第3話:食卓
目覚めると隣にいるはずの陽菜の姿がなかった。
「…………陽菜?」
彼女がいた場所に手を伸ばすとそこは冷え切っていて、いなくなってからかなりの時間がたっていることが分かった。布団から抜け出し、リビングへ行くとめずらしくカーテンが開かれており窓から光がさんさんと降り注いでいる。と同時に台所から楽しげな鼻歌と味噌の香りがした。
「陽菜?」
「おはよう。もうすぐご飯出来るから待っててね」
「…………あぁ。顔、洗ってくる」
「うん」
洗面所に向かいながら自分の頬が思わず緩むのが分かる。朝からあんな曇りのない笑顔の陽菜を見るのはいつぶりだろうか。その上、彼女の華奢な指には自分が贈った指輪があるのだ。顔がにやつくのも仕方がない。だが鏡に写った自分の顔を見てこれはいけないとたっぷりの冷水を顔にかける。こんな顔を所長達に見られたら何を言われるか。ついでに髭を剃ってからリビングへと戻る。
するとテーブルの上に見なれない封筒があった。この家に届くのは、請求書かダイレクトメールくらいだ。しかし、これは見るからに個人からの手紙だ。
(宛先は…………陽菜? 佐光女学院同窓会?)
「陽菜、これは?」
「あぁ、高校の同窓会のお知らせ。母親が持ってきてくれて」
「ふぅん。行くのか?」
「どうしようかなって。まだ悩み中。幹事がわりと仲良かった子だからぎりぎりまで返事待ってくれるって」
テーブルに食器を並べながら陽菜は苦笑をする。病気になって極力外部との接触をさけてきたせいかあまり気がのらないようだ。
(まぁ、月ちゃんもいないしな)
「これが中学のなら行こうかなって思えたけど。まさもいるし、それに月子の事話せる子がいるから」
「ん? 月ちゃんて同じ高校じゃないのか?」
「うん。高校は別。まさと月子は一緒だよ。あの二人は、藤之宮」
「あー、あそこね」
藤之宮高校と言えばここら辺で一番の進学校だ。中高一貫校で、高校からの編入組みは国立大学が確実の秀才ぞろい。だが裏ではかなり評判が悪い。近くの男子校に通ってた自分の耳にもあの噂は流れてきた。まぁ、あくまで生徒達のみが知る噂話だが。
「月子は、途中で退学しちゃったけどね。本当は、私と一緒の学校に行きたいって言ってたの。だけど、おばさんが駄目だって」
「月ちゃんのお袋さんてあのジュエリー青柳のオーナーだろ? そりゃ、対面を気にするだろうな」
「でも、結局それで月子の引きこもり生活が始まったんだよ。最初から私と同じ学校に通ってたら楽しい高校生活になったかもしれないし」
「それでも最後に決めたのは月ちゃんだ。それに彼女はある意味あこがれの存在だと思うぞ。高校中退でも立派にやれるってさ」
「…………そうだよね。さぁ、食べよう」
「あぁ」