明日の打ち合わせ その4
「うむ、よい飯であったの」
飲食街を出て、僕達は再び大通りに戻った。
「その点には同意だねぇ。この寒さもむしろ気持ちいいぐらいだ」
スープってのは体内に熱が残るもんだな、と思った。
「暑いのなら、服を脱いでもよいのじゃぞ」
ケイにからかわれるが、さすがにそこまでやれるほど、僕は剛の者ではない。
「お前は僕に風邪を引かせて何をするつもりなんだと問い質したいね。ちなみに河岸を変えるのはいいけど、完全に飛び込みだぞ」
次の目的地は、喫茶店。
さすがにさっきの店で、資料を広げて相談をする訳にもいかなかったし。
ただこの辺りには、いわゆるお茶専門の店はちょっと見つからなかった。
今の所、完全に閉まっている銀行や、店じまいを始めている宝石店、ブティックなんかが並んでいた。
「そんなモノは今更ではないか。こと食べ物に関しては妾達、ほとんど行き当たりばったりじゃぞ?」
「うん……で、どうしたモノかね。本当に適当に入るぞ。味とか分からないから、まあ第一条件は落ち着いて話せる場所だな」
「ふーむ……」
と、ケイが足を止めた。
見つけたと思ったら、店から出っ張っている鉄看板にはビールのジョッキが彫られていた。
というか店の中は明らかに立ち飲み屋である。
コートの紳士や鬚の労働者が、ジョッキやグラスを傾けていた。
「あれは、パブだろ。匂いに釣られるのは分かるけど、さすがに僕らじゃ無理がある」
目立つにも程があるだろうし、そもそも相談には向かない店だ。
「うむ。……しかし、よい匂いをさせておるのう」
「ま、とにかく……よし、あの店にしよう」
後ろ髪を引かれるケイに焦りながら、僕は周囲を見渡し、それっぽい店を見つけた。
サンフォワードカフェ。
このガストノーセンでも有数の、カフェのチェーン店だ。
僕達はホットの豆茶(ケイはそれに加えチーズケーキ)を注文し、席に着いた。
「それじゃま、明日の予定を決めようか」
「パソコンがないのが、痛いのう」
「ないんだからしょうがないだろ。……プリントアウトしといてよかったよ」
僕は鞄の中から、書類の束を出した。
昨日、ホテルのサービスで印刷しておいたのだ。
ちなみにこれらはレポート用の資料として、残しておく必要がある。……いちいちノートに書き写すのも面倒だし。
で、広げた資料を僕達は検討する事にした。
「シティムは、このガストノーセンの中でも有数の観光名所なのじゃなあ」
観光地の多さに、ケイは眉をしかめていた。
「ユフ王の治政以外にも、歴史的な建造物が多いらしい……けど、僕らが回ろうとする場所だけでも、結構な量なんだよなあ」
そういう意味では、このラヴィットとは両極端といった所だろうか。
生の観光地としては、イスト・スリベルの大峡谷ルートで済んだ訳だし。……まあ、移動距離では、これまでの四日間の中で最長だったと思うんだけど。
それはともかく、明日の予定地だ。
「まず絶対外せぬのは、皇帝城じゃの。現在は、旧王城となるのかの」
「うん、そこは最優先だけど、順番的には最後だね。伝承のクライマックスでもある訳だから」
となると、城の周辺という事になるが……。
「皇帝、皇妃、六禍選にまつわる建物を全て回ると、交通機関を使うても日が暮れるのう。かと言って延長するという選択肢はないのじゃな?」
「ないね。明日で旅は終わらせる。これは決定事項だ」
「ふむ、ではその線は崩さぬとして……一番厄介なのは、六禍選の館じゃの。これは、シティムをグルリと回る形で六つあるのじゃ。曰く古代の結界の役割を果たしていたという事じゃが、実際幹部が周囲を守っておるのは、霊的なそれではなく事実上の結界じゃの」
皇族を守護する、という意味ならばなるほど、円で囲めば死角はないという事か。
……僕はしばし悩んで、地図の資料左半分にある館のポイントに×を付けた。
「なら、この西方の三つ、赤、緑、白は省こう。蔑ろにする訳じゃないけど、こっち方面を削るとかなり、他の場所を見て回れる」
「む、赤と緑はグレイツロープやイフで縁が深かったから由とするが、白とはほとんど絡んでおらぬぞ。よいのか?」
「白……白々しきワルスの個室が皇帝城の中にある。それに、生き残ってた六禍選の死地は、そのほとんどが東方面にあるんだよ。シティム大聖堂、ネオン・シティマクス商店街、セイスイバン大工房。こっちである程度補完出来ると思う。それに、建物を巡るのに拘ってたらレポートも書けないしな」
「ああ、それもあったのう」
なお、白々しきワルスの死地はシティム大聖堂という事だが、どういうやられ方をしたのかはまだ、調べていない。
調べる事は簡単だったけど、出来れば直接現地で知りたかったのだ。
……っていうか、言ったことを現実に変える力の持ち主とか、どうやって倒すのさ。
何て考えながら、話を続ける。
「一応、そこんトコは筋通しとかないと駄目だからな。城の周りを午前中、午後から皇帝城ってのでどうだ?」
「よいのではないかの。城内の資料を見た所、相当に広いようじゃし……最後はとんでもなく、歩く事になりそうじゃのう」
なお、予定では城内巡りだけで三時間半ほど掛かる。
城の風景資料に目を通していく。
広い部屋、広い廊下、広い中庭。
「……城正面の庭からして、とんでもないよな」
門から城まで、ちょっと自動車貸してもらえませんかって言いたくなるぐらい、長い庭園があるのだ。
そして立派な鉄細工のされている正門もまた、大きい。
「ちなみに入場口はそこではないのじゃぞ?」
「え、これ、正門だろ?」
「妾達はユフ王達の歩んできた道を辿っておるのじゃ。故に、その侵入に沿ったルートで進む事になるのじゃよ。いくら王達が強いと言っても、正面からぶつかるほど馬鹿ではないという事じゃ」
それで、僕もピンと来た。
「……どっかに抜け道でもあるのか」
「そういう観光ルートがあると書いておる」
「それはまた楽しみだ。……でま、予定だと日が落ちる前には終了かな。そしたらとにかく大使館だ」
僕は、資料を集め、鞄に戻していく。
「うむ、それでよかろ。何にしろ、身分証明と旅券がなければ国には帰れぬからの」
「で、お前はどこか希望はないのか? 主にご飯関係で」
「ふむ、昼にパスタ屋に行きたいの。この国が発祥という有名な店があるのじゃ。朝は適当でよい」
「よし、じゃあ後は臨時応変に」
豆茶を啜りながら、僕は相談を締めくくった。
「うむ。ちなみに出発時間はどうなるのかの」
「何と六時半起きだ。ずいぶんと余裕があるだろ」
「まったくじゃ。では宿に戻るかの」




