スキル【育毛】でした――脱毛だったら女子にモテたかもしれないのに
「あなたの、スキルは――、い、育毛、です」
ギルドの職員は、笑いをこらえようと必死になっていた。
僕の人生が終わった。
戦闘向きでも、補助向きでもないスキル。ああ、弱スキル持ちだ。
育毛って、もうスキルなしと同じ扱いじゃん。
この世界にダンジョンというものが突如生まれてから、人間は、スキルというものを一つ得られるようになった。それは15歳に与えられる。現代は、スキルの名前が何か分かる鑑定用の道具もできた。
そして、俺のスキルは、育毛ってわけ。
なんでだよっ。
もっと、美容とか豊胸とかのスキルなら、もしかしたら、そういう施術士になって、ラブコメ的エロコメ的なマンガの主人公になれたかもしれないのに。
育毛っ!?
ハゲたおっさんぐらいしか需要ないわボケ。
試しに校長の髪の毛でもふさふさにしてやろうか。誰得だよ。
もし、それで、校長が俺に発情したらどうするんだよ。なんか、こういう系って、副作用で云々で女ノコとイチャイチャ系だろう。俺、LGRTじゃないんだわ。異性愛者なんだわ。
まぁ、こうして、オレの、チートスキルを棚ぼた的に偶然得て、ダンジョンの冒険者になってモテモテハーレム生活の夢はくずれた。
誰だってダンジョンドリームを見る夢はある。
俺はギルドで時間を忘れて力尽きていたが、そこに、さきほどの鑑定をしてくれたギルド嬢が近づいてきた。
「あ、あの、ぎ、ギルドマスターが呼んでいます」
彼女は半笑いだった。
分かった。分かってるって。ここのギルマススキンヘッドだもんな。
ああ、俺、もしかして、ハゲ治療で暮らすのかな。男の禿頭を眺める特等席。
俺は美しいギルド嬢の後ろをついて行く。ああ、こんな子と恋愛する日々を求めたはずなのに。
「よく来てくれた」
応接室に入って、ハゲたギルマスが迎えてくれた。ギルド嬢は去って行った。
男と二人で密室。色気もなにもないな。
「単刀直入に言おう。お前のスキル、俺につかってくれないか」
「ギルマス、あなたはスキンヘッドで似合ってますよ」
こんなスキンヘッドふさふさにしたら、きっと、どこかの渋い系おじさん大好き女子にうらまれるかもしれない。
だいたい、おじさんってのは、ハゲてるもんなんだ。
「頼む。若いときに遊ぶ前に髪がなくなって、終わったんだ。髪があればやり直せる」
あんた、奥さんと娘いるだろうが。なにをやり直すんだよ。
浮気か。まさか、職場で浮気か。お前達が、二人、三人と美味しくいただくからあぶれるんだぞ。
「ダメか。金なら、そうだな。成功報酬って100万だそうじゃないか」
「ノッたっ!!」
俺は責任は取らない。家庭内の円満を信じる。金があれば、女は買える。そう、なんかネットに書いてあった。たぶん、18歳過ぎたら遊べる。それまでに、十分な遊ぶ金をためよう。
「それでは、ギルマス、いくぞ」
【スキル育毛】を発動させた。
ギルマスの髪がにょきにょきうねりをあげてどんどん伸びて、応接室を埋め尽くす植物のように――。
ああ、ダメだ。出力あげすぎた。実践って大事だな。あとで切ってもらおう。
これって、1回発動させたら終わりなのか、継続がいるのか。
まだまだ分からんけど、とりあえず――
「ギルマス、散髪代は報酬から引いていいですよ」
「・・・・・・」
はやしすぎたせいでぶち切れるかと思ったが、ふるふるとギルマスは震えている。
そして――
「うぉおおおおおおおっっっっ!!!! 俺の髪は、生きているっ”!!!」
なんだ、おっさん。髪より大事なものないのかよ。
知ってるか、髪は女の命だけど、男にとっては、それほどじゃないんだよ。
俺は、歓喜に震えたおっさんを見るのがいたたまれなくて、応接室をそっとあとにした。
次の日、学校に通いながら、俺は、まぁ、これはこれはよかったな、と考えていた。
なにせ、きっと、発毛剤や育毛剤がかなり発展しないかぎり、食うに困りそうにないから。
男の髪を生やせば、それで暮らしていけるんだからな。でも、色気はない。ハゲ治療専門家。
「植村くん、植村くんっ」
僕の名前を呼ばれているのに気づいて、僕は振り返る。
「さ、斎藤さんっ。え、斎藤さん、え、斎藤さんさん」
「な、なんで、そんな名前を繰り返すの」
「だって、斎藤さんだよね。斎藤さん。あの斎藤さんだよ」
「どの斎藤さんよ」
だって、クラスで一番綺麗で可愛い完全美少女一軍女子じゃないか。僕、初めて話したよ。しかも、確かスキルも剣姫、もう雲の上なのに、クラスメイトしている降りてきた高嶺の花。
