プロローグ
よく見る夢がある。
見終わったときには、必ず僕は魘されている。汗をびっしょりかいて、シーツまでも濡れてぐしょぐしょになっている。絞ったら、コップ一杯の汗が出るかもしれない。
その夢は、実にシンプルな内容で、ひたすら鬼ごっこをしている夢だ。
決まって、僕が鬼。
そして、もう一つ決まっていること。
夢の中の僕は小学校低学年くらいの僕ってこと。どうして、小学校低学年くらいの自分だって、わかるかって。そりゃ、わかるさ。自分のことなんだから。背丈もそうだし、何より、僕は小学校四年生まで眼鏡をかけていたから。黒くて細いフレームで縁取られた、四角いレンズの眼鏡。幼い顔には、その眼鏡は不釣合いで、印象が大きすぎた。結果、その頃の僕のあだ名は、めがね君だった。
僕は、もう動き出してもいい頃かな、と思い、これが合図だとでもいうように、ずれてきた眼鏡を右手で押し上げた。
「もういいかーい」
「まーだだよー」
「もういいかーい」
「もういいよー」の合図で、鬼である僕は動き出す。
みんなはどこに隠れただろう。ここか。それともこっちか。思考回路をフル回転させる。
「小田切君、みーっけ」
「太一君、みーっけ」
「奈央ちゃん、みーっけ」
次々と、標的を見つけていく僕。容姿は小学校低学年でも、夢を見て鬼を操っているのは、この僕。ちっちゃい子に負けるはずがない。いや、負けてたまるもんか。
「吉沢、みっけ」
ラストスパートを切る。もう勢いは止まらない。
ある種の快感。
残りもラスト一人となる。
でも、どうしてもその一人が見つからない。どこを探しても出てこない。
そのうち、日が暮れる。最初にみつかった子たちは、だれてきて、
「まだかよー」
「早くしろー」を連発している。あと一人、あと一人、という掛け声をかけるものはいなくなった。
一人の子は、公園を出て行ってしまった。誰も呼び止める子はいない。みんな好き勝手に遊んでいる。僕ももう正直どうでもよくなってきている。
「今日はこれで解散だー」
と言われたら、喜んで鬼ごっこを止めただろう。最後の一人だって、解散となれば、ひょこひょこと現れるはずだ。
よし、ここは僕が自ら解散を提案してみよう。
僕が意を決した、その時だ。
先ほど公園を出て行った女の子が悲鳴をあげた。
なんだなんだ、と声のした方にかけつける僕たち。
そこにいた。いや、あったのは、僕がずっと見つけ出せないでいた最後の一人の抜け殻だった。彼女は、ルールを破り、鬼ごっこをしていたはずの公園を後にし、その直後車に引かれていたのだ。それからだいぶ時間が経っているのか、まわりの血は赤黒い固体となっていて、彼女の体は頼りなさげに横たわっていた。
僕はそっと、彼女の体を起こす。首はまるで、首の据わっていない生まれたての赤ちゃんのようにだらんと垂れ下がり、体は当たり前だけど、冷えていた。正気はない。
が、彼女の顔はかすかに笑っている気がした。
そして、初めてそこで気づくのだ。
その子の最期の顔が、きみが僕に見せる顔にそっくりだってことに。
決して、その子はきみに似ているわけじゃないけど、僕はその夢を見るたび、きみを思い出す。そして、不安になる。五年前にまた逢おうと約束し、さよならして以来、きみは今一体何をしているんだい。
小説を執筆し始めてから年が浅い為、文章の構成の仕方、言葉の使い方等に間違いがあるかと思いますが、自分らしい文章を書こうと日々努力しています。
どうぞ宜しくお願いします。




