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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第一章 始まりの地・ヒルマウント
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森の中のアーサー・ペンドラゴン

 一旦小屋に引き返したけどケイはおらず、これはやはり森の中かと改めてそちらに飛び込んだ。

 幸い木々の間隔は広く、斜面もなだらかだったけど、後で考えれば相当無鉄砲な事をしたと思う。

 ケイの名前を呼びながら歩く事しばし、森の向こうで複数の気配がした。

「ん?」

 草を擦る音が足下でし、視線を下げるとリスがいた。

 そいつは僕を見ると、森の奥に向かった。

 かと思うと、すぐに立ち止まり、僕に振り返る。

 どうやら、ついてこいって事らしかった。

 ので、お伽噺かよ、と心の中でツッコミながら、リスの先導で森を進んだ。

 程なくして、先刻感じた複数の気配の正体が分かった。

「ああ、いた。よかったです」

 そこには、大きな木の根元に腰を下ろし、動物に囲まれた少女がいた。

「なっ……」

 こう書くと何だかメルヘンな印象だが、その子が団剣帽子に眼鏡、縞柄のシャツの上にピンク色のパーカーを羽織り、下はカーゴパンツという実に活動的な格好だったので、失礼かも知れないが、お姫様には程遠かった。

 小さな旅行バッグと一緒に傍らに置かれたアームドバッグは、その長細さから考えておそらく、団剣でのポジションはファイターかコマンダーといった所だろう。

 動物は、イフで有名なスークやリス、野兎に小鳥など大人しそうなのが多かったが、ごつい野犬っぽいのも微睡んでるのが、何かすごい。

 年齢は僕と同じぐらいか。立ち上がった背丈も、大して変わらない。

「あ、この子達ですか? ちょっと懐かれちゃいまして。動物が苦手だったら、すみません」

「い、いや、ちょっとビックリしただけだから。それよりも……って、え、太照語!?」

 そう、ここまでの会話が全部、ウチの母国語だったのが一番の驚きだった。

 だって、どう見てもその金髪に青い目は、こっちの子だ。

「あ、この言葉ですか? ずっと昔、知人に教わったんです。今の時代も通じてよかった」

「……はい?」

 どうやら、ところどころ、おかしな太照語が混じるらしい。多分、太照の人間にちゃんと通じてよかった、とかそういう事を言いたかったんだと思う。

「いえ、すみません。それよりも相馬ススムさんであっていますよね?」

「え、ええ、まあ」

「こちらとしても下手に動かない方がいいと思い、待っていました」

「……待たれるような間柄じゃないと、思うんだけど」

 ただ、僕の名前を知っていた事といい、状況の推測は出来た。

「その関係はついさっき、出来たばかりです。ほら」

 彼女の指差した先には、子猫を追いかけ回しているというか、子猫に弄ばれ小さな原っぱを転がり回っている、ケイの姿があった。

 ケイは僕に気づくと立ち上がり、赤いポンチョコートの雑草を払い除けて、むぅと腕を組んだ。

「まったく、どこを歩いていると思ったら、こんな所を彷徨い歩いておったのか」

「って、君が迷子になったんだろ!?」

「わ、妾はちょっとチョウチョに気を取られておっただけじゃ! 追い掛けてたら、いつの間にか森の奥に進んでおった!」

「子供か君は!?」

「同じ歳じゃ!」

 などとやり合っていると、件の少女が和やかに間に入ってきた。

「ケイさん、駄目ですよー。こういう時は、素直に謝らないと」

 特に威圧的でも無いのに、不思議と人を従えさせてしまうような声音で言われ、ケイもさすがにたじろいだ。

「うぬ……すまぬ。いらぬ手間を掛けさせてしまった」

「……まあ、素直に謝ってくれたなら、これ以上は追求しないけどさ。すみません、何かご迷惑おかけしました」

 謝られては、こちらも矛先を収めるしかない。

 後半は、仲裁に入ってくれた彼女への礼だ。

「しましたのじゃ! そして動物をもっと触らせて欲しいのじゃ!」

「欲望に忠実な奴だな、おい!?」

「いえ、構いませんよ。この子達も興味があるようですし」

 その言葉と同時に、野兎や小鳥などが一斉にケイに群がった。

「のわー!」

 狐とかスークも混じっているので、そのまま押し倒されてしまう。

「ちょっ、食われたりしないですよね!? お腹壊すぞ!?」

「大丈夫ですよ。皆、おとなしい子ばかりですから」

「わしゃしゃしゃしゃ! くすぐったい舐めちょ、そこは弱いのじゃはははははは!」

「……一番騒々しいのは、彼女か」

 どうやら、命の心配はしないで済みそうだ。

「そうみたいですね。ああ、名乗り遅れました」

 言って彼女は、手を差し出してきた。

「はじめまして、アーサー・ペンドラゴンです」


「……あれ、どこかでお会いしましたっけ?」

 自分で言ってて、あまりにナンパの定番台詞なのに恥ずかしくなった。

 しかし、どこかで見たような、というのは本当にそんな印象を受けたのだ。それも、つい最近。

「いえ、初対面ですよ。観光ですか?」

 眼鏡の角度を調整しながら、ペンドラゴンさんが尋ねてきた。

「ええ、勇者ご一行の足取りを追う、みたいな旅をしてます。これから、この先にある洞窟に向かおうとしてたんですが」

「ちょ、脇は駄目じゃ脇は! どこに頭を突っこんでおるかー!?」

 ……相棒は、何だか動物達に蹂躙されているようだった。正直、放っておきたい気分だったが、そういう訳にもいかないだろう。

「大変ですね」

「あれで、なかなか頼りにはなるんですけどね」

「小さな山ですけど、下手に動くと遭難しますよ」

「げ」

 サラッととんでもない事を言われ、よくまあ僕もケイも無事だったもんだと安堵した。

 それからふと、ペンドラゴンさんの荷物を思い出した。

「あれ? 地元の人なんですか?」

 小さな手提げの旅行バッグがある事から、てっきり僕達と同じ旅行者だと思っていた。

 が、別に地元の人間が旅行バッグを使っちゃ行けないという法もない。

「……まあ、地元と言えば地元ですけど、しばらく離れてましたね。この森に入ったのも、懐かしかったからです。ただ、この辺りはあまり変化もありませんし、よかったら案内しますよ」

「え、いいんですか? 時間とか……」

 予想もしてなかった親切に、僕は困惑した。っていうかケイの件で迷惑を掛けたのに、その上案内とかしてもらえるとか、いいんだろうか。こっちはそんな、大したお礼も出来そうにないっていうのに。

「予定はありますけど、日が暮れてからなんですよ。それまで暇ですし」

「では、頼むのじゃ」

 いつの間にか戻って来たケイが、僕の傍らでシュタッと手を挙げた。

 が、その様は大変酷いモノだった。服はヨレヨレだし、さっき払ったばかりの雑草がまたまとわりついていた。

 おまけにその顔と来たら。

「……おい、涎だらけだぞ」

「ですね」

 苦笑しながら、ペンドラゴンさんがハンカチで、ケイの顔を拭う。

「む、むー……」

「近くに泉があったはずですし、そこでちょっと洗いましょう」

「ホントに、詳しいんですね」

「昔はそこで血を洗い……いや、水を飲んだりして、遊び回っていましたから」

 何か物騒な発言が聞こえたけど、多分太照語がおかしな変換をしたんだろうと思う。

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