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01 ミレーネ様

王様ゲームならぬミレーネ様ゲーム?


メイド服の少女を首を傾げて見ていると、悲しそうな顔をされた。

美少女はそんな顔さえ絵になる。


「このような言い方しか出来なくて申し訳ございません。わたしも何から伝えればいいのか迷っているのです」


「えっと、それじゃあ名前から教えていたでしょうだけないでしょうか。わたしは更科宮子です」


「いいえ、あなたはミレーネ様です。そしてわたしの名前はエリーゼ。どうぞエリーとお呼びください」


「何度も言うようですけど宮子ですからね?」


どうして名前のところだけ言葉が通じなくなるのだろう。

訂正するとエリーはまた悲しそうな顔で首を振った。


「…わかりました、ミヤコ様。わたしとあなた様が二人きりのときだけはそう呼ぶように致します。ですが第三者の前でのあなた様にはミレーネ様でいていただかなくてはなりません」


さっぱり意味がわからないがここで蒸し返しては話が続かない。

頷くと美少女はほっとしたように息を吐いた。


「…さっきから繰り返し出てくるミレーネ様って一体誰のことなの?」


とりあえずひとつずつ問題を片づけていこうと、一番気になっていることを聞いてみると、エリーの周りの空気が緊張したようにピリッと張り詰めた。


「ミレーネ様はカヤラン国の第三王女様でございます。美しさと強さを兼ね備えた完璧な女性!金色の絹糸のような髪はカヤラン国の宝と謳われるほどです。幸運なわたしはそんなミレーネ様に十四の頃からお仕えさせていただいております」


「夢でミレーネって名前の超絶美少女と会ったことがあるわ。まるで彼女のことみたいね」


「ミヤコ様。それは夢ではございません。それは薄暗い薄気味の悪い書庫での出来事ではございませんか?実はわたしはあのときミレーネ様のお側に仕えていたのです」


「え…。夢じゃないってどういう…」


「ミレーネ様は完璧でした。ある一点を除いては」



エリーは沈痛な面持ちでミレーネ様のことを語り始めた。





ミレーネ様は好奇心旺盛な方で、とても頭のいい方でした。

目に映る全てのものに興味を持たれ、カヤラン国の書庫の蔵書も全て読破されておりました。

たくさんの書物は彼女に知識と探究心を与えました。

そして余計なもの、魔法への関心をも与えてしまったのです。


「エリー、知っていた?世界はとても広いのよ。世界はカヤランだけではないの。全然別の国もあるんですって!」


そう言ってミレーネ様は顔を火照らせました。

手には水晶玉が輝いています。

魔法への関心を抱いたミレーネ様が魔法を使えるようになるのに時間はかかりませんでした。

普通ならば何十年もかかるという大魔法も、知己に富んだミレーネ様はあっと言う間に取得してしまったのです。


わたしが覗いても水晶玉には何も見えませんでしたが、王女様には別の世界が見えていたようでした。


「エリー、知っていた?わたし、今日、彼女と目が合ったの。これはきっと運命だわ!」


ミレーネ様の言う彼女。

それはあなた様、ミヤコ様のことでした。


ミヤコ様はきっと何も知らないでしょう。

ミレーネ様が勝手にあなた様の世界を覗き見て、あなた様と目が合ったと感じただけなのですから。

それでもミレーネ様には十分だったのです。

こことは違う別の世界で初めて目が合った人間。

それは特別な人間に他ならない。

そう、お考えになられました。


その頃ミレーネ様にはリコリス国の王との婚儀の話が来ておりました。

勿体ないお話で城の者も国民も、皆、この幸運を喜びました。

第三王女に王からそのようなお声が掛かるなど、未だかつてないことです。

けれどミレーネ様おひとりだけは、この話に見向きもしませんでした。


「嫌ですわ、王妃になるだなんて。そんなに素敵な話なら、エリー、あなたが嫁げばいいじゃないの」


女の幸せは素敵な殿方に嫁いで、その殿方の御子を儲けること。

それがこの国での女の最大の幸せ。

けれどミレーネ様にとっての幸せはそうではなかった。

あの方は知識の海に沈むことが最上の幸福だと考えていたのです。

ですがミレーネ様は賢い方でしたから、わたしにそのような不平不満はぶつけても、決してその想いを外に出そうとはしませんでした。

国王陛下や女王陛下の前では頬を薔薇色に染めて喜び、婚礼の日を楽しみにしているように振る舞いました。


しかしお部屋にお戻りになるやいな分厚い本を開き、何やらぶつぶつと呟きながら一心不乱に活字の世界にのめり込んでいました。


このときに気付くべきだった。

わたしは呑気にミレーネ様も普通の女と同じように嫁いで、女の幸せを手にするのだと安心していた。


ミレーネ様の一番近くにいたのに、わたしはミレーネ様の心情を理解していなかったのです。

あの方は、最初から結婚など望んでいなかった。


この結婚が大国リコリスの国王から申し込まれた断れない話だからと表面だけ取り繕い、どうにか結婚から逃れる術をさがしていた。


そして、恐れていたことが起きてしまいました。



「エリー、わたしはもうこの国に飽きてしまった。ここにわたしの幸せはないわ。いつも一緒にいてくれたあなたならわかるわよね」


「ミレーネ様…何を…」


「水晶玉に映った彼女のことを覚えている?わたしずっと彼女を見てきたの、あの目が合った日から毎日ずっと。彼女の世界は素晴らしいわ。わたしは彼女になろうと思う。そして彼女がわたしになり変わるの。どう?素敵なことだと思わない?」


「あ、あの、ミレーネ様、それは一体どういう…」


「決行は今夜よ。善は急げよね」


「待ってください。ミレーネ様はこの国をお捨てになるのですか!?リコリス国の王との婚礼はどうするのです!?」


「エリー、どうか理解して。わたしは彼女と入れ替わるの。ただそれだけの話よ」


「彼女、その方もミレーネ様になり変わりたいと仰ったのですか?」


前のめりになってわたしが問うと、ミレーネ様は愛らしく笑って首を傾げました。


「言ってないけど、でも何も問題はないわ」


「え…」


「わたしになり変われるなんて余りある光栄でしょう?喜ばない女なんていないわ!ね!エリー!」


そして、ミレーネ様は彼女を、あなた様をこの世界へと誘い、あなた様になり変わりこの世界から去ってしまったのです。





長い物語を聞かされ、思わず突っ込んでしまった。


「その王女様のどこが欠点のない完璧な女性なのよ!問題ありまくりじゃないの!」


エリーは小さくなってぺこりと申し訳なさそうに頭を垂れた。

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