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第五章 (ニ)


 エドワードは夕食後も、フランシスと食堂から居間に場を変えて、二人でワインを嗜んでいた。

 エドワードは、昔の両家話、亡き父母の思い出話、義母となるはずだった亡き公爵夫人の話に、耳を傾けて聞いていた。フランシスの会話の中で、一番興味のある話が、三年前に起こった事件だった。

 事件と言う言葉を使うと、大げさになるかもしれないが…。あの時、エドワードは翌日夜が明けてから、自分の目で森を隈なく調べた。だが、フランシスも同じ事をしていたのだった。

 

 〝なぜ、彼女はあの時一人だったのか?なぜ、森の奥まで入り込んだのか?〟

 

 今となっては、疑問だけが残っていた。森では、特に手掛かりになるようなものを見つけることは出来なかった。メリンダは、その時の記憶が何もなかったことを、エドワードは今、はじめて知ることとなった。公爵はメリンダに、この事について問いただすような事は一切していなかったのだ。

 フランシスはエドワードに、この事についてはあまり触れてほしくないと、そして彼女には自身を守るすべを教えていることを仄めかしていた。


 エドワードは義理の父となるフランシスと、こんなにも楽しく会話をして過ごすとは、思ってもいなかった。ケンブリッヂ後は、殆ど軍隊で過ごし、退役後に館に戻った時には父が亡くなった後だった。自分が死の淵に佇むことも無く、父が生きていたなら、こんな風にお酒を交わしていたに違いないと思っていた。

 フランシスは、年代物のワインをニ本とも殆ど開けてしまっていた。時刻も九時を回る頃には、ふらつく足取りで自室に戻っていったのだった。

 エドワードは、従者に馬車の用意をさせていた。時計を見ると、約束の時刻にはまだ少々早かった。だが、居間を後にすると、そのまま屋敷を出て馬車で待ち合わせの場所に向かうことにしたのだった。

 馬車に乗り込むと、馬は軽い蹄を立ててロンドンの霧の中に向かって走り出した。


 屋敷の窓の片隅で、カーテンがそっと動いたことも知らずに…

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