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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第四章 有翼人の峡谷・ラヴィット
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鏡の魔女の城

 森を抜け、さらに大峡谷の先を目指す。

 やがて、少しずつ鏡の魔女の城の姿が大きくなってきた。

 ただ、半ば予想はしていたけれど、場所に問題があった。

「ソアラさん、あのお城、崖の上にあるみたいなんですけど」

 僕達のラクチョが走っているのは、大峡谷の下側だ。

 当然、ここからだと登る必要がある。

「妾達も、最初は崖の上にいた。多分どこかにスロープになっている所があるのではないかの」

 背中にしがみついているケイの言葉に、並走するソアラさんが頷いた。

「はい、正解です。この先右手にスロープがありますから、そこを登っていきましょう」


 スロープを登り、少し進むと鏡の魔女の城の足下に到着した。

「綺麗なお城じゃのう」

 素材自体は普通に石みたいに見えるのに、太陽に照らされている全体は、まるで硝子か何かで出来ているかのように輝いている。

 さながら、建物自体が鏡のような城なのだ。

 城には二種類あり、戦用の城砦と、宮殿タイプの城があるというが、これは明らかに後者だった。

「当時のまんま……なんですか?」

「いえ、さすがに数回、改修工事が行われています。形自体は、昔のままですが。なお、中の見学はかなり制限されていますが、一番の目玉である大鏡はちゃんと見る事が出来ますよ」

 ソアラさんが、正面の幅広い階段を指差す。

 この先が、入り口なのだろう。

「ほほう。確か魔法の鏡じゃの」

「はい、そういう言い伝えになっていますね」

「よし、ススム行くのじゃわわわわわ」

 駆け出したケイが、階段の一段目でいきなりつまずいた。

 もっとも、転ぶ前に僕が後ろから支えたが。……うん、予想してたしね。

「……頼むから、走らないでくれよ。そのたびに、僕が庇う事になる」

「た、た、たまたまじゃ!」

 僕の手から逃れ、ケイが強がる。

「ちゃんと足下を見て。ゆっくりと。一歩一歩階段を登っていくんだよ」

「区切るでない! 妾は子供か!?」

「子供でも、もうちょっと落ち着きがあると思う」

「ぐう」

 ケイは唸った。

「ぐうの音がでるだけ、マシだね、うん」


 城の中は、まず大きなホールになっていた。

 小さな受付カウンターに、何人かの観光客がチラホラと。

 ただまあ、そんなのはほとんど意識になく、というか真っ正面にインパクトの強いモノがあって、それどころじゃなかった。

 言わずと知れた、この城のメイン、魔女の大鏡だ。

「でかっ!?」

「大きい鏡とは聞いておったが、想像以上じゃの」

 幅は小劇場の舞台ぐらいはあるだろう、そしてその高さ、建物で言えば吹き抜けで……五階分はある。

 鏡には黄金の額が縁取られているのだが、頂上が見えない。

「あー……天辺、僕んちより高いぞ、これ。どうやって磨いたんだ……?」

 この場合の家、というのは爺ちゃんちではなく、生みの親の家の事だ。あっちも大概大きかったけど、高さだけならこの鏡はそれを上回る。

「まあ、磨くの自体は問題ないのじゃ。要は寝かせた状態で鏡を作ればよかったのじゃから。むしろ、これを維持し続ける事の方が大変じゃの。有翼人の都でなければまず無理じゃったろう」

