第四章 (ニ)
翌朝、遅い朝食をすませたエドワードは、九時に宿を発つことをウイリアムに伝えた。
ウイリアムは、早くに食事も仕事もすませ、丁度馬の様子を見て戻ったところだった。昨夜は、夕食後遅い時刻まで給仕の女と過したらしい。朝から女は、ウイリアムの後を付きまとっていた。
彼は、従者としてエドワードに信頼されていた。茶の髪に淡い青の瞳、細身の好青年だ。年は二十二を過ぎたくらいの若さだった。サズボーンの領地の娘達にも、ウイリアムは人気者だ。幼い娘や若い娘、年を少し過ぎた娘にも…。ウイリアムは女性にとても優し過ぎるのだ。
だが、ウイリアムも、一晩の情事となると話は別だ。翌朝になっても、付きまとわれるとさすがに仕事に差し支える事だろう。主に、宿を発つと言われるとなおさらだ。
「旦那様、馬車の用意は出来ております。」従者は、深々とエドワードにお辞儀をした。
カウンターの物陰から、給仕の女がウイリアムに熱い眼差しを送っていたがウイリアムはいつもの従者の仕事に戻っていた。
エドワードは、部屋からロンがトランクを運び出して、馬車の後ろに積み込む様子を宿の入り口で見ていた。
「主人、世話になった。」
「伯爵さま、またおいで下さい。」宿の主人は禿げた頭で、深々とお辞儀をした。エドワードは、トランクを積み終わったロンの頭を大きな手でなで、従者の待つ馬車に乗り込んだ。ランダムア屋敷に向け、馬車を走らせたのだった。