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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第四章 有翼人の峡谷・ラヴィット
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博物館外のラクチョ騒ぎ

 それは、レパートを中心に据えた、ユフ一行の石像群だった。

 レパートは祈りを捧げる乙女の姿を取っており、しかしその背中の翼は有翼人のそれとは大きく異なり、蝙蝠のような皮膜だ。

 服装は、その時代の標準的な衣装らしい、麻の服にショートパンツ、革のベルト、サンダル。

 左右を守るように、剣を構えるユフ・フィッツロンと鋭い爪を立てる狼頭将軍ケーナ・クルーガー。

 そして背中を向けているのは、棍を持った魔法使いニワ・カイチ。

「おお、立派な像じゃ。よく、この地で砕かれなかったモノじゃの」

 ケイが感心した声を上げた。

 うん、まったく同意だ。

 ただこう、石像なので細部までとはいかないけれどこの乙女姿のレパート、何だかソアラさんにやたら似ているような気がする。

 ……がまあ、本人を前にこんな事を言うのも何だか、ナンパっぽい気がするので黙っている事にした。

 石像は他の有翼人や動物のモノもあったが、他に僕の目に付いたのは……。

「こっちは……でも、戦ってなかったよなあ」

 果物を囓りながら片肘をついてダラリと横たわっているチルミーと、地面に突き立った槍に囲まれている傷ついた龍のレパート。

 状況こそまるで違うが、二人の視線はぶつかりあっている。

 この二人の対立という構図なのだろう。

 僕の呟きが聞こえていたのか、ソアラさんが補足してくれた。

「レパートとチルミーが戦ったのは、ここからさらに先、シティムでの決戦になりますね」

「え、チルミーと戦ったのはニワ・カイチじゃなかったでしたっけ」

「その前段階で、レパートとも戦ったんですよ。そも、あの魔法使いは色々な場所で恨みを買ってますから、敵も多いんです。ほら、まだ玄牛魔神ハイドラも残っていますし」

「言われてみれば、六禍選ってまだ四人も残ってるんだよなあ……」

 黄金の皇子オスカルド。

 白々しきワルス。

 玄牛魔神ハイドラ。

 そして、青き翼のチルミー。

 …………。

 あれ、何気にこっちの四人とそれぞれ、対応してる?

 なんて首を捻りながら、僕達は洞窟の通路を進んでいく。

「この博物館を抜けた先から西に向かうと、ミラの居城があります」

 先導をするソアラさんが、通路の先の光を指差した。そろそろ出口なのだろう。

「あー、でもラクチョの所まで戻らなきゃいけないんですよね」

 結構歩いたような気がするし、この博物館はグルリと回って元のホールに戻るタイプではなく、正に洞窟を利用した、ほぼ一直線の作りになっているのだ。

 僕の方向感覚が間違っていなければ、元来た場所まで歩くのはちょいと骨だろう。

「それはちと面倒よの」

「大丈夫ですよ。笛を鳴らせば、ラクチョは来てくれます」

 微笑みながら、ソアラさんがウエストポーチから小さな銀色の笛を出した。

 何とまあ、そんなモノがあったのか。

 そして僕以上に好奇心に瞳を輝かせたのは、コイツである。

「ほう、それは便利じゃの。妾が吹いてもよいかや」

「待て。念の為に言うけど、吹くのは外に出てからだからな。ここで吹いたら……ってだから、口をつけるなー!!」

 大騒ぎになりながら、僕はケイの口に笛を近づけさせないのに苦労する羽目になった。


 博物館の出口を出ると、そこは屋台の並ぶ通りだった。

 おそらく土産物屋さんなのだろう。

 商売をしているのは主に有翼人達、そして僕達と同じ観光客らしき人々が露店を眺めている。

 ……まあ、ここはちょっと御守りを買うだけで我慢させてもらって、通りの外れに出た。

 左右は高い崖になっており、幅広い天然の通路になっている。

「では、吹くのじゃ」

「軽くでいいですよ? あまり全力で吹くと……」

 ピイイイイイイイィィィィィーーーーーーーーー!!

 が、ソアラさんの注意もどこへやら、甲高い笛の音が大峡谷に響き渡った。

 しばし、反応はない。

 がやがて、地響きが遠くから伝わってきた。

「にゃ?」

 戸惑う、ケイ。

 やがて、左右の崖に濛々とした土煙が上がる。

「……ちょっと、えっと、あの土煙は尋常じゃないですよね……?」

 威勢のいい土煙は高らかに、茶色いそれが青空に昇っていく。

「お客様、どうぞこちらへ」

「あ、はい」

 ソアラさんは何か対策があるのか、僕達を後ろにやった。

 左右の崖から、何十ものラクチョが駆け下りてくる。まるで首長鳥の軍勢だ。

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ」

 ああ、このままだと()()ケイが踏み潰されそうだなあと、僕は思った。ただ、昨日のスークと異なりこれはちょっと、マジで死ぬかもしれない。

「はい、ストップですー」

 が、不幸な事故は未然に防がれた。

 ソアラさんの一声で、ラクチョの集団は急ブレーキを掛けたのだ。

 背後の観光客も珍しい光景なのか、何だ何だと野次馬が増えてくる。

「うちのラクチョさん出て来て下さい。あとすみません、残りは間違いですので、駐鳥場へお戻り下さい」

 なんて僕達の案内と変わらない声音でソアラさんが言うと、二頭のラクチョが群れから出て来た。

 そして、他のラクチョ達は今降りてきた崖を再び登り、やがて消えてしまった。

 ふぅ……とソアラさんは軽く吐息をつくと、困ったように微笑んだままこちらに振り返る。

「吹きすぎですよ、お客様」

「き、き、気をつけるのじゃ」

「……お前、昨日のスークといい、動物とはホント相性悪いのな。しかもかなり自業自得な部分で」

 ガシガシと僕はケイの被っている毛糸の帽子を掻いた。

「た、助かったのじゃ」

 着替えだって、無限にある訳じゃないのだ。

 こんな所で泥だらけになられても、困る。……いやその前にラクチョの巨体じゃ、病院の心配が先か。

「まったくだよ。下手をすれば、ここから徒歩になる所だったじゃないか」

「もちろん付き合ってくれるのであろうな」

「…………」

「何故目を逸らすのじゃ!?」

「ともあれ、無事でよかったです。それでは、次に進みましょうか」

 と言って、ソアラさんは手綱を握って、僕達のラクチョを牽引してくれていた。

「そうですね。あと、笛はソアラさんに返しておくように」

「うむ」

 さすがに学習したのか、あっさりとケイはソアラさんに笛を返した。

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