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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第五章 古都・シティム
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最終日の始まり

「さて、最終日じゃ! 張り切っていくのじゃぞ」

 そんなケイの快哉で目が覚めた。

 隣のベッドに仁王立ちである。

 時計を確かめるまでもなく、カーテン越しにでも外が暗いのは分かる。

 そして、やっぱり時間を見た。

「……だ」

「む? ボショボショと何を言っているのか分からぬぞススム。ハッキリと言うがよい!」

「……まだ、五時前だ」

 まだ眠気の残る頭のまま、呟いた。


 二度寝はしたけど、寝坊をすることはなかった。

 もっとも、アパートを出てのこの寒さでも、僕の頭はまだボンヤリしていた。

「うー……中途半端な時間に起きたから、妙に眠いぞ。どうしてくれるんだ」

 駅に向かう通りを歩きながら、思わずボヤいてしまう。

「うむ、すまんの。ついテンションが上がってしもうた」

 ケイは、まったく反省していない口調で謝ってきた。いいけどさ、別に。

「まあ、列車の中で眠ればいいか。確か一時間ぐらい、眠れるはずだ」

 今回乗り換えがないのが、大変助かる。

「ちなみに寝過ごしたら、そのままネオン・グレイツロープ駅に着いてしまうのじゃ」

「いや、起きるよ!? っていうか二人揃って寝過ごして向こうに行っちゃうとか、マジやめてくれよ!?」

「努力するのじゃ」

「その台詞はホント、誠意がないぞ……」

 ……ただ、僕が寝て退屈したコイツもそのまま眠る可能性は、普通に高いんだよなあ。


 そのままネモルドーム駅に入り、駅の構内を進む。

 時間は七時前だけれど、気の早い店はチラホラとシャッターを上げていた。

「ふむ……」

 ケイの目が、どこに向けられているのかは、言うまでもない。

「いや、別に今飯食べてもいいぞ? 時間ならまだあるし」

「や、ここは我慢なのじゃ。ええい、そんな驚愕に目を見開くでない。お主の中で、妾はどれだけ食欲魔人なのじゃ」

「六禍選クラス」

「中ボスクラスかや!?」

 ケイは、愕然とした。

「七色の食い気のケイ」

「しかもあだ名まで作られたのじゃ!?」

「まあでも、我慢するってのなら、ザッと一時間になるけど」

 列車内に売店はあまり期待出来ないだろうし、そうなるとシティムに到着するまで何も食べないって事になる。

「うむ。じゃがせっかくなので現地の朝ご飯を食べるのじゃ。当たりになるかどうかは、向こうに行かぬと分からぬがの」

 どうやら、意思は固いらしい。

 それなら僕も無理には止めない。僕自身お腹は空いているけれど、我慢出来ないほどじゃないし。

「……ただ、さすがに昨日の朝食みたいなのは、ないと思うぞ」

「うむ。ラヴィット(ここ)の朝食は見事だったのじゃ」

 味も然る事ながら、あの量はなぁ……ケイが絶賛するのも無理はない。


 列車での移動は特に、特筆するような事はない。

「さらば、ラヴィット! また会おうなのじゃ!」

「……少なくとも僕には、今んとこその予定はないけどね」

 と、窓の外を流れる風景に告げるケイにツッコミを入れ、僕は眠りに就いた。

 故に。


「到着じゃ!」

 シティム駅に到着したのはいいけど、この間の出来事はホント、記憶にない。

 何せ眠ってたので。

「やれやれ、寝過ごさずに着いたか」

 プラットホーム、改札を抜け、近代的な駅の吹き抜けになったホールを見渡す。

 時間的にも、ちょうど通勤通学と直撃らしく、人の行き来はすさまじい。

「何だか、空気も違う感じがするな」

 駅前に向かって歩きながら、そんな感想が思わず口から出ていた。

