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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
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サウスクウェア老

 僕達の横で、うむうむと白髪の爺さんが頷いていた。

「って誰!?」

 鍔つきの帽子にロングコートの老人だ。

 白髪と長い鬚で、見上げるほど大きい。

 身なりからして、相当いい生活を送っているんじゃないだろうか。

 笑みを湛えた老人は、僕達に何やら蒸語で話し掛けてきたけど、この辺はケイに頼るしかない。

 二三言葉を交わし、ケイは老人と握手を交わした。

「コンテストの審査員じゃそうじゃ。サウスクウェア博士。歴史学者だそうじゃ」

「はぁ、よろしくっとったってっ!?」

 僕も握手をしたが、やたら力の強い老人で、身体が上下にシェイクされてしまった。

 サウスクウェア老はそんな僕の様子に、ハッハッハと機嫌良さそうに笑っていた。

「力強いおっさんだなぁ。言っとくけど、僕達は出ないぞ」

「ああ、妾達ではなく旗に注目したそうじゃ」

「これ?」

 僕は、もう一方の手に握っていた旗を掲げた。

 すると、サウスクウェア老がまた、長い台詞を口にし始めた。

「この辺りには、その旗は売っておらぬ。かなりマイナーだが君達はニワ・カイチのマニアか何かかや? と聞いておる」

「マニアじゃなくて、頼まれたんだよ! っていうかそろそろ時間だけど、コンテストの審査員であるお爺さんは、こんな所にいてもいいのかって聞いてくれ」

「手洗いに寄っていたのだが、始まるまでもう少し時間がある。まあでも、そろそろ行かないと……と言うておるの」

「でしょうね。審査員がこんなトコで駄弁ってる訳にもいかないだろ。……っていうか、ジョン・タイターのお兄さんって、どこから現れるんだよ。まさかあの壇上か?」

 僕は、まだ無人のコンテスト会場に目をやった。

「いやしかし、イベントは始まっておらぬし……ぬ?」

 不意に、足下がグラついた。

「地震?」

 ちょっと揺れる……震度3か4ってところか。

 サウスクウェア老は悲鳴を上げて、地面に伏した。

「って何でこんなに慌ててるのこの人?」

 というかそっちの方が余計、揺れを感じるんじゃないかって気もするんだけど。

 揺れはまだ続いている……地震にしては妙、というか何だか空気自体も揺れてるようなそんな感じがする。

 外国の地震ってのは太照のそれとは微妙に違うのかもしれない。

「よく見るのじゃ。周り皆、似たような様子じゃぞ」

 ケイの指摘され周りを見るとなるほど、大勢の人が悲鳴を上げて逃げ惑い、またしゃがみ込んだりしている。小さなパニック状態だ。

「えと……どういう事?」

「太照は地震国で妾達は慣れておるが、このガストノーセンはそうではないという事じゃろ。この規模の揺れも、天変地異の前兆と思うても、おかしくないという事じゃ」

「ああ、なるほど」

 パリッ……という音が空から響いた。

 スタンガンの火花が飛び散るような音だ。いや、本物は見た事もないんだけど。

 それに混ざるようにゴロゴロ……という雷雲のような唸る音も続いている。

 でも、雨が降る気配なんて微塵もない、見事な快晴だ。だから逆に不気味でもあった。

「……晴れてるよな?」

「晴れておるのじゃ」

「なら、何で雷の前兆みたいな音が鳴ってんだ?」

 これは、本物の天変地異か?

「それは」

 とケイが口を開いた直後、それは起こった。

 凄まじい落雷の音、ただし音だけ。

 みたいな大音声とその直後、僕達から少し離れた所にあるコンテスト会場の舞台に、派手に土煙が上がった。

 新たな悲鳴が上がり、次第にその煙が晴れていく。

「……なるほど、ずいぶんと派手な登場じゃのう」

 ステージには、二十代前半ぐらいだろうか、黒髪の青年が尻餅をついていた。

 手には棍、服装は紺をベースに白と金で縁取られた時代がかったローブ……というかむしろ、コートに近い。

 コートの下は、動きやすそうな同色の上下だけど、何だか僕にはジャージのように見える。靴は、運動靴っぽい革のブーツだった。

 全体としては魔法使い……コンテストでいうならずいぶんとアレンジが利いちゃいるけれど、ニワ・カイチのコスプレになるのだろうか。

 そして、見て分かった。

 ジョン・タイターの兄、ジョン・スミスというのは、あれで間違いない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「目立ってるな」

「そりゃ、空から降ってきたのじゃから、当然じゃろう。イベントの一環と思われておるようじゃの」

 ケイの言う通りらしく、コンテストの観客らも次第に落ち着きを取り戻し始めていた。

 まだ震えているサウスクウェア老に僕は手を伸ばした。

 老人は照れ笑いを浮かべながら、立ち上がった。

「……どうやって、現れたのかガチに見てても分からなかったんだけど」

 うん、最初から最後まで見た。

 空が一瞬開いて、そこからあの人が降ってきたように見えたのだ。

 ……何かのトリックだろうと思うんだけど、それをどうやって起こしたのかがまったく不明だった。

 や、まあ奇術の類ってのが一発で見抜かれたら、それは奇術師達の商売あがったりなんだろうけれど。

「それに、衣装が古いのか新しいのか、よく分からないな」

 ジョン・スミスは周りを見渡し、やがて焦った様子でステージから降りた。

 そしてそのままこっちに向かってくる。

 何やら呟いているが……。

 それに合わせて、サウスクウェア老が首を傾げて、何やら口にした。

「『あの野郎、よくも投げ飛ばしやがって』……と言うておるそうじゃ。妾は分からぬが、博士が言うには、古い言葉らしいの」

「待って、何かすごくややこしい」

 つまり、ジョン・スミスの言葉をサウスクウェア老が翻訳して、それをさらにケイが僕に教えてくれてるって事になる。

 うん、自分で言っててとても面倒臭い。


 この辺りの通訳がもはや複雑怪奇なので、筆者権限でここからはサウスクウェア老や、ジョン・スミスの台詞はそのまま、ここに掲載する事にする(実際はケイが僕に通訳してくれている)。


 老人の話はまだ続いていた。

 ジョン・スミスの服装についてだそうだ。

「彼がニワ・カイチの衣装としてあれを着ているのならば、時代考証と一致していないのは、むしろ正しい。四英雄の中で唯一、異なる発達を遂げた文明圏からの来訪者だから、当時の服装でなくていいのですよ」

「あの時代に、ジッパーはなかったじゃろうからのう」

「その上でデザイン自体は当時を踏襲しているのです。コンテストでは万人受けせず厳しいかもしれませんが、学者としては及第点を差し上げたいですな」

 なんて博士とケイが話していると、ジョン・スミスが僕達を見て、立ち止まった。

「!?」

 しかも何か、すごくビックリしてる。

 ……この、旗のせいか?

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