プロローグ~彼の場合~
―――――アルテミスが死んだ。
その知らせを聞いた時、目の前が真っ暗になった。妹が持ってきた新聞には確かに彼女の名前がある。
『青柳 月子』
彼女は、高校時代の後輩だった。一学年下で入学当初から何かと噂に上がる人物。進学校の中で問題児だった自分とは、決して接点を持つことはないだろうと思っていた。それでもあの夏の日。焼けるような日差しが降り注ぐ屋上で彼女と出会った。
そして、アルテミスと呼ばれた彼女と最後に話をした日。
「…………ごめんなさい。先輩…………ごめんなさい」
「お前は、悪くない。これは俺の問題だ。だから、気にするな。忘れるんだ、全て」
「ごめんなさい」
泣き続ける彼女の背にそっと手を置き慰め続けた。妹が泣いた時と同じように。
あの日からただただ願っていた。また、あの柔らかな笑顔が見られるように。その願いが叶ったのは、つい先月の事。
それなのにどうしてこんな事になってしまったのか。
アイツは一体何をしていたんだ。アイツは。
ふと脳裏によぎったのは、彼女の唯一の男友達。小学校からの同級生でいつも彼女の側にいた。
それが周囲の誤解を生むのを知っていながらも知らぬふりをしていたアイツ。
「やつあたりだな。彼女の手を離したのは、俺の方なのに」
当時の俺には、両方を手に取ることなど不可能だったから。そんな薄情な自分を彼女は許してくれた。あの時の選択は間違いではないと。今の自分達があるのは、その選択のおかげなのだからと。
「お兄ちゃんは、月子さんと連絡取ってたの?」
「先月、偶然再会して何回か会った。こんな事になるなんて」
「どうして…………」
彼女が何故死んだのか答えが出ることは、もうない。