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第四章 (三)

 ランダムア・ハウスの翌朝、執事のハワードは大忙しだった。

 従者ロバートにまる一日も暇を出してしまい、客人と付き添いの使用人の数がわからず、客室と使用人の棟を行ったり来たりして、悲鳴を上げる寸前でいた。特に客室の部屋には、清潔なリネンのシーツや枕カバー、洗面台に置くタオルや石鹸のはてまで完璧に用意しなくてはならない。特に、大切な客人にはなおさらだ。使用する部屋が足りなくならない様、すべての客室をメイドに用意をさせたのだ。

 ハワードは地下室に行き、ワインの銘柄を選ばなくてはならなかった。客人がどの銘柄が好みさえわからない。

 〝まったく、猫の手も借りたいとはこの事だ!〟

 地下のワインセラーにはヴィンテージワインが数多く眠っていた。以前、公爵が財政に余裕がある時にフランス船から買い取った物だった。売れば高値が付くだらう。だが、商人ではない公爵は自分の置かれた身分では許されない行為だ。

 ハワードはその中から数本のワインを選んだ。ハワードは食事の席でブランディを飲まれるのは好きではなかった。滅多に訪れる事のない公爵の弟サーマス卿が、ワインよりブランディを好むからだ。

 執事としては、主の客人に食前酒として自分の選んだワインを出すことに誇りを持っていた。ハワードは料理に合わせてワインを用意したが、弟サーマス卿はお構いなしだった。彼は長年ランダムア公爵に使え、最高の執事を務めてきたが、サーマス卿の振る舞いには何度も眉間に皺を寄せ鼻を鳴らすほどだった。ハワードはワインを選び終わり厨房へ向かおうとした時、玄関ホールでノッカーの音が大きく鳴り響いた。ハワードは足を速めながら上着下のべストのポケットから、懐中時計を取り出し時間を確かめた。

 〝なんていう事だ、もう五分前ではないか!〟どうやら、今日の客人は時間にとても正確な人物のようだ。ホールに向かい扉を開けたハワードは、目を見開いて思わず佇んだ。

 

 扉の外には、大柄で厳つい長身の紳士が立っていたのだ。長髪の黒髪は後ろで一本に束ねられ前髪はかすかに顔にかかり、顔立ちは鋭く野生的で全身に筋肉のついた紳士だった。服装は紳士らしく、黒の上着をはおり、片手には山の低い帽子と白手袋を持ち、清潔そうな白のリネンシャツを身に着けクラヴィツトには真珠のピンを刺していた。太股に張り付いたズボンに下には、磨かれ黒の革靴を履いていたのだった。

 「どちら様でございますか。」ハワードは訪ねてきた紳士が誰かはわかっていたが、玄関先での執事の務めとして紳士に訪ねたのだった。

 「わたしは、サズボーン伯爵と申します。フランシス・シリア・ランダムア公爵に急用があって参りました。公爵にお伝えいただきたい。」

 「お名前は主から、承っております。サズボーン伯爵さま、中へお入り下さいませ。」ハワードは扉を大きく開け、玄関ホールへと迎い入れた。

 「執事、名を思い出せ無いのだが…」

 エドワードに尋ねられたハワードは、一瞬誰の事か理解できなかったが、自分の事だと直ぐに気付いた。

 「執事を務めます、ハワードでございます。伯爵さま。」ハワードは、扉の内側で曲がった腰で深くお辞儀をした。

 「ハワード、従者を一人連れている。ニ頭の馬を休ませたいのだが、わたしの従者に厩舎を案内してもらえるかな。昨日は馬も走り通しで、朝から不機嫌のようなのだ。」エドワードは執事に、肩をすくめてみせ、玄関ホールの中へと入った。

 「かしこまりました。伯爵さま、暫くこちらでお待ち下さい。」ハワードは、心の中では慌てていた。〝さあ、困った。ロバートは暇を貰い、今日は屋敷には居ない。〟

 ハワードはこうなった以上、厨房のサムにロバートの代わりを務めさせる事に決るしかなかった。

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