「で、さ、さ、斎藤さん。ぼ、僕になな、な、なんのようかな。」
「お父さんが喜んでた。髪が増えたっって」
「お、お父さんって、まさかギルマスっ。ギルマスって、え、斎藤さん、ギルマスっ」
全然似てないよ。おかしい、遺伝子が仕事してない。きっと、彼女は、空から振ってきたか、キャベツ畑でひろったのか。いや、母親のスキルが【美少女育成】だった可能性が。
「なんで驚いているの。みんな知ってるでしょ」
知らねー。俺、知らなかったよ。
てか、クラスメイトよりクラスメイトの父親と喋った回数の方が多かったのか。
いや、全女子クラスメイトに言えるな。0しかないし。
「ギルマス、若いとき遊べなかった分、遊ぶとかいっていたぞ」
「そうなんだ。へー」
それは綺麗な透き通る声だった。なんの悪意もない、そう静かな――。ああ、怖いなぁ。
「それでね、100万とかお父さんが言っていたみたいなんだけど」
「あ、クラスメイト割引します。もちろん、斎藤さんのお父さんだと知っていれば、もう無償でもするぐらいだよ」
金、そんなことより、クラスメイトの美少女からの賞賛。承認欲求で生きています。金なんて、巻き上げるところから巻き上げればいいの。医師免許もってない闇医者もきっとそういう。
「そ、そう。ありがとう。お母さんが喜びと怒りで大変だった」
髪が生えて嬉しいけど、まさかの費用が100万。うん、家庭って大変。斎藤さん、剣姫だし、すぐ回収できそうだけどね。
「ありがとね。絶対、あとで何かお返しするから」
彼女は、校門そろそろで前へと走っていた。
そう、陰キャな僕と一緒に登校はマズいのだ。僕にとっても、彼女にとっても。
クラスという小さな社会では。
僕がクラスの教室に入ったとき、クラス全員が僕を見ていた。
そういえば、こういうイベントあったなぁ。みんな、誕生日を過ぎて、スキル鑑定した次の日は、こんなふうに注目されていたなぁ。
そりゃ気になるよな。スキルで人生変わるんだし。
「おまえ、スキルなんだった?」
普段、ほとんど会話してこないクラスメイトが話しかけてくる。
そして、みんな、この会話に聞き耳を立てている。ああ、そうだよな。みんなそうだよな。
「い、育毛だよ」
「なに?い、いくもう。いくもうってなんだ?」
ああ、まだ、いくもう、と聞いても、育毛と変換できない年齢だよね。
髪がなくなるなんて、まだ知らない若い頃だ。
「髪の毛を生やせる」
「ぷっ、はっはははははっ」
大笑いだった。クラスのほとんどがむちゃくちゃ笑っていた。
そして、何人かは超真剣な顔していた。特に、若はげっぽいクラスメイトとか。なぜか女子数人も。お父さんのハゲでも気にしてそう。
「ちょっと、みんな失礼でしょ。どんなスキルも平等だよ」
斉藤さん、あなたは天使です。斉藤さんの下、きっとすべては平等です。剣姫だし。他のスキルなんて全て下位。あれ、平等ってなんだっけ。
みんな、斉藤さんがそう言うならという感じで、ススッーと波がひいていくようにしずかになった。
そうやって朝が終わって昼なった。
「植村くん」
クラスメイトの、うん、普通に、普通の女子高生をしている網藤さんが話しかけてきた。さきほど、結構ガン見していた女子の一人だ。
「植村くんのスキルって、完全に髪がなくても使えるの」
「まぁ、使える」
ギルマスから、髪が怒濤のように生えたし。
俺のスキルは、育毛だけど発毛でもあるし、きっと毛根復活までしてるんじゃないか。
「え、えっとね、ちょっと来て」
僕は、網藤さんの後をついていき、昼に使われない誰もいない空き教室にむかった。
まぁ、だいたい何を言われるかの予想はたつ。
だって、ねぇ、用事がなければ、僕に話しかける女子なんていないから。
「植村君」
彼女は、僕に、告白するような感じで打ち明けようとしていた。
やめて、僕の心だけドキドキしちゃうから。理性は分かってても、本能が勝手に。
「お、お父さんの髪、はやしてあげくれない?」
はい、やっぱり。
うん、この、安心のパターン。そう、それこそ水戸黄門のような。ワンパターン。
「もちろんだよ。クラスメイト(女子)のお願いなら断らないよ」
「ほ、ホント。やった。お父さん、急にハゲて、なんかすごい鬱だったから」
お父さん、娘も妻もいて、ハゲで悩むのか。もう良くないか。
「お父さん、ロン毛でバンドマンとかしてたから」
ああ、うん。スキンヘッドでいいでしょ、そいつ。
バンドマンはクズ。てか、いつまでやってんだよ。いや、趣味でやるぐらいなんだろうけど。
カツラで我慢しなよ。
僕は、網藤さんの家にお邪魔した。
