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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第一章 始まりの地・ヒルマウント
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封印の洞窟

 ペンドラゴンさんの案内に従って岩場の泉で顔を洗い、森を歩いてしばらくすると広い場所に出た。

 木々に囲まれたその奥に、黒い何か板のようなモノが立て据えられていた。

 近付いて、その正体が分かった。

「石碑があるな」

 僕の背丈ほどの石碑には文字が刻まれているが、当然蒸語なので読む事が出来ない。ケイにお任せする。

「うむ。そのまま、さっきの説明通りじゃの。ここでセキエンとプリニースの戦いがあったという。その戦いの激しさで、微妙に地面がくぼんでいるという話じゃ」

「言われてみれば、すり鉢状だな。お皿レベルだけど」

 うっすらと緑の絨毯が敷かれた広場は、若干ながら傾斜があった。

「そしてここで、セキエンが粘ったから、王様は剣を抜くのに間に合った、と」

「そうですね。どういう戦いが繰り広げられたのかは、結局不明ですが。残っていたのは、お義父さんの亡骸だけでした。いや、だったそうです」

「生き残った方が記録でも残さない限り、そりゃ詳細なんて分からないよなぁ」

「そういう事です」

 僕の独り言に、ペンドラゴンさんが頷いた。

「ちなみにお墓は、ユフ王と同じ寺院に納められているそうじゃぞ」

 ケイが、西の方を指差す。この近くだったっけ。

「そちらも、案内します。ボクもお墓参りをしたいですし」

「え、ペンドラゴンさんも、血縁のお墓があるんですか?」

「あ……え、ええ、まあ」

 不意に、ペンドラゴンさんが帽子を押さえた。

「のわっ」

「っと」

 突風が吹き、バランスを崩したケイが僕にぶつかる。

「風が強いですね。洞窟に向かいましょうか」


 更に歩く事しばし、僕達は洞窟の入り口に着いた。

「思ったよりも広いのう」

 天井も相当高く、これは車の一台ぐらいなら普通に通れそうな規模だ。洞窟と言うより、トンネルと呼んだ方がいいんじゃないだろうか。

 左右にはカンテラが設置されていて、薄暗い中でも先に進めそうだ。

 振り返ると、ペンドラゴンさんが目尻を腕で拭っていた。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい、すみません」

 本人曰く、風で目にゴミが入ったそうだが……って、いつの間にかケイが消えていた。

 洞窟の奥から微かに声が聞こえる。

「おおい、勝手に先に進むな! また迷子になるぞ!?」

 しばらくすると、ケイが戻って来た。

「ぬ、じゃが先が気になるのじゃ」

「一回失敗したんだから、学習しろ!」

「あの、結構響きますから、あまり大きな声は」

 まだ目尻の赤いペンドラゴンさんに指摘され、思わず口元を押さえてしまう。言われてみれば、確かに他国で恥ずかしい真似をしているかもしれない。

「う、そ、そうですね……他の観光客の迷惑になりますし」

「……幸い、今はいないようですけどね」

「え? 何で分かるんですか?」

「それは、人の気配とか臭いで……って、ああ、勘です、勘」

「……動物と仲良くなるには、やっぱり野生の勘とかそういうのも、必要になってくるんですかね」

「多少あると、確かに仲良くなりやすいかもしれませんけどね。あ、ケイさん先に進んでますよ?」

 振り返ると、またケイが消えていた。

「ええい、あんにゃろは!」

 少し急いで、僕も洞窟の中に進む。後ろにペンドラゴンさんもついてきていた。

「聞こえておるぞ! 妾は女じゃから女郎と呼ぶのじゃ! ……たわっ!?」

 叫び声と共に、派手な音がした。何が起こったのかは、容易に察する事が出来た。

「余計な事を考えて歩くから転ぶんだよ。一応洞窟なんだから、足下には気をつけろ」

「うむぅ……油断した」


 いくつかの分かれ道があったが、ペンドラゴンさんの話では順路の矢印以外は行き止まりだという。

 そして一番奥らしき場所は、ホールになっていた。

 天井の高さといい、ちょっとした体育館ぐらいの広さはあるだろうか。

「おお、大きいのう」

「どうやらここが、ゴールみたいだな。台座もあるし」

 部屋の奥には、剣を刺した台座があった。

 そちらに近付いてみる。

 剣はレプリカだろう。いくら何でもこんな、無防備に刺してあるはずがない。

「ふむ……しかし、疑問じゃの。台座に剥き出しに剣を刺していては、錆びたりしなかったのかや? この洞窟、地層の関係か、水分が結構あるのじゃ。それとも当時は、乾いていたのかの?」

 ケイはケイで、別の疑問を呈していた。

 それに答えてくれたのは、ペンドラゴンさんだった。

「台座はこれ、後付けですね。前は、普通に木の机の上に置いてあったんですよ」

「へえ? 前にも来た事があるんですね?」

「え?」

「うん?」

 何か、微妙にかみ合わなかった。

 てっきり以前にも、ここに来たかのような口ぶりだったから聞いてみたんだけど……。

 先にハッと気がついたのは、ペンドラゴンさんの方だった。

「あ、ああ、数年単位じゃないですよ? ボクが言っているのは、ボクらの生まれる前の話です!」

「あ、な、なるほど、そうですか。ちょっとビックリしました」

 やっぱり、若干太照語でも、齟齬があるようだ。

「となると、物語性を生むため、王の配下かその子孫が設置したと考えるのが妥当かのぅ」

「ですね。そもそもケイさんの疑問通り、剥き出しの剣を刺してたら錆びてしまいますよ。時折お義父さん……セキエン氏が訪れては、手入れをしていたんです」

 なるほど、と納得していると、ふと台座の横にあった段差に気がついた。

「……この、横に階段がついているのは?」

「これ、抜いていいようじゃぞ?」

 言われてみれば、階段を登るとちょうど、逆さになった剣の柄を引き抜けるようになっていた。

「そりゃ、是非試すべきだな」

「うむ」

 そして、ケイ、僕と試してみた結果。

「抜けぬ!」

「勇者じゃないからか」

「いや、単純にこれ、普通に抜けないようになっているんですよ。多分底で鉄板と一体型にでもなっているんじゃないでしょうかね。足で鉄板を踏ん張っていれば、千切らない限り絶対抜けません」

 台座の周りを確かめながら、ペンドラゴンさんが指摘する。

「それはもはや抜くとは言わぬの」

「要するに、本物の勇者でない限り、抜けませんよって事か」

「いやあ、本物の勇者でも抜けないでしょう、これは」

 そう言って、ペンドラゴンさんは苦笑した。

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