「香でも焚かれておるのかもしれぬの」

「おいおい……って、本当に何か匂うぞ、おい……!?」

 気のせいじゃなく、実際ケイの言っているのは正しかった。

 駅の柱にいくつか細い煙が立っているのだ。

 煙は天井に伸び、換気口にゆっくりと吸いこまれていく。

「じゃから、言うておるのじゃろうが。それよりもまずは飯じゃ……が」

 周辺の店は、どうやら土産物屋が主なようだ。

 菓子類の店もあったが、これは朝飯には今一つだろう。

「この辺りにはちょっと見当たらないなあ。駅ビルだから地下かな」

「何も来て早々地下に潜ることもあるまいて。目的地に向かう途中でも、軽食の一つや二つあるじゃろ」

 と、ケイは幅の広い正面出口を指差した。

「珍しく余裕だな」

「うむ。実は列車の中で空腹に耐えておったら、どうやら胃が収縮してしもうたらしいの。このまま行けるような気もしてきたのじゃ」

「普通にやめとけ。突然電池切れみたいな事になられたら、僕が困る」


 この旅で一番感謝すべきなのは、その天気だろう。

 一度も雨に降られなかった。

 そして、シティムの空も晴天。

 寒さはあるけれど、陽光のお陰で身体が震えるほどではない。

 駅前には大きな台座の上に、銅像が四つある……が。

「何だアレ」

 それよりも僕の気を惹いたのは、駅前のロータリーを埋め尽くす青色のトラック群だった。

 同色同種類という事は、どこか一つの組織のモノなのだろう。

「すごいの、お主。普通、駅前のこの立派な銅像に目がいく所を、完全にスルーするのかや」

 ケイに少し呆れられた。

「いや、それも後で見るけど! ほら、妙に大がかりなイベントでもやるのかな、あれは」

 トラックには、駅の列車からだろう、資材が次々と運び込まれ、積まれていっている。

「ふーむ、どうも昨日から縁があるの」

 作業をしている人達の青いジャケットの背中と、トラックの腹には丸い卵を温めるように身体を丸めるドラゴンの模様が描かれていた。

「ソルバース財団かあ」

「実は、この近くで演劇をやるとか」

「主演、ソアラさん」

「ないのじゃ」

「うん、ないな」

「じゃが、気になるというのなら聞きに行くとしよう」

 と、ケイは歩き出した。

「ちょ、おい!?」

 止める暇もなく、一番暇そうな(今思えば監督をしていた)作業員にケイは声を掛けた。

「も、物怖じしない奴だなぁ」

 蒸語のやりとりは僕には分からなかったけれど、幸いなことに作業員さんは苦笑気味に説明してくれたようだ。

 ケイが話を終え、僕達はその場を少し離れる。

「演劇ではないが、何やらイベントを行なうそうじゃ。内容は秘密だそうじゃぞ? 気になるなら、ツインサム寺院の境内を訪れるとよいのじゃそうじゃ」

「へえ」

 ちなみにツインサム寺院、というのはここからでも少し屋根が見える建物なのだそうな。

「と言っても、夕方からという話じゃし、まあ今行っても作業中じゃろうの」

「……何やるんだろ」

 ちょっと、気になった。

 そしてはたと思い出した。そんな事にばかり気を取られている場合じゃない。

「バスで移動するから時刻表を確認しないと」

「結構な移動をバスに頼るはずだったの。ならばあそこを使ってはどうじゃ?」

 ケイが指差したのは、いくつかあるバス停留所の手前にある、長細いブースだった。

 どうも、売店のようだ。

「バスのチケット売り場?」

「一日券を販売しておるの。おそらく、アレを使った方が安上がりになるじゃろう」

「そういう事なら、節約は大事だな」

「うむ。そして――」

 ギラッとケイの目が光った。

 視線を追うと、そこにはビル……の一階、喫茶店があった。

「……はいはい。飯ね」

「妾の直感が告げておる。あの店が、当たりじゃと……!!」

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