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03 ファーストコンタクト

見目麗しい美青年の登場に固まっていると、エリーがさっと宮子の前に出た。


「いくら国王とは言え、王妃の寝室に許可なく立ち入るとは何事でしょう」


お化粧だってまだなのに、というエリーの心の声が聞こえてきそうだ。

美青年は美少女のエリーに初めて気付いたというような視線を寄こすと薄く笑う。


「何だ、お前が王女といったほうが納得する顔をしているな。どうだ、そこの地味顔と身分を取り替えてはどうだ」


エリーはさっと顔を赤らめる。

照れたわけではなく、多分怒りのために。

彼の言い分は尤もな意見だと思うが、カチンと来ないわけでもない。


「そうですわね。素晴らしいご意見に感心致します。見目で身分を選ぶことが出来るのならば納得です。きっと貴方様もお顔で国王陛下をお勤めしていらっしゃるんでしょうね。お顔が宜しいと高い身分につけて羨ましいですわ。カヤラン国では考えられないことです」


来ないわけでもないので、宮子はOL生活で築いた、超ムカつくクライアントにも慇懃無礼な笑顔と態度でいきましょうモードを発動した。

ぴくりと、国王の眉が動くが知ったことではない。

ミレーネ様が勝手なことをしているのだから、長い夢から覚めるまではやりたいようにやらせてもらう。


この世界でたった一人、自分を更科宮子だと知ってくれている少女が傷ついているのを、宮子は見て見ぬふりをするなんて出来ない。

それが美少女であればなおさらだ。


しかしさすがに言いすぎてしまったのだろうか、隣のエリーがさっきよりも赤くなって、ちらちらこちらを窺っている。

けれどいまさら前言撤回は出来ない。

するつもりもないけれど。


毅然とした態度を保って、挑むように国王を見ていると、国王の顔が歪んだ。



「言うではないか。ミレーネ嬢」


「ええ。口がついておりますから」


「ふん」


国王は何故か宮子のほうに手を伸ばしてくると、くいっと顎を持ち上げてくる。

驚いたが驚きを表さないよう、ポーカーフェイスを保った。


「何故女はわざわざ化粧をする。男に媚びを売るためか」


「は?」


思わず、馬鹿じゃないの、と声に出してしまった。

失言にエリーがミレーネ様と焦った声で咎めてくる。


「馬鹿だと。いま俺を馬鹿だと言ったか。では何故お前は化粧もしていないと先程喚いていた。俺に媚びを売るためではないのか」


「すみません、馬鹿は言いすぎでした。取り消します。国王陛下が妙なことを仰るのでつい心の声がもれてしまいました」


「ほう。いくら次期王妃とは言え口が過ぎるな。全く撤回していないではないか」


「質問にお答えします。わたしが化粧をするのは礼儀のためです。例えばわたしは今日初めてあなた様にお会いしました。それなのに寝起きの顔そのままでは礼に欠けると思います。地味な顔を少しでも見栄えよくしたいという女心を理解していただきたいですわ」


「礼だと」


「はい。確かに男性によく見られたいからと化粧をする女性もいるかもしれません。けれどわたしはそういうタイプではないのです。国王陛下の言うとおり、化粧したところであまり変わりませんから」


少し自嘲を込めて最後はおどけて言えば、エリーにがっと手を握られた。

しかも両手で。


「ミレーネ様!ミレーネ様は謙遜しすぎですわ!ミレーネ様はとても愛らしく、人としてとても素晴らしいお方です!」


「あ…ありがとう…エリー…」


「そんな…恐れ多いですわ!侍女に礼など必要ございません!わたしのことなど顎で使っていただいても構わないのですから!」


「え…でも…ありがとうと思ってるのに言わないなんて気持ち悪いよ。エリーが嫌なら言わないけど」


「嫌だなんて…!そんな…!」


エリーはなぜか目を潤ませる。

なんだかものすごいハイテンションだ。

それにしても王女様って難しい。

自分より身分の低い人にお礼も言わないのかしら。

わたしが王妃に向かないことくらい、王様に言われなくたって自分が一番よく知っているっていうのに。


「変な女だ…」


ぽつりと呟かれた声に視線を向ければ、国王が理解できないというような難しい顔で宮子を見ていた。


「今まで俺に群がる女は俺に媚びを売ろうと必死だったというのに、ミレーネ嬢、お前のその態度は何なのだ。王妃になることは決まっているから俺などどうでもいいのか」


「どうでもよくありません。わたしの夫になる方なんですよ。それに国王陛下、媚びを売ろうにも売らせてくれる暇がなくては売れません」


「売らずともよい」


国王は疲れたように溜息を吐く。


「ミレーネ嬢、お前は、いや、あなたは私が今まで会ったどんな女性とも違う」


言葉が丁寧になったことに素直に驚く。

美青年だという印象を捨てて彼の顔を見れば、そこには心細そうな男の子の顔があった。

国王、という身分だけど、とても若い。

多分宮子よりもずっと。


「あなたも知っているだろが、私は女性が嫌いだ」


「はあ」


「恋愛などしたことがない」


「え…?」


「あなたが私との婚礼を望んでいないことも知っている。だが、あなたは次期王妃だ。これは決定事項である。決して覆らない」


「そのようですね…」


「先程寝室に入ったことを侍女に注意されたが、本来なら私はそれを許される身分だ。ここはカヤランではなくリコリスなのだから」


「国王陛下、何が仰りたいんですか?」


「あなたが私に礼を尽くすというのならば、私もそれに応えよう。ノックも、善処する。だから、」


国王が突然腰を折り、床に膝をつけ、片足を立てる。

さながらおとぎ話の王子様のような格好で、彼は宮子の片手を恭しく取った。



「私に初恋を教えてくれないか」


手の甲にキスをされ、顔から火が出るかと思った。


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