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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
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金色城

 そして入った喫茶店は、ほぼ満席に近かった。

 いやそれよりも、僕は驚愕に思わず後ずさっていた。

 何せ、字こそ読めないモノの、そのシステムは一目瞭然だったからだ。

「パン取り放題……おかずも取り放題だと……!?」

 そう、客は皿を買い、長いテーブルに並べられた様々なパンや、深皿に盛られたおかず類を好き放題に取れるのだ。

 何と、香茶、豆茶も飲み放題である。

「見よ、我が眼力の力を!」

「待て、微妙に力が重複してるぞ」

「それだけ、妾の力がすごいのじゃ!」

 ああうん、間違いなくコイツ浮かれてやがる。

 でもこの光景を前にしちゃ、しょうがないか。

「……ま、でも選べるのはいいな。食べきれない量を盛るなよ」

「ふ、問題ないのじゃ」

 という訳で、僕達の朝食はまず、その具材を選ぶ所から始まった。

 そして。


「……一応、加減はしてるのか?」

 僕の向かいで、さっそくスクランブルエッグを頬張るケイの皿を見た。

 他、目玉焼き、川魚の照焼き、ウインナー数本、ミニハンバーグ、フライドポテト、トマトソースのパスタ少々。小皿に盛られたサラダ類、カップの中身は確か木イチゴのソースの掛かったヨーグルトだったか。

 飲み物はミルク香茶をチョイスしている。

 種類は多いが、それぞれの量は少ない……いや、うん、少ないけどコイツの身体の小ささを見ると、どこに入ってるんだって思わないでもない。

「起きてから、ここまで我慢したのじゃ。その分は、食うのじゃ」

「んー……まあ、僕も人の事は言えないからいいけどね」

 僕もスクランブルエッグをメインに、温野菜サラダとコーンスープを選んだ。飲み物は牛乳豆茶。柑橘系の果物も少々デザートとしていただく事にする。

「朝から、幸先がよいのう」

「朝食一つでこれだけ上機嫌になれる人間も、そういないと思う」


 満足のいく朝食を摂ると、僕達は再び駅前に戻った。

 さっきはよく見なかったけれど、大きな台座にユフ王と仲間の銅像が飾られている。

 剣で彼方を指し示す、少女。

 狼頭将軍ケーナ・クルーガーは前屈みで今にも飛び掛かりそうな態勢。

 魔法使いニワ・カイチは杖を肩に預け、後ろをのんびりついてきている。

 龍のレパートも皆と歩き、周りを警戒するように長い首をもたげていた。


 バスで目的に向かう途中、さっき見たソルバース財団のバスが並んでいる光景が目に張った。

 その奥には、石畳の広場、さらにその向こうに四つの尖塔が天に向かって建つ、直方体の大寺院が見えた。

「あれがツインサム寺院か」

「帰りに寄れるかもしれぬの」

 ソルバース財団のスタッフが資材を運搬する光景が、後ろに流れていった。


 そして到着した、最初の名所。

 六禍選の一人、黄金の皇子オスカルドの住処。

 その名も『金色城』である。

 名前の通り、ミニサイズの宮殿、しかも建物全てが黄金に輝いている。……いい天気のせいで、大変眩い。うん、すんごく鬱陶しい。

「……悪趣味と優美の瀬戸際みたいな建物だ」

「見事な金色じゃのう」

 僕もケイも、目を細める羽目になった。

「まあ、本人からしてアレだし、そう考えると相応しい建物なのかもね」

 中に入る事は出来るらしいので、僕達は門に向かった。


「……中も金ピカなのか。目が痛くなりそう」

 入ってすぐが、ホールになっていた。

 朝方なので、人はあまり多くはない。

 金が掛かっているのは、よく分かる。

 そのデザインも、趣味は悪くない……と思う。ただ、建物全部がホント、輝いているのだけはどうにかならないモノか。

 壁も床も、顔が映るほどなんだ。……スカートの女性には、お勧め出来ない。

「警備も大変そうじゃのう。……ふむ、メッキじゃの」

 コンコン、と金色の床をケイは足先で小突いた。

「え、何だそうなの?」

 僕の問いに、ケイは受付前でもらったパンフレットを開いた。

「いや、当時は本物だったと書いてあるのじゃ。がまあ、ユフ王の治政の時代に一度取り壊され、レプリカとしてこれが建てられたそうじゃ」

「何でまた、そんな面倒な事を。しかもユフ王からすれば敵のだよ?」

「一応、義理の弟じゃぞ?」

「……そういや、そうだったっけ」

 まさか、ユフ王も金ピカ好きだった、とかじゃないよな。

「義理の姉弟という事情もあるが、名所の一つとして利用したともあるの。六禍選の建物全て、建て直されたとある。そして実際、妾達のように余所の国から訪れておる訳じゃ。しかも、レプリカと言っても千年以上前の建物じゃぞ?」

「先見の明って奴かなぁ」

「そもそも本物は本人存命の時はともかく、最大の権威がおらぬようになっては盗難の危険の方が大きかろ。世界中にある故人の墳墓がどれだけ荒らされた事か」

「……なるほどね」

 建物全部が純金なら、ちょっと削るだけでも小遣稼ぎになるだろうし。

「それでも展示されておる宝石類は本物らしいのじゃ」

 壁に沿うように、目線の高さぐらいの四角柱が等間隔で並んでいる。

 その上にはガラスケースがあり、中に宝石が飾られていた。

 ……これまた、貴金属類なんて素人の僕が見ても、見事な石が揃っていた。


 そしてホールの奥の小部屋。

「……これは、また」

 台座に建てられた、オスカルドの彫像に僕は絶句した。

 ……肩に小さなツバメを乗せた、全身金色の純金製彫像だ。様々な宝石の輝きが彩りを添えている。

 そういえば、ラクストックの博物館でも同じように呆れたっけ。

 駅前にあったユフ王の彫像に対応するように、これもまた剣を彼方に向けて掲げている。……こういう所は、姉弟という所か。

「ずいぶんとまた自己顕示欲の強い人物だったようじゃのう」

「目立ちたがり屋だったのは、間違いないね。……あの宝石類も、本物?」

「本物だそうじゃのう」

「……ダンプカーか何かで突っ込んで、そのまま盗難事件とかいずれ、起こりそうだな」

「ま、その心配は妾達の仕事ではあるまい。ちなみにあの宝石類の一つ一つがオスカルドの魔力の源である、と伝承にはあるのじゃ。そして不可視の攻撃を、肩のツバメが主に担当しておる。また本人も帝国式戦闘剣術を会得しておる……じゃったな」

「ペンドラゴンさん、元気にしてるかなぁ」

 僕はラクストック村で、これを教えてくれた人を思い出していた。

「ちゃんと妾も教えたのじゃ。昼にはデザートも付けてもらうぞよ」

「はいはい」

 さて、主に見るべきモノは見た。

 僕達は、次の目的地に向かう事にした。

「なお、この建物は世界文化遺産に登録もされておるという」

「芸術性ってよりも俗物性の方が、凄まじい気がする」


 外に出ると、清々しい青い空が目に入った。

「おお、自然の風景が目に優しい……」

「次はシティムの大聖堂じゃったの。うむ、アレかや」

 ちょっと遠くだが、白いホールケーキのような建物を、ケイが指差した。

「歩いて行ける距離でよかったな」

 僕達はそれに向かって、歩き出した。

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