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ガストノーセン五日間の旅   作者: 丘野 境界
第一章 始まりの地・ヒルマウント
10/155

ユフ王の生家を訪れる

 道なりに進むと、すぐに広場があった。

 おそらく村で何かがあると、ここに集まって話し合いなどが行なわれたのだろう。

 中央には広い花壇があり、その真ん中にユフ王の銅像が載った台座があった。

 旅の始めの格好なのだろう、軽装備に身を包んで剣を掲げている。

 僕達は、しばしその銅像を見上げていた。

「これは、等身大の銅像かのう」

「多分な」

「見上げる形じゃが、ずいぶんと小柄のように見える」

「君には負けるだろうけどね」

「妾と比較するでないわっ!」

 てい、と足を蹴られたが、特に痛くないので放置しておく。

「真面目な話、確かに小柄だなぁ」

 背丈で言えば、僕とどっこいどっこいと言った所か。女の子だという事を考えると……どうなんだろう、冒険をするにはやっぱりちょっと、か弱い印象を受ける。

 台座にはプレートが埋め込まれており、簡単な説明があった。それをケイが読み上げる。

「旅立ったのが十五歳。そして、半年の冒険を経て、国王に即位したのが十六歳、と」

「俺達より年下じゃないか」

「そのようじゃの」

「そりゃまた大したモンだ」


 生年星歴497年 鳳凰月十日~没年星歴557年 鳳凰月十日


 これは、僕も読む事が出来た。

「きっかり六十年じゃの」

 そして、改めて銅像を見上げる。

 握った剣には、立派な意匠が施されている。

「手に持っているのは多分、霊剣キリフセルなんだろうな。ある意味、本人よりも有名だ」

「うむ、妾でも知っておるぞ。ゲームでよく見る名前じゃ。王はその地位を長男に譲った後、この地に眠ったともあるの」

「確かその王様の眠る寺院も、近くにあるって話だぞ」

「そこの教会ではないのかや?」

 言って、ケイは村の入り口から見えていた、すぐ近くにある教会を指差した。

「どうなんだろ。まあ、まずは目的の場所を回って、時間に余裕があったら寄ってみよう」

「じゃな」

 目的地は、ユフ王の生家で、もっと山の方だ。

 と、そちらの方からノロノロと、白地に青のチェック柄の車が下ってきた。そして屋根には青いサイレン。

「……パトカー?」

 太照のそれとは違うが、イメージとしてはそれが真っ先に来た。

 というか側面にはしっかりと、警察って書いてあるし。

「妾達への追っ手か!」

「いや、そりゃないだろ。それなら後ろから来る」

「何か、事件があったのかのう……」

 それを見送り、僕らは村の奥を目指した。


 舗装された地面が土になり、やや上り坂で分かれ道になった。

 左が博物館とあり、右手が王の生家。

 何人かの観光客らしい人達とすれ違い、いくらも歩かない内に目的の家に辿り着いた。

「……何というか、普通の家じゃの。というか小屋というべきか」

「うん」

 木々に囲まれた、煉瓦造りの煙突小屋だ。

 周りの雑草は刈り取られていて、荒れ果てた様子はない。……まあ、仮にも国王の生家なんだから、それぐらいはするだろうけど。

 何となく魔女でも住んでそうなイメージがする。

 そして目立たない場所に、小さなボックスがあった。これはどうやら警備の詰め所らしい。

 老人の警備員が座っていて、カウンターには細長いパンフレットが置いてあった。

「パンフレットもらえますかね」

 値札はなかったので、無料らしい。

 老人に会釈すると、向こうも和やかに頷いてくれた。

「読めるのかや?」

「……読める訳ないだろ」

 もちろん全部蒸語なので、パンフレットはケイに渡した。

「うむ、詮ない事を聞いてしまったの。……中にも入れるようじゃな」



「思ったよりもずっと綺麗じゃのう……」

 埃っぽさなんて、微塵もない。

 それに、広い。

 いくつかの部屋に分かれているようだが、入ってすぐは応接間のようだった。

 中央にテーブルクロスのされた木製テーブルと、二人分の椅子。

 台所、暖炉に食器棚、本棚。

 壁に幾つも立て掛けられた小さな絵画や床の敷物が、何というか女の子が住んでたんだなあという印象を受けた。

