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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
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青の館と商店街

「えーと、次は……」

 市内広場を横切りながら、僕は目的地を思い出そうとする。

「さっきのがニワ・カイチじゃとして、次は奇しくも青き翼のチルミーじゃ」

「そうか、青の館か」


 目的地は五分も経たない内に到着した。

 青の館、すなわちこのシティムにおける青き翼のチルミーの住処だ。

 形状は煉瓦造りの円柱形、つまり塔の形をしている。

 ところどころに長細い窓があるが、あれはチルミーが飛び立つためのモノなのだろうか。

 高さはビルで言えば十階……いや、十五階分ぐらいはありそうだ。

 そして塔の色は当然のように青だった。どちらかといえば、空色に近く、今日のような陽気の日にはよく溶け込んでいるように思われた。

「これは、煉瓦自体が青いのかな」

「うむ、青い塗料を練り込んであるそうじゃ。ここは入場は出来ぬようじゃのう」

「そりゃ残念」

「もっとも、伝承の主役は中身ではなくこの場じゃの。青き翼のチルミーと龍のレパートの空中戦が、この空で行なわれたそうじゃ」

 この青の館は、市内広場からは道路一本を隔てた場所にあるが、同じ芝生の質なのでほとんど広場内と言ってもいいんじゃないかと思う。

 僕は空を見上げた。

 遮るような木々がある訳でもなく、さぞかし空を飛べたら爽快だろう。……まあ、戦いとなると、そんな気分所じゃないだろうけれど。

「ニワ・カイチとチルミーが消えたのは、その戦いの後?」

「じゃの。援軍に来たニワ・カイチがスイッチして、あっちの市内広場で――」

 ケイは道路向こうにある、市内広場を指差した。

「――戦いの続き。そして消失という流れじゃ。そしてさらにややこしいのじゃが、ニワ・カイチはその前に一戦、別の場所でやっておる。かつての兄弟子、玄牛魔神ハイドラじゃの」

 一応、うろ覚えながらその辺りの勉強はしてある。

 確か、もう一つ向こうに行った先に、そのハイドラの石碑があるはずなのだ。

「つまり僕らは、時間と逆行した歩き方してるって事?」

「面白い表現じゃが、その通りじゃの。……と言っても、近い順から回っておるから、これも仕方なかろう。一番遠方から駅に戻るルートよりは効率的じゃて」

「だよなあ」

 という訳で、あっさりと青の館の見物を終え、僕達は次の目的地に向かった。


 目的の場所に向かっていると、いつの間にか僕達は生活感のある通りに着いていた。

「普通の商店街だ……」

 石畳に舗装された通りは、大通りほどは広くない。

 オープンテラスのあるカフェやレストラン、地元の人っぽいカジュアルな服装の人達の行き来するこの辺りは、間違いなくこの辺りに住んでいる人達の生活に密接に関係している場所だろう。

「懐かしいのう。ヒルマウントを思い出すのじゃ」

「言われてみれば、そんな感じもするか」

 古物商の世話になったのは、四日前。

 なのにずいぶんと、時間が経ったような気がする。

 そして僕達は、商店街の中央らしい広場に着いた。

 見上げると、硝子製らしきドームが設置されている。

 かなり広く、田舎にあるスーパーマーケットの駐車場よりも余裕があるんじゃなかろうか。集会やイベントにも持って来いの場所だ。

 石畳の色は黒、多分周りの料理店とかの関係なのだろうが、幾十つものテーブルに椅子が並んでいる。

 まだ店の準備をしている所がほとんどなのか、座っている人は少ないようだ。

 そして僕らは広場の象徴らしき、漆黒の彫像の前に立った。

 屈強な肉体をローブに包んだ牛頭人身の像が、腕を組んで僕達を見下ろしている。

 いや、見下ろしているのは彼の足下にいる、人間の部下達の像か。

「ここにあった黒の館、すなわち玄牛魔神ハイドラの住処は、彼とニワ・カイチの激戦の末、崩壊してしまったそうじゃ。ただし、館自体はあくまで表面的なモノ。その本質自体はまだ、この地に残っているという」

