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第三章 (三)


 ドーバーの北は、翌日嵐は嘘のように消え去り、初夏の暖かい日差しに包まれていた。

 夜明けとともに、使いの従者ロバートはロンドンに向けて、サズボーン館を後にしていた。


 昨夜雨の中、エドワードはいつものように外套の下に拳銃を忍ばせ、馬で森を掛け抜け、そのまま領地の見回りに向かったのだった。最近、農民地では家畜が何ものかに襲われる事が多発していた。農民にとっては、生活にかかわる事態でいたのだ。村民の間では、狼のしわざだと噂されていたのだった。

 

 エドワードは馬を走らせながら、三年前の森の出来事を思い出していた。

 あの日もエドワードは、亡き父先代のサズボーン伯爵から受け継いだ土地を自らの目で監視するために、夜館から抜け出し森に入ったのだった。軍隊にいた頃も、眠れぬ夜は馬と共に一夜を過ごしたものだった。

 三年前、偶然にも、森の開けた場所にメリンダが傷を負おう状態で見つけたのだった。意識はなかったもの、髪型や服装で貴族階級で、隣の領地の娘メリンダと分かった。だがどう見ても、まだ十五前後の年の少女だった。

 領地どうし隣合ってはいたが、エドワードはランダムア邸を訪問しても顔を合わす事は殆どなかった。幼いメリンダは、いつも小さな男の子と、遠くの庭や林の中で遊びまわっていたのだった。

 エドワード自身も軍隊からの帰省した時に、父と隣の領地に挨拶に訪れる程度だった。

 しかし、三年前の夜、森でメリンダを見つけたエドワードは自分の目を疑ったのだ。

 メリンダの服装は、髪は乱れ、木の枝や泥汚れでドレスは酷い状態でいたが、その顔は森の妖精をも思わせる容姿だった。その時ほど、メリンダに釘づけになった事はなかった。今まで、ランダムア邸を訪問した時、なぜ気にも止めずにいたのかと、自分自身を呪ったのだ。

 二人が許婚なのは、知っていた。領地が隣どうしとあって、母親どうしが仲良く過ごすことが多かったのだ。幼い頃、エドワードも弟アンソニーと何度もランダムア邸に訪れていたが、まだ赤ん坊だったメリンダには興味すらなかった。弟アンソニーと、目の前にあるお菓子やケーキに夢中だった。


 エドワードは、ケンブリッヂを出た後に軍隊に入隊し、父が亡くなるまで戦地では指揮官として過すことが多かった。その時でも、メリンダの年は十二の少女だったので、興味も眼中にもすらなかった。

 両家で誓いの念書かわしていないだけで、母親どうしが決めた婚約だった。

 大人だったエドワードは、別の方に夢中になっていた。酒場の娼婦のスカートの下と、そして酒に…

 軍隊に入るとそう言うものだと、思わずにはいられなかった。男ばかりで、別の世界で過ごしていたのだから。

 あの夜で、すべてが変わった。亡き父の後を受け継ぎ、父の遺言で母の望みを叶え、領地を守ることを託されていたのだ。あの一夜で、エドワードは、森の妖精に心奪われたのだった。森で見つけたメリンダを、自分の腕の中に抱き寄せたエドワードは、そのふっくらとした唇に口づけせづにはいられなかった。甘く、柔らかく、その感触は今でも欲望を忘れさせない出来事だった。

 メリンダは静かに息はしていたもの、意識はなく、そのまま馬でランダムア邸まで連れて行ったのだ。。その光景は、今でも忘れられない。




 〝必ず迎えにくる。その時まで、待っているんだ。メリンダ〟




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