「思うに何度か補修されてるんじゃないか? 綺麗なのは当然、掃除されてるからだろ。……何か、博物館に勤めてる系の人とかがやってんじゃないかな」

「おう、これは面白い」

 あちこち忙しなげに動き回っていたケイが、テーブルの上に注意を向けた。

 中央にあるのは、カラフルな手に乗るサイズの人形だ。

 これは、一角獣と妖精か。

「粘土細工だな」

「よく出来ておる。これは小鬼じゃの。こちらは大鬼。これは幽鬼かの」

 ケイが、窓際や本棚の縁を指差した。

 言われてみれば、あちこちに粘土製の人形が置かれていた。

「当時の趣味とか、遊べる物なんて殆ど無かっただろうし、こういうので遊んでたのかね」

 それにしては、普通の動物じゃなくてモンスターばかりなんだけど。

「む、説明によれば王様ではなくて養父の趣味だったようじゃぞ、これ」

 広げたパンフレットから、ケイが顔を上げる。

「王様に向かって、がおー、とかやってたのか」

「そうではなくて、作る方でじゃ」

「神フィギュア原型師の祖先か」

「とすると、この近くには粘土質の土があるという事じゃな」

「…………」

「…………」

 僕とケイは、顔を見合わせた。

「この辺り、個性で割れるな」

「まったくじゃ。その養父、セキエンの事も掲載されておるの。ほう、元六禍選とな」

 そこで、彼女は首を傾げ、僕を見上げた。

「……六禍選とは、何者じゃ? そこが載っておらぬのでは、片手落ちではないか」

「手っ取り早く言えば、皇帝直属の幹部親衛隊だ。数字の通り六人いて、当時の六人なら僕も知ってるんだが……考えてみれば、先代がいてもおかしくないんだよな」

「そもそも、王様が旅立った理由が、このセキエンが殺された事に由来するようじゃが」

「何だって!?」

 それはちょっと、予想外だった。てっきり正義の為にとか、そんな動機だと思ってたのだ。

「そりゃ、故郷を発つなら動機がいるじゃろ?」

「いや、そうだけど……そうか、そりゃそうだよな。帝国が侵略してきたから、それに抵抗して……ってのなら、普通軍隊に入るよなぁ」

 単独で旅に出るって辺りで、そこは疑問に思うべきだった。

「当時の軍隊って、女でも入れるのかの?」

「んんー、そこも問題になるか」

 多分、難しかったと思う。

「ともあれ、王の動機は、個人的な事情だった訳じゃ。ええと、そのセキエンを殺したのがやはり元六禍選、その筆頭であるプリニース」

「そのパンフレットには、二人とも書いてあるのか」

「簡単なプロフィールじゃがの」

 という訳で、ケイに読んでもらった。


 青き鬼火のセキエン。

 ユフ王の養父であり、元六歌仙の一人。

 彼女が皇帝に殺される事を察し、皇帝領から逃亡した。

 召喚術を得意とし、様々なモンスターを呼び出せる。

 生業は神父であり、同時に医者と教師の兼業も務めていた。


 不明不在のプリニース。

 六禍選・筆頭。

 博物学者であり政治家であり軍人。

 老体ながら巨躯の持ち主で、格闘戦も得意とした。

 愉快犯で、相当な稚気の持ち主だったという。

 自分の存在を薄れさせる能力の持ち主。

 ただし世界から存在を薄れさせる代償として、最悪消滅の危険性があり、(世界への影響が薄いという意味で)攻撃しても威力が弱い等の欠点があった。

 能力とは別に、狼頭将軍ハドゥン・クルーガーや次期六禍選の候補だった銀輪鉄騎のダービー、他試験体を改造する優れた科学者でもあった。


 ケイが読み上げたそれに、僕らは何とも言えない顔になっていた。

「……超人バトルじゃな」

「……軍隊いらないだろ、コイツら」

 説明と共に、肖像画の写しもあった。資料は、帝立シティム博物館とある。

 なるほど、セキエンの方は線の細い眼鏡の学者風。

 プリニースは説明にもある通り、屈強そうな髭面の老人だ。肖像画にも関わらず、ニヤリと笑っている。

 そこでふと、棚や窓際に置かれた小さな人形を思い出した。

「待てよ。って事はあの粘土細工は、召喚に用いた依代だったってトコか」

「魔法なるモノが、本当にあればの話じゃがの」

「魔法否定派?」

「いや、あったかどうか分からぬというだけの話じゃよ。今は存在せぬからの」

 それはもっともだな、と僕も思った。

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