 と言い、ケイは像から周りの建物に視線を移した。

「それが、あそこから潜ることの出来る地下商店街じゃ」

 指差した先には、建物と建物の間、ポッカリと空いた地下への入り口階段があった。


 階段を下ると、煉瓦造りの通路が左右に伸びていた。

 その古さの一方で、天井には照明と共に無数の鉄パイプがひしめいている。

 そして、煉瓦に埋まる形で、洋服店や食器屋など幾つもの店が開かれていた。

「ここは元はハイドラが生み出した、大迷宮であったという。もっとも現在では地図も用意されているし、いくつかの壁が壊され、通りやすくもなっておるそうじゃがの」

「兄弟弟子対決って、どういう決着がついたのかな。いや、ここでハイドラって死んだのか?」

 ケイの後ろをある気ながら、僕は尋ねてみた。

「サウスクウェア老からもらったパンフレットでは、そうなっておるの。赤き魔女ズッキーニの用いた布の術をニワ・カイチが応用し、ハイドラを挑発させたとある。ほれ、動物はヒラヒラとした布を前に出すと、突進してくるじゃろう?」

「……いや、そもそも赤き魔女との戦いの時、ニワ・カイチ仲間になってなかったよね?」

 僕の素朴な疑問に、ケイはあっさりと応えた。

「おそらく、ユフ・フィッツロンか狼頭将軍クルーガーに聞いたのじゃろうという説じゃ」

「ああ、それなら分かる」

「ニワ・カイチの使う魔術は符や銃の類、一方のハイドラじゃがこちらは主に風系、もしくは強化系魔術特化だったという事じゃの」

「いわゆるバフ職か」

 バフ職、すなわち自分や周りを強化することに特化した術者のことだ。

 ……オカルト系の知識じゃなくて、どっちかといえばRPGの用語である。

「なお、この地にいる限り、常にハイドラの魔力が切れる事はなかったという。その理由が、これらしいの」

 ケイがパンフレットの図を僕に見せてくれた。

 現在のように改造される前のモノだろうそれは、円の中に複雑な文様が刻まれているような、そんな構造になっていた。

「……ああ、つまりこの地下迷宮自体が、魔方陣になってるのか」

「魔力を汲み上げるモノ、という話じゃ。……む、この壁画じゃの」

 と、ケイが足を止めたのは、店が途切れ、ただの壁となっている場所だった。

 正確には、壁には敷き詰められた色煉瓦で造られた、いわゆる壁画があった。

 横長のそれには、牛頭の人物がいくつも並んでいるので……おそらくは、玄牛魔神ハイドラの生涯といった所だろうか。

「この地下商店街は、ハイドラが死に、ユフ王の治政となってしばらくの事だったそうじゃ。当時の大臣の一人が、ここを再利用出来ないかと進言し、これが出来たのじゃという。この壁画は、その時代の歴史学者が記録として造ったそうじゃ」

「この、貧弱なのは? 弱ったのか?」

 左端に近い場所にある、杖をついた弱そうな牛頭を、僕は指差した。

 他がそうなら、これもハイドラであるはずだけれど……。

「弱ったのではないようじゃな。元々、ハイドラは身体が弱かったのじゃよ。それを魔術を覚えることによって補っておったのじゃ。屈強な肉体は、かつての自分の反動じゃったのかもしれぬのう」

「しかし、本当に迷いそうだな。さすが元大迷宮」

 深く考えずケイの後に付いてきたとは言え、もう一回同じ場所に出る自信が、僕にはないぞ。

 もちろんケイはそれぐらい承知しているはず……と思って、ふと背筋が寒くなった。

 ……コイツ、方向音痴じゃなかったっけ?

「……待て待て待て、お前これ大丈夫だろうな!? まさか迷子になってないだろうな!?」

「急ぎ、上に戻った方がよいかもしれぬのう」

「うおおいっ!?」

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