第4話:新しい案件
「買ってきたぞ」
「ありがとうございます。これで報告書間に合いますよ。まったく、備品管理くらいちゃんとしてくださいよね」
「いや~、ついつい忘れちゃってね。年末は色々忙しいし」
「はあ? ただただ飲み歩いてるだけじゃないですか!!」
「それも仕事だよ。し・ご・と!」
「所長、USBの在庫もないから買ってきた。あっ、これ領収書。それと先月壊れたカメラの修理は?」
「来週には直るってさ。彼方君、未来ちゃん、仕事熱心なのはいいけど備品は壊さないようにね。いくら僕持ちだからって雑にあつかいすぎ」
「へーい」
「はいはい。所長、お腹すきました。おにぎりとお茶」
「俺、弁当とコーヒー」
「君達ね、僕は所長であってパシリじゃないんですけどね」
「うるさい、早く行け」
キーボードを叩きつけるように打つ未来にすげなくされた所長は泣き真似をしながら外へと出て行った。本当にいい加減な男だ。
奴の名前は、春日俊晴。彼方と未来が働く『春日リサーチ』の所長だ。年齢は、彼方より五つ上の三十五歳。若くてどこか軽薄な印象を受ける男だが営業の腕は確からしく仕事が途切れたことはない。ただ実際の仕事は彼方達に任せきりでいつもは会社の雑用をするのみだ。
「彼方さん、三時に新規の打ち合わせがあるのでよろしくお願いします」
「あぁ? 聞いてねーぞ、それに所長の仕事だろう?」
「急用だそうで、それにあたしもさっき聞いたばかりです。あたしも同席するべきでしょうがこの報告書の作成が間に合いそうにないので」
「仕方ねぇな。で、内容は?」
「人探しです」
「また面倒なのが来たな」
「これが依頼書です。詳しくは依頼人から聞いてください」
未来から書類の束を受け取り自分のデスクでそれを広げる。依頼人は行方不明者の妹だった。探すのは兄。高校卒業と同時に家出をし、その後の消息は不明。ただ在学中から黒い噂をよく聞く人物だったらしい。
「ん? 月ちゃんと同じ高校……頭だけは良かったか。勉強は出来ても常識の分からない馬鹿だったと」
「彼方さん、本当の事でも依頼人の前では言わないでくださいね」
「言わねーよ。俺らの仕事は探す事。それ以外の事には興味ない」
「妹さん、結婚するらしいですよ。だからその事を伝えたいらしくて。親とは不仲で世間的に悪と認定された人物でも彼女には優しいお兄さんだったみたいですよ」
「ま、家庭の事情なんて他人には分からないしな。ただ、けっこう手間がかかりそうだ」
「そうですね。田中さんの紹介らしいです」
「あのオヤジ、俺を便利屋か何かと間違えてないか」
「気にいられたのが運のつきです。諦めてください。あたしだってけっこう無茶させられてるんですから」
数年前の事件で知り合った初老の刑事を思い出し思わずため息をが出る。目付きが悪い、柄が悪い、人の話を聞かないという三重苦のオヤジ。ただ、女子供には優しいらしく時々こうやって仕事を押しつけてくる。じゃあ、自分がやれよと言いたいがあのオヤジが扱うのは殺人事件が主なので動かないし動けない。
「くそっ、あのオヤジが持ってくる案件だ。絶対、大事になるに違いないぞ」
「だから、諦めてくださいってば」