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第1話 谷口の情報

ここからが本編といった感じです。

一.


「悠一、ニュースだニュース!」


 十一月の第二火曜日の朝のホームルーム前、僕はクラス一の情報通(マニアというと、本人が怒るから)である谷口敬太に声を掛けられた。


 ここ最近、ずっと悪夢に魘され、ろくな睡眠をとっていない僕の目の下には隈が出来つつある。そんな寝ぼけ眼で僕は訊いた。


「朝から何の用だよ。おはようの挨拶もなしに」


「だから、ニュースだ!っつってんだろ」


 谷口は目を輝かせ、「しかも、お前にとっちゃ人生最大であること間違いなしの、とっておきのやつだ」と付け加えた。


「ソレ、またお前の得意なデマだろ」


谷口の情報はまるであてにならない。


これは僕が谷口と長年付き合ってきた上で思うことだ。奴の情報を信じると痛い目に合う。人を信じることは大事なことだけれど、すぐに心を許すと駄目だ。これも奴と付き合ってきて思うことだ。結構、世の中、俗に言う世間一般にも通用するんじゃないか、とも思う。


「何だよ。この俺の情報を疑うってのか」


「ああ、信用なしだよ。できれば、他をあたってください」


「このネタは、お前限定なんだ」


「お得意様限定ネタ、ってことか」


「んー、まあそうだな」


 谷口の口調からすると、まだいまいち乗り切っていない客にあまり煮えきっていないようだったが、返事を待たず、奴は話し出した。相当、喋りたがっていたらしい。


「昨日の夕べに母さんが言ってたんだけど、1週間後に向かいの里中さんが帰ってくるんだってさ」


「マジ」


「おう。情報源が俺の母さんだからな。俺の次に信用できる」


「あ、そう」


突っ込むのもめんどくさい。眠いし。


何より、僕は奴の持ち出してきた情報に夢中だった。


「そっか。ゆづるが帰ってくるんだ」


「あ。今何かいかがわしいこと考えませんでした」


「お前じゃあるまいし、考えるわけねぇよ」


「でも、里中家が渡米したのって、確か俺らが小5のときだから、5年前っしょ。あれから、5年の月日が経ってるんじゃ里中もえらいことに……ふふ……ぶ」


最後のぶ、は別に奴が鼻血を出した。とか、そういうオチではない。僕が一発頭を殴ってやったのだ。


 いってぇ、とか嘆きつつ、まだ飽きもせず奴は「里中がアイドル並みに可愛くなってたりしたらどうする?」とか抜かしている。


「今度は、その口きけないようにへし曲げてやろうか」


「いえ、間に合ってます」谷口が急に真顔になって言う。何が間に合っているのか、理解不能だ。


「でもさ、いやほんとに冗談抜きでさ、里中が美少女になってたらどうするよ?そしたら、学年、いや、学校中の野郎たちの注目の的だぜ?美少女転校生。なんとなく響き的にもエロくね?学校ではきっちりと校則守って中学生やってるくせして、裏では何人もの愛人がいんの。何しろ、美少女転校生だから」


「それ以上言うな、脳が腐る」それに、と僕は言う。


「アイツはそんな子じゃないだろ。とにかくいい子なんだ。お前も知ってるだろ」


「ああ。……それにしても、真に受けんなよ。悠一って意外と神経質だよな。俺じゃついてけない」


「お前が楽天的過ぎるんだ」


「そんなもんかね。まあ、里中がどんなになってたとしても、里中は里中だしな。中身がまんまじゃ、必然的に愛人の線は消えるか。つまんねぇの」


「お前の頭はそんなことしか考えられないのか」


「ん。まだまだいろいろあるぜ。もち、愛人って線が抜けただけで、美少女転校生ってのは消えてない。巨乳、ロリショタ……それから……い゛。や、やめろ、ゆういちー」


 今度は唇の端を容赦なく引っ張ってやった。これでさすがに奴も懲りるだろう。きっと。

「彼女の記憶」第1話目です。文章がこんなでも、至って本人、真面目に書いています。(汗)宜しくお願いします。

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