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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第四章 有翼人の峡谷・ラヴィット
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第四軸の力

「確か四次元って、時間じゃなかったっけ?」

 何か、どこかの本で読んだ記憶がある。

 ……もっとも、その時間軸ってのが存在する四次元っていうのがどういうモノなのか、ぴんとこないんだけど。

 ……過去とか未来を普通に現実として認識して、渡り歩けるって事か?

「そうじゃのう。それも四次元の一つじゃ」

 僕の疑問を、ケイは半分肯定する。

「って複数あるの?」

「何故、一つでないと駄目なのじゃ?」

「え、だってそれじゃ五次元……んん?」

 二つも軸が増えたら五次元、と言いかけて、ちょっと違う気がした。

 そんな上の次元はどうでも良くて、つまり時間ではない軸があるという話だ。

 するとケイは両の拳を胸の前に持ってきて、それぞれの人差し指を左右に向けた。

「右と左。他の方向を指せと言われれば、人によっては上を指し、人によっては前を指す。後ろや下もあるのじゃ。方向は一つとは限らぬ。そしてこの龍種の場合は三次元とは異なる位相の一つなのじゃが……これはどう説明すればよいのかのう」

「出来ないのか?」

 難しいのかな、という意味で聞いたんだけど、ちょっとケイのプライドを刺激しちゃったようだ。

 ケイは、微妙に頬を膨らませた。

「高さを知らぬ二次元の人間に、三次元を仕込むようなモノじゃぞ? そも妾だって推測でしか語れぬわ」

 それから、ふぅ、と息を吐き出した。

「ただ、この龍が出来そうなことを語ってもよい。まあ戯言じゃと思って聞くとよい」

「話半分って事ね。分かりやすく頼む」

 入場者が通り過ぎていく中での、ケイの講義スタートである。

「まずは透視能力じゃの。正確にはちょっと違うのじゃろうが」

「いきなりキタな」

 正確には、って部分がちょっと引っ掛かった。どういう意味だろう。

「理屈としてはじゃな、妾達の視界を考えるとよい。目の前にある視界は立体かや?」

 ケイが、僕の前で小さな手をヒラヒラとさせる。

「え、立体だろ?」

 目の前のケイも立体だし、すぐ傍にある龍の模型も立体だ。

 だが、ケイは出来の悪い生徒を叱るように、首を振った。

「それは正しくないのじゃ。それはそこに存在しているモノの話であろ。視界の話じゃて。サイコロで考えてみるとよい。お主がそれを立体で捉えているというのなら、見えていない裏の目もちゃんと読めるはずじゃ」

「ん、んん……?」

 ……立体を完全に捉えているなら、全部の目が見える。

 なるほど、理屈は分かる。

「妾達の目というのは、絵や写真と同じなのじゃよ。立体に見えて、この目で見えるモノは全て平面じゃ」

「ああ、そういう事ね」

 いまだにピンとこないけど、感覚としては()()()()把握出来た。

 僕達の視界はどれだけ奥行きがあろうが結局の所平面であるから、立体も平面として捉えるしかない。

「つまりの、三次元の人間の視界は二次元でしか捉えられぬのじゃ。脳はそれを立体と捉えるが、現実として平面でしかない」

「うん」

「ならば逆説的に四次元の人間の視界は立体(三次元)じゃ。サイコロは裏の目も見えるであろう。それはつまりの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「理屈では、合ってる……な」

「でまあ移動じゃが、姿を消す事が出来るじゃろう。これが有翼人達が捕らえるのに手を焼いた理由じゃ」

「二次元で例えれば、三次元の人間がジャンプしたらまるで見えなくなる……ってトコか」

「お、飲み込みが早くてよいのじゃ。そしてここに人がいたとして、跨げば一瞬で後ろに回ったようになるじゃろ? 限定的な意味で瞬間移動も使える事になるのじゃ」

「龍強ぇ……」

 それはつまり、龍を相手にした場合、逃げも隠れも困難だって事だ。

 僕が感心していると、ケイは何とも言いがたい表情をした。

「言っておくが、戯言じゃからの? まあ、あの影から考えられる推論なのでそれほど的外れでもないと思うのじゃが……とはいえ、この二つで充分強キャラじゃの」

「肉体的にも頑丈そうだしねぇ」

 龍の模型を改めて見る。

 人とは違う、筋肉や鱗は剣も矢も通しにくそうだ。

 破壊力も相当だろうし、その背中にある被膜の翼は飾りではなく空も飛べる。

 いやそもそも、今のケイの話を敢えて真に受ければ、翼を使う必要すらなくこの龍は空を飛べる、というか宙に留まることが出来るだろう。……重力の干渉に関してどうなるかが、ちょっと分からないけれど。

 まあ、結論としてはやはり、(ドラゴン)強い、である。

「伝承を辿ると、若干精神面に不安があるがの。まったくさっさとラヴィットから逃げればよかったモノを……」


 そして、僕達は他の展示物も見て回った。

 特に目を引いたのは二点。

 この広いスペースの中央に設置された、石柱の上、僕の目線ぐらいに据えられたガラスケース。

 その中には紗で覆った杯があり、その上に虹色の小さな珠が置かれていた。

 ユフ王の伝説で、皆が導かれた宝玉だ。

 ケイが説明を読んだ所、当時の本物らしい。

「やっぱり宝玉ってのは、違う世界の力を秘めてるって事でいいのかね」

「そうじゃのう。龍はこの場合まさしく次元が違うのじゃ」

「……これって、割ったらどうなるんだろ?」

「間違いなく、逮捕されるのじゃ」

「いやいや、そういう話じゃなくてね!?」

「ふーむ……この珠が真に力を秘めておった場合は……おそらく、妾達は四次元の空間に巻き込まれるのではないかの? その世界がどのようなモノかは妾も分からぬが、龍と同じ空間把握を得ることが出来るのではないかの」

「……そう言う意味では、一番分かりやすいのは多分、狼頭将軍の宝玉なんだろうな」

「うむ、アレは想像するに、時間の流れがほぼ停止状態になるだけで済むであろ」

「それはそれで大ごとだろ!?」

「心配なかろ。主となるのはあくまでこの世界じゃ。他の世界が一時的に出現した所で、いずれこちらの世界が違う世界を掻き消してしまうのじゃ」


 また、ラヴィットにおけるレパートの伝承にまつわる絵画や文書も展示されていた。

 その中に、森を背景に首を下げる龍と、それに手を差し伸べるローブの少年という絵があった。

「これは、龍と魔法使いの再会ってトコか」

「いや、これはおそらくその前じゃの。魔法使いではなく魔術師じゃ。服装からして、学院時代であろう……うむ、説明にも書いてあるのじゃ」

「ああ、なるほど」


 なんて話をしながら、僕達は博物館を出た。

 あっさりと書いたけど、実はこの博物館かなり広く、この時代をメインに回ったけどそれでも一時間半は滞在したのである。

要するにドラゴン相手にカード賭博とかやったら、全部むしられるって事です。

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