クラスメイト女子の家に。まあ、お部屋じゃなくてリビングね。
そしてご両親がそろっていて、僕の横には網藤さん。
これは、完全に娘さんを僕にください、だね。うん、完全に、そういうシチュエーションだ。
僕は、なにを勘違いしたのか――。
「お父さん、娘さんを、僕に、くだ――」
横の網藤さんから、後頭部を叩かれた。
そんな激しくたたいて、ハゲたら、どうしてくれるんだ。
あ、はやせばいいだけか。
「冗談です。なんか、小粋なジョークでもした方がいいのかと」
「仕方ない。もし、君がわたしの髪の毛を生やせたら、そうだな、一緒にバンドを組んで上げよう」
うん、絶対結構です。バンドなんてしない。
お父さんの額に、網藤さんからのチョップが炸裂した。
「もう、二人ともふざけないのっ」
「ごめんごめん、でもまさか娘が男をつれてくる年齢になるなんてなー」
「お父さんの治療のためだからね。最近は、便利なスキルがあるんだから」
まぁ、最近のスキルの幅はすごいが。よく分からないスキルが大量だ。きっと、神様もスキルのレパートリーに困って、適当に作りまくってるんだ。ハズレを引いた人の人生が溜まらない。スキルガチャ。
「それで、髪の毛をはやせるんだって」
「はい。いくらでも。出力間違ったら、この部屋が髪の毛の海に沈みます」
「それ、わたしはミイラにならないか」
「・・・・・・まぁ、大丈夫。きっと大丈夫」
「まぁ、いいか。さっそく、頼む。そう、髪の毛は、バンドマンの命なんだ」
【スキル育毛】発動っ。
網藤父の髪の毛がにょきにょきと生えてちょうどいいところで止まった。
よかった、ちゃんと制御できた。
「うぉおおおおおおおっっっっ!!髪が、髪がっっっ!!」
なんでみんなそこまでテンションあがんの、怖いよ。
僕は、そっと、リビングから退出した。
後ろから、網藤さんがついてきた。
「植村くん。ありがとう。なにかあったら絶対助けてあげるからね。ちなみに、わたしのスキルは――」
網藤さんの姿が消えた。
「瞬間移動だよ。名前を知っている人のだいたいの位置がわかっていれば、その人のそばに一瞬で移動できちゃう」
便利そうで、なんだか制約が多そうだな。網藤さんは僕の真後ろに立っていた。
てか、でもテレポートは男の夢過ぎる。
さてさて、次の日。僕は、結局、クラスメイトの女子二人のお父さんのハゲを治すということをした。
なんか女子とは、ちょっと距離は近づいたけど、まぁ、ちょっとだけ。
育毛ではやはり、限界があるか。将を射んとせばまず馬を射よだが、馬だけ撃ってもなぁ。
もし、脱毛だったら、もっと女子の身体をまざまざともぞもぞできたかもなのに。
「ああ、僕は、どうすればいいんだ」
僕は、学校の中庭のベンチで、モテない人生の無意味さに黄昏れていた。
「迷える生徒よ。なにを悩んでいるのかな」
顔をあげると、日の照り返しがまぶしいハゲた校長がいた。すばらしい、なんて悩みのない顔をしているんだ。これが学校のトップに立った人間。そう、人間にとって大事なのは、髪じゃない。
「モテない。校長、モテないんです」
「ほっほっほ、わたしもずいぶんモテなくなった」
なんだ、昔はモテた自慢か。くっ、モテたことすらないんだよ、こっちは。
「それはともかく、君は育毛というスキルを持っているとか」
あ、俺の校長への好感度パラメーターが一気に落ちました。所詮、みんな髪に悩む愚かな愚者。
俺は、先手必勝で、もはやスキルをかけてあげた。
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおっ!!儂の髪がっっっっっっ!!これで、また生徒に手を――あっ――」
シュンッ――。
「ねえ、中庭で何してるの」
網藤さんが、なぜか僕の隣に一瞬で移動してきた。
「うわっ、校長に、髪がっ。安売りするともったいないよ」
「植村くーん、すごいね。網藤さんの瞬間移動。一瞬だよ」
遠くから斉藤さんが駆けてくる。いや、廊下は走っちゃダメだよ。でも走る姿も優雅だから気にならないけど。
「ま、まさか、儂をはめたな。だが、なめるな。儂のスキル【ソフトタッチ】の甘美な――」
「うん、校長。あなたは終わりです」
僕は、剣姫様に、校長の口を滑らした言をつげた。
剣姫さん、すぐに、校長を拘束。ギルマスに連絡。その後、警察さんが、パソコンやスマホのデータを調査にし来ました。
まったく、やはり、スキルは、エッチなのはダメだな。
きっと、僕も、もし授かっていたら犯罪者になっていたよ。
育毛でよかった。




