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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第四章 有翼人の峡谷・ラヴィット
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全てを均しく

 進んだ先にあったのは、大きな絵画だった。

 晴れた大峡谷を背景に、こちらに背を向け、杖をかざした魔法使い。

 そして青い空には無数の有翼人という図だ。

 大胆なことに、絵の中心に文章が記されていた。

 読めない僕の代わりに、ソアラさんが読み上げてくれた。


 高き場所より我々を見下ろし者達よ。

 其方達は確かに強い。何故なら我々の攻撃は届かず、仮に到れどもその力は弱い。

 それは何故か。

 翼持たぬ我々と其方達の間に、大いなる隔たりがあるからだ。

 高さである。

 其方達は空を飛ぶ。その高みからの攻めに、我々は為す術もないであろう。

 だが、逆にこれがなければ、どうか。

 高き場所より地を這う我々を見下しし者達よ。

 だが、それ故にこれがもしも均しき高さならば、どうか。

 其方達はその戦いの術を知らぬ。一方、我々はそれを知悉している。

 もしもこの唯一の強みを覆せたならば、其方達がどれだけの数があろうとも、我々の必勝であろう事は間違いない。

 騒ぐな嗤うな囀るな。

 ならば今こそそれを示して見せよう。

 世界三軸が一つを失い、二軸の世界よ顕われたまえ。

 高さを失い、位置の有利を覆したまえ。


「これが、その戦いの最初に魔法使いニワ・カイチが述べた口上だそうです」

「要するに、お前ら高さの有利さえなきゃ、こっちが勝てるって言ってるんですかね」

 ソアラさんが苦笑する。あまりにぶっちゃけすぎたかもしれない。

「まあ、そういう事になりますか。最後の二行が、その時に使った魔法の言葉、という解説がここにあります」

 絵画の下にあった、蒸語の解説をソアラさんは指し示す。まあ、うん、僕は見るだけしか出来ないんだけど。

 一応、ソアラさんの翻訳は目もしておいた。

 最後の二行といえば。

「世界三軸の内、一つを失う……?」

 柱か何かのようなモノだろうか。

 と、僕が首を捻っていると、ケイが見かねたのか教えてくれた。

「この世界は三次元なのじゃ。X軸、Y軸、Z軸で表わせ、幅・奥行き・高さとも言えるのじゃな。正に二行目に高さを失う、とあるから間違いなかろ。つまり三軸の内の高さを奪い、平面――即ち二次元とした……という解釈になるのかの」

「……3DのRPGが、クォータービュー画面になるようなもん?」

「そうじゃの」

 クォータービューというのは、空から見下ろす視点に近いタイプのゲームだ。最近では減ってきているが、古いゲーム機だとこのタイプのゲームがかなりの割合を占めている。

 ……マホト川の戦いがジャンル変更なら、今度は視点の切り替えというべきだろうか。まったく何でもありか、魔法使い。

 それにしても、高さを奪われた世界って言うのは実際、どういう風に見えるのだろう。ちょっと、想像がつかない。

 ……この辺は、深く考えるのはやめにしておこう。

 確実に言えるのはその世界では、建物は全て平屋だろうし、階段も意味がない。多分川や海も歩いて渡れるのではないだろうか。何せ、沈む()()が存在しない。

「こうなってしまっては、有翼人達の大峡谷の地理的有利も意味を成さぬの。高さがないという事は飛べぬ。そして地上を歩くモノにしてみれば高い所から落ちる事も決してない」

 ふぅむ、と唸り、ケイは絵画を改めて見上げた。

「となるとじゃ、正にこの文章の中にある通りじゃ。条件は完全に五分。戦力差こそオーガストラ軍が圧倒しておるが、有翼人が足を地につけての戦いに慣れているとはとても思えぬ」

「飛べない鳥は……ええと、何になるんだろう」

 ただの鳥と言えばその通りだけど、鳥は飛ぶモノじゃないかなあ。

「鳥は鳥じゃ。陸を走るラクチョだって鳥ではないか。じゃが、この話の戦、有翼人達が弱まったことには違いない。何しろ、その機動力を奪われ、その一方でユフ一行の攻撃は届くようになってしまったのじゃからの」

 ところがどっこい、次の展示物が僕達を混乱させた。

 それは、四角い(テーブル)だった。

 これも絵画の一種になるのだろうか、いわば空から見下ろした形となる、大峡谷の戦いの図だった。

 ユフ一行も、輝く黄金の皇子オスカルドも、有翼人達も、大峡谷もすべてが平面である。

 ただ、その卓から浮く形で、龍の模型が浮かんでいた。

 卓にも、先の絵画と同じように白い文字が流れるような文体で記されている。……この頃の絵画の流行りなのだろうか?


 ここで最も活躍したのは、龍のレパートであった。

 この戦において、この龍は唯一飛べる存在であった。

 時に有翼人達の前から姿を消し、側面や背後を突く。

 不可視の頭上からの攻撃に、オーガストラ軍は大混乱に陥った。


「む、ぅ……!?」

 ケイが驚愕に後ずさった。

 そりゃあそうだろう、さっきまでのケイの説明がある意味覆ったのだから。

「何でレパートは飛べたんだ?」

「いや、妾にも分からぬ……条件は同じ筈。ならば、飛べるはずがないのじゃが……」

 全てが二次元なら、レパートだって同様だ。

 そうでないのなら……どういう事なのか、僕にもケイにも見当がつかなかった。


 そして展示品は次の物に移る。

 中央で戦うユフ・フィッツロンと黄金の皇子オスカルド。

 有翼人をその爪で切り裂くケーナ・クルーガーと、杖で叩き伏せるニワ・カイチ。

 そして空から火を吹くレパート……といった、戦場風景の絵画だった。

 もちろんこれは、クォータービューじゃない。……もしそうだったら、かなりシュールな絵になっていただろう。


 その隙を見逃さず、最も多くの有翼人を倒したのは、二代目の狼頭将軍ケーナ・クルーガーであった。

 彼女が奮戦したお陰で、ユフ・フィッツロンは義弟である黄金の皇子オスカルドの元に辿り着くことが出来た。

 この対決は引き分けに終わったが、多くの有翼人を失い、戦自体はユフ一行の勝利に終わった。

 傍観していたチルミーの指示により、オーガストラ軍はそれ以上の犠牲を出すことなく、撤退に成功したのであった。

 鏡の魔女ミラはいまだ執拗にレパートを狙っており、この追跡から逃れる意味もあり、龍もユフ一行に同行する事になったのであった。


「こうして、いわゆる四人の勇者がここでようやく揃った訳ですね」

 最後に、ソアラさんはユフ一行の揃った像の展示を紹介してくれた。

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