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アルテミスの涙  作者:
第1章
4/11

第1話:仕事

 「ちっ! 早く出てこいよ」


 狭い通りの片隅に止められた車の中で、男は舌打ちをする。運転席を軽く倒し、煙草を咥えたままある一点を凝視していた。その横では、彼より若い眼鏡をかけた女性がカメラを手に同じ場所に視線を集中させている。

 彼等が注視しているのは、繁華街にあるラブホテル。自分達のターゲットであるカップルが出てくるのを一時間以上待ち続けていた。

 男の名前は、後藤彼方ごとうかなた。小さな調査会社に勤める調査員で、数週間前に引き受けた浮気調査を行っていた。本当ならもっと早く調査を終えていたはずだった。何故なら、依頼が来た時点で調査対象者の浮気が確定済みだったからだ。

 依頼者である妻が持ってきた証拠の数々は、相手の女の情報から始まり、二人がよく行くホテルの場所まであった。

 思わず、「調査の必要はないのでは?」と尋ねたが第三者が撮った決定的な証拠が欲しいとのことで、妻の熱意は相当なものだった。どうやら、昔から夫の浮気には悩まされていたようでついに強硬手段を取ることにしたのだという。

 「慰謝料を取れるだけ取る為に必要なんです」と言った妻の表情は鬼気迫るものがあった。こちらとしては、貰えるものが貰えればいいので引き受けた。

 しかし、浮気癖のある夫もさすがに妻の行動に不審さを感じ取ったのか、ここ数週間程真面目な生活を送っている。そのせいで、自分達の私生活に弊害が生じるとは思わなかった。

 そう今の季節は冬。それも師走の12月である。それも今日はクリスマスイブ。普段、イベントや記念日など気にも止めないが今年だけは別だった。


「彼方さん。何、イライラしてるんですか?」

「お前には、関係ねーよ。まな板娘。よそ見すんな。ちゃんと入口見とけ」

「ひどい、セクハラです。……ヒゲ親父のくせに」

「あん?何か言ったか?」

「べーつーに」

 

 隣に座る助手の木田未来きだみらいは、ぷくりと頬を膨らませるとそっぽを向いた。その子供っぽい仕草に彼方は、溜息をつく。


 「そりゃあ、イライラするだろ? ターゲットはホテルで女とイチャついてるのに俺らはどうだ?」

 「あー、確かに。おかげで今年も振られましたよ、あたし。男のくせにクリスマスごときで」

 「またか? 去年も同じ事言ってなかったか?」

 「だって毎年何故かこの時期は依頼が来るんですよね。でも、意外です」

 「あん?」

 「彼方さんってイベント系は無視だと思ってましたよ。よく辛抱してるなって尊敬してますもん、彼女さんの事」

 「もう長いからな。それに俺がこういう人間なのは知ってるしな」

 「ふーん。そんなもんなんですかね? あ!」


 未来は、構えていたカメラのシャッターを数回押す。そのレンズの先には、ターゲットのカップルが互いの腰に腕をまわしキスを交わす姿があった。

 二人は、こちらに気づくことなく夜の街へと消えて行く。それを見送った彼方達は、すぐに撮った画像をチェックし合う。


 「やっと終わったな」

 「はい。年をまたがなくて良かったですよ」

 「じゃあ、事務所に戻るぞ」

 「はい」


 車のエンジンをかけアクセルを踏む。そのまま表通りへと出て事務所へと向かい始める。未来は、携帯で所長へと報告をする。

 それを横で聞きながら、やっと仕事を終えることが出来たことに安堵した。これでやっと行ける。


 (今日は、機嫌が良いといいんだが。まぁ、無理だろうな。今日は、月ちゃんの命日だし)


 


 


 

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