第7話:約束
楠田正義、陽菜達の中学の頃からの親友。彼方は正義達と知り合うまで男女間の友情は成り立たないと思っていた。自らの人生において何人か友と呼べる女性は出来たが長い時間が経過するとどうしてもそこに恋愛感情が入り込み関係が成立しなくなるのだ。しかし、彼等の間に恋愛感情が芽生えることはなく中学から現在まできたらしい。
陽菜とは高校で進路が別れたらしいが友人関係が壊れることはなく、社会人となった今も月に一度は会っていてこの間も結婚の報告があったばかりだ。彼は現在弁護士をしていて時々依頼関係で相談に乗ってもらうこともある。
ちょうどいい機会だと思い電話をかけなおすとすぐに繋がった。
「よぉ、悪いな。着信に今気づいた」
「お疲れ様です。陽菜から今忙しいって聞いてたんで駄目もとでかけてみただけです」
「あー、実はその事で相談があるんだ」
「法律関係ですか?」
「いや、お前らの高校時代についてな。月ちゃんとまさには関係ない話なんだけど、もしかしたら何か知ってるかなって」
「お役にたてるなら何でも聞いてください。僕が知らなくても他に知っていそうな人間がいたら紹介出来ますし」
「助かるわ、まじで。いつだったら時間取れる?」
「今からでもいいですよ。駅前の居酒屋だったらすぐ行けますよ」
「分かった。じゃあ、店で」
「はい」
携帯をしまい駅前に向かって歩きながらもすれ違う人々の顔を確認する。もちろんこんな人ごみの中で目的の人物を探す事は困難な事は分かっていた。それでももしかしたらという思いがあるのだ。まぁ、これで見つかったとしたらそれこそ奇跡としか言いようがない。
「彼方ちゃん!」
「あ?」
自分を呼ぶ少し鼻にかかった高めの声に立ち止り振りかえる。するとそこにはダメージ加工されたジーンズのミニスカートに黒いシフォン地のトップスを着た十代の少女がいた。
彼女の名は、ありさ。事務所のアルバイトでこの地区の少女達のリーダー格の少女だ。
「ちょっとその反応はないでしょ?」
「うるせぇ、ありさ。年長者をちゃん付けで呼ぶ小娘には十分だ」
「何よそれ!」
彼方の言葉にプクリと頬を膨らませるありさを見て声を上げ笑う。するとますますその頬がふぐの様に膨らんでいった。
「こんなとこで何やってんだ?」
「何やってるって事務所に用事があったに気まってるでしょうが。それなのに行ったら所長しかいないんだもん。未来ちゃんもいないしさ」
(未来の奴、逃げたな)
未来とありさは年齢は近いがどうしても性格が合わないらしく逃げ回っている。何故かありさは未来を気にいっているらしい。何かにつけてかまおうとして更に警戒されているのだがそこは分かっているのかいないのか自分には分からない。
「で、何か分かったのか?」
「写真が一枚。とりあえず彼方ちゃん達が持っているものよりかは最近のだよ」
「どっから手に入れたんだ?」
「うーん、友達の友達のそのまた友達の同僚?」
「随分遠い知り合いだな」
「駄目もとでメールを一斉送信したんだよ。だって、ここら辺での知り合いは全滅だし。それに昔ここら辺で遊んでた子達の方が知ってるでしょ? 苦労したんだから労わってよね」
「あー、今度店行くよ」
「絶対ね! 所長も連れてきてね?」
「げ」
「げ、じゃない。だって、彼方さん全然飲まないんだもん! 姐さんも顔出せって、じゃあもう行くから」
「おう。また、頼むわ」
「はい、はーい」
彼方と約束を取りつけるとありさはそのまま去って行った。多分、バイト先のバーへと向かったのだろう。彼女は、事務所近くのバーで見習いのバーテンダーをしている。そのおかげか昔よりもさらに顔が広く情報通になっているようで、いっそそっちを職業にしたほうがいいんじゃないかと勧めてみたが「そんな事したら普通に出歩けなくなるじゃん。それにあたしは自分のお店が欲しいの」と呆れた顔をされた。意外に堅実らしい。
「まぁ、これで半歩進んだかな」