 ……ゴンドラって、いつぐらいに発明されたんだっけ。

 背中に羽根がある種族じゃないと、ホントこれの管理って、難しいと思う。

「そうですね。この鏡は十人がかりで清掃されているそうです」

「……ソアラさん、ちょっと思うんですけど、その、この鏡で魔女は占ったりしてたんですよね」

「はい」

「ここまで大きいの、必要なかったんじゃないですか? というか明らかに上とか無駄だと思うんですけど」

 一体、何を見るのさと言いたくなる、馬鹿馬鹿しい大きさだ。

 映画館のスクリーンでも、こんなでかくないぞ。

「うーん、強いて言えば、これが鏡の魔女にとっての権力の象徴だったんですね。そういう意味ではこの城全体よりも、この鏡が魔女にとっては一番大切だったと言えます」

 そしてポン、と手を打って微笑んだ。

「あ、チルミーを除いて、ですけれど」

「比重はやっぱり、そっちの方が上なんだ!?」

「当時を知っている人間なら、誰もがチルミーを選んでいたでしょうね」

「まるで、当時を知っているかのような口ぶりじゃのう」

 ニヤニヤと笑うケイに、ソアラさんの微笑みがわずかに引きつった。

「そそそ、そんな訳、ななな、ないじゃないですかあはははは」

 面白いのう、と邪悪な笑みを浮かべるケイの後頭部を、僕は軽く叩いた。

「遊ぶな」

「あうっ」

 それから、さっきからどうも気になっている事があった。

「ところで、何か地響きみたいなのが聞こえてきてるんですけど」

 すごく遠く……ダダダ……だか、ドドド……だか知らないけど、そんな一定のリズムっぽい響きが身体の芯に伝わってくるのだ。

「地震ではないの。空間全体に響いておるような感じじゃ」

「ああ、この先がこの大峡谷の自然の中でも一、二を争う美しさといわれる、ダイバクフなんですよ」

 ソアラさんは鏡の方角を指差した。

「だいばくふ」

 その響きが、僕にはピンと来なかった。

「つまり、でっかい滝じゃの」

 なるほど、大瀑布か。

 しかし、ケイの余りと言えば余りにぶっちゃけた説明に、ソアラさんも苦笑いを浮かべるしかないようだった。

「そう言われると、そうとしか言いようがないんですけど……まあ、百聞は一見に如かず、でしょうか。それに一応、ユフ王の伝説に関係もしてますから」

「あれ、そうなんですか」

「はい。先ほどの説明は博物館内でしたけど、実際にオーガストラ軍とユフ一行が戦ったといわれる場所はそこなんですよ」

「ほほほう、それはそれは……って、何故妾の首根っこを掴むのじゃ」

 出口に向かおうとするケイの首を、僕は掴んでいた。

「身に憶えがないとはいわせない」

「むむぅ……」

「では、ご案内しますね?」


 再びラクチョに乗って、しばらく。

 水の落ちる音はやがて大音量となり、大瀑布に到着した頃には、僕達の声は自然、大声になっていた。

「先に言っておく。お前絶対、縁まで近付くなよ!?」

 滝の飛沫に濡れた崖に立ち、僕は叫んだ。

「心配性じゃのう! さすがの妾もそこまで命知らずではにゃわっ!?」

「うおおっと!?」

 足を滑らせたケイを、とっさに僕は支えた。

 さすがに、これは文句が言えない。

 今回はケイの方が早かったけど、僕が転んでもおかしくなかったのだ。それほど、ここは危なっかしい。

「気をつけて下さいね。飛沫のせいで滑りやすくなっていますから」

「は、はい」

 そろそろとケイを下ろして、僕達は大瀑布を改めて眺めた。

 パノラマで広がる超巨大な滝壺だ。

 峡谷は直線ではなく幾つもの曲線で成り立っている。

 だからこの滝も幾重にも重なって見えるのだ。

 飛沫が生み出す虹も、幾つも発生している。

 水の量は一体どこからこれ沸いてんのいつまで吐き出し続けるの、と思う、膨大な量だ。そりゃこんな大音量にもなる。

 柵なんてない大変危なっかしい場所だけれど、僕達はしばしアホみたいにその光景を眺めていた。

「にしてもすんごいな、また」

「さっきの鏡と言い大峡谷と言い、どうにもこの土地は色々とスケールが違うのじゃ」

「確かに、それはあるねぇ」

 確実に、交通費と掛けた時間分の価値はあった、と僕は思った。

「一応こちらに石碑がありますが、文章自体は博物館のモノと同じです」

 そう言ってソアラさんが指し示した先には、あのクリスタル石柱状の石碑があった。

「ニワ・カイチの魔法とかのアレかや」

「はい」

 僕は改めて、石碑から大瀑布に視線を向けた。

「……こんな地形じゃ、人間は絶対有翼人には勝てそうにないなあ」

 落ちたら、絶対死ぬと思う。

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