館二つ分ぐらいだろうか。

 奥の方に扉があるけど、あそこの部屋は事務とかもしくは休憩とか、そんな用途に使われるのだろうと想像させられた。

 そしてこれが一番の感想なのだが、正直薄暗い。

 天井近くにある明り取りがなければ、相当視界が悪いんじゃないかと思う。当時の照明は何だったのだろう、壁にランプか何かを設置していたような跡があるけれど、油だってただじゃない。よほど天気の悪い日や夜でもないと使わなかったんじゃないだろうか。

「ちょっと埃っぽい……かな?」

「気のせいかもしれぬぞ。あと、薄暗いから足下に気をつけるのじゃわんっ!?」

 いきなりつんのめったケイの両肩に手をやり、転倒を防ぐ。

「……うん、いい加減慣れた」

「うむ、すまぬの。よくある事じゃ」

 庇われる側も慣れたのか、そのまま平然と歩みを進めた。

 薄暗さになれると、部屋の構造が大体理解出来た。

 先ほども説明した通り、大工房はほぼこの作業場一つで構成されている。

 中央に巨大な長細い浴槽の様なモノが据えられており、これが溶鉱炉なのだという。奥に煉瓦を積み上げた円柱状の装置が設置され、ますます風呂のようだ。

 僕達は、反時計回りに歩く。

「椅子が多いな」

 右側は設計なども兼ねるのか、大量の椅子とイーゼル、机、筆記具なども目立っていた。

「これだけ大きな工房じゃ。勤めておったモノも多かったのじゃろう。当時は何百人単位で武器を作っておったとあるの」

 工房の奥にはパイプが入り組んでおり、子供達がはしゃぎながら潜っていた。あんまり遊ぶと危なそうだなあと思っていたら、お母さんが叱っていた。

「ここで、黄金の皇子オスカルドがやられたんだっけか」

 ケイが、細かいパイプに足を引っかけないかハラハラしながら、その後ろを追う。

「うむ、倒したのはユフ・フィッツロン。姉弟対決じゃの」

「確か、どんな攻撃も効かないわ、超高速の攻撃を繰り出すわの無敵の皇子様だったんだよな」

「その通り。じゃが、弱点がないでもなかった。伝承によれば皇子の攻撃は魔力を消耗し、それは身に纏っていた宝石や身体を覆う黄金を対価としておったのじゃ」

「つまり、戦えば戦うほど弱くなる……?」

「基本、短期決戦タイプの人物だったという事じゃの。明らかに持久戦には向いておらぬ」

 工房の左手は、いわゆる武器を打つスペースなのだろう。

 椅子は相変わらず多いが、同時に幾つもの水槽、木桶、ハンマーのような、加工用の道具が目に付いた。

「ただ、それでもなお、皇子には強みがあった。決して死なぬ不死身の肉体じゃ。資料を読んだ限り、ユフ・フィッツロンは死という概念がない故に不死じゃったが、オスカルドは物理的な不死じゃの。容易に壊れぬし、壊れても修復してしまう」

「超頑丈って事か」

「左様。じゃから、ニワ・カイチはラヴィットでの戦いの後、ユフ・フィッツロンに策を授けた。壊せないなら、融かしてしまえとの」

 ケイは足を止め、右手に視線をやった。

 巨大な水槽、もとい溶鉱炉だ。

 天井を見上げると、いわゆるキャットウォークが前後左右に広がっていた。

 当然、溶鉱炉の真上にも存在する訳で。

「また、酷い策を授けたな、おい」

「じゃが、その策でオスカルドは破れたのじゃ。ユフ・フィッツロンは霊剣キリフセルで粘りつつ、ここに誘い込み、そしてオスカルドを溶鉱炉に叩き落とした」

 あの天井から、オスカルドは超高熱の溶鉱炉に突っ込み、そして融けてしまった。

 ……いや、うん、壮絶な死に方だと思う。

「それでも後に心臓、曰く鉛の心臓が残ったそうじゃがの」

「その心臓は、どうなったのさ」

「王家に封じられたそうじゃ。つまり、王城の宝物庫じゃな」

 ちなみにこれは、見る事が出来ないらしい。

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