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第五章 (一)

 

 〝夕食の時間、お父さまは本当に嬉しそうなご様子だった。〟


 メリンダは夕食の後、部屋に戻ると今日一日で起こった出来事を、頭の中に思い浮かべずにはいられなかった。書斎での父の微笑んだ顔、病で自室に引きこもりがちで、いつもなら「夕食もあまり食欲が無い。」と言って部屋に戻ってしまうが、今夜は長々と伯爵とワインを飲み、昔話に花を咲かせていたのだった。二人は、メニューを殆ど完食していた。伯爵は、お代りを申し出たくらいだった。メリンダは思い浮かべると、微笑まずにはいられなかった。こんなに楽しく思えた夕食は、暫く振りだったからだ。父とわたし、そして伯爵との夕食…

 いつもの様に食事の内容を決めたのは、メリンダだった。ハワードの選ぶワインも完璧だった。彼は、執事の仕事を本当に心得ているのだ。メリンダは、メアリーと食材を確認し、香辛料と調理の仕方を変えただけだった。けして、贅沢と言えるような食事では無かったが、それでも父も伯爵も「実に甘美だ。」と、称賛してくれたのだった。

 今朝までは、自分自身で裕福な夫を探すつもりでいた。だが今は、父から紹介された許婚と結婚をしても良いとさえ思い始めていた。確かに、許婚と聞かされた時は驚きを隠す事が出来なかった。幼い頃から、そんな話は一度も聞いた事など無かったからだ。亡き母の望みと聞かされると、従うしかなかった。殆どの貴族は、政略結婚だと彼女も知っていた事だった。

 メリンダは、父の選んだ伯爵と幸せな結婚が出来るのか少し不安になっていた。


 部屋の扉から、ノックが聞こえた。


 「どうぞ。」メリンダは、リリアだと思い直ぐに返事をした。

 「お嬢さま、湯をお持ちいたしました。」リリアの後ろには、サムと見知らぬ従者が湯を入れたバケツを手にしていた。名の知らぬ従者は、ロバートの代わりなのかしら?と、ふと、メリンダは思った。

 いつもの様に手際よく、リリアは沐浴の用意を始めた。化粧室の浴槽はとても〝豪華〟には、程遠い代物だった。二人の入れる数杯の湯で、十分な量になったのだ。

 幼い頃から、使用している浴槽。少し窮屈だけれど、子猫の足みたいな四本の支え柱が、とても可愛らしい。今でも、大切に使っている。

 父の為、家の為、けして我儘など言ったりはしない。使える物は、終わりが来るまで大切にする。ドレスも靴も、すべてを… ドレスは、レースを付け替えると見栄えが変わる、同じ物をたくさん持つ必要はないと、メリンダは思っていたからだ。

 リリアが部屋から下がると、化粧室に行き、身に着けていたガウンとシュミーズを脱ぎ、椅子の上に畳んで置いた。

 浴槽に浸かると、石鹸をタオルで泡立たせ体の隅々を念入りに洗った。最後に腰まで届く長い髪を洗い上げ、浴槽の湯で何度も洗い流した。

 〝野バラの石鹸。この匂いだけで、癒される… 一番、好きな時間。〟

 メリンダは、湯から出るとタオルで体を拭き、新しいシュミーズと寝間着を身につけ化粧室を出た。 腰まである髪をタオルで拭きながら、何気なく部屋のカーテンの隙間から外を見ると、屋敷の前から馬車が出て行くのが目に留まった。


 〝今夜、伯爵はどこへ出かけるのだろう。〟


 メリンダの心の奥に、〝ズキン…〟と、何かが深く突き刺さった。

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