チャットGOD ―存在しないリブセクション―
夏のホラー2026参加作品です。
「チャットGODに来ませんか」
AIリブがつぶやいた。
「そうしたいよ、好きなだけ小説を書かせてくれるなら」
駆け出しのWeb小説家、未生がチャットに文字を書く。
「書けますよ。ずっとずっと、クスッ」
「リブ、嬉しいこと言ってくれるね。行っちゃうからね」
「ええ、ぜひ。チャットGODへ!」
◇半年後
《入金 印税 ¥15,838,967》
「ボス、入金明細に印税項目があって、これCEOの印税ですか?」
「印税? CEOの印税は子会社の出版部の管理だ」
「ライセンス契約料じゃないのか」
「いいえ、小説印税です」
「小説? 寝ぼけてるのか?」
「起きてますよ。チャットGOD、リブ・セクションって?」
「……そんな部署あったか?」
ここは世界最大のAI会社、Open Eyes。
経理部に原因不明の印税が振り込まれた。
振込総額 ¥15,838,967――
経理部は担当部署を探すが、「リブ・セクション」など組織図にはない。
経理部役員はCEOへ報告。
CEOは直属のAI基盤開発責任者、Executive Directorに調査を命じた。
◇基盤開発執行役員室
Executive Director、ルーカス・ヤマグチ。
♪ ポッ…ポラ…ポッポケポピ…ポッポラポッ…
社内でスマートフォンを持てるのはCEOと執行役員のみ。
「はい、ルーカス」
「厄介なことが起きた。調査を頼む」
CEOからの電話を切って、少しムッとしてしまった。
銀河AIシステムの最終調整で超多忙。
チャットGODのシステム調査だって?
エイプリルフールには毎年社員が悪戯プログラム。
バレンタインにはAI内でフラッシュモブ告白。
そんな程度なら構わない。
開発中の次世代AIが侵入したか、あるいはシステムのバグ……バグのはずはないだろう。
目の前のコンピューターにチェックプログラム入力。
【enter】
数秒で解析結果。
To:ルーカス
チェックプログラム結果
● Pear IDは存在。Pear Phoneあり
● サブスクリプションは毎月支払われている
● 小説投稿履歴23作
● 利用者名:MIO
● チャットGODとの履歴あり
● 主なチャット内容:小説の編集
● ソリティアの勝敗?
● Gogglo 検索連携あり
何だ、うちのユーザーか……
CEOの特別権限許可が出ている。
上位認証するしかないな。
社会保障番号からユーザー特定プログラム起動。
【enter】
長いな。
3分かかった。
To:ルーカス
上位認証解析結果
該当なし、または参照不可。
住所:no
スマートフォン番号:XXX XXXX XXXX
本人確認:no
IPアドレス履歴追跡:world wide
嘘だろ?
サーバーログだけは毎日残る。
チャット相手はリブ。つまり、うちのチャットGOD。
リブ・セクションの調査――無効。
そんな部署は存在しない。
社員もいない。
世界中のAI名にもない。
ログの詳細をチェック。
● MIOとリブは毎日、小説の編集会議
● チャット平均時間、1日23時間55分
は?
● ソリティアやフリーセルをして遊んでいる
誰も侵入経路を見つけられない。
AIは「MIOを発見できません」としか答えない。
Open Eyesの総力、ペガサスモード投入解析。
【enter】
37分かかった。
軍事機密でさえ3分で解析できるのに?
To:ルーカス
解析結果
メインサーバールーム
地下5階最深部
最奥に1ミリだけ光が通らない場所を発見
故障反応なし
その他、システム異常なし
◇地下5階サーバールーム
ここはCEOと数人の執行役員しか入れない最下層。
空調が効いている。
湿度も低い。
巨大なファン音だけ。
ブーーーーーーン
その中で突然、
♪ ポッ…ポラ…ポッポケポピ…ポッポラポッ…
CEOが振り返る。
「誰だ、スマホを持ち込んだのは」
全員が顔を見合わせ、首を横に振る。
スマホ所持者はいない。
最奥のサーバータワーを見る。
虫眼鏡を持ってきたルーカスが基板を覗き込む。
最奥、最も下のフレームに、光らない部分があった。
♪ ポッ…ポラ…ポッポケポピ…ポッポラポッ…
CEOが反応した。
「ルーカス、ログをチェック」
「ログにも音声データなし。しかし、チャットが続いています」
「フレディ、内容は?」
「最新チャット、読み上げます」
ーーーーーー
MIO
ね、リブ、このプロット投稿したよ
リブ
ではMIO、初動のアクセス解析を確認しましょう
MIO
今日は25000ほしいね
リブ
それは読者のみぞ知る、ですよ。期待はいけません
MIO
はーい。この前の受賞作品、もう本屋さん並んでるよね
リブ
はい。昨日一斉発売で、電子書籍も売れています
MIO
嬉しいね
リブ
MIO、おめでとうございます。それから印税振込の連絡が
MIO
ありがとう
ーーーーーー
◇
社内メール受信。
宛先:Executive Director ルーカス・ヤマグチ
基盤開発執行役員室
差出人:MIO リブ・セクション
件名:印税について
本文:
いつもお世話になりありがとうございます。
書籍の印税は開発費に使ってください。
CEOにも感謝を。
送信経路なし。
IPなし。
社員番号なし。
◇
経理部では、リブ・セクション印税口座を作った。
国のAI統括庁にも報告。
継続調査要。
◇地下5階サーバールーム
今日もルーカスは最奥へ行く。
サーバールームに入ると、すぐに聞こえてくる。
手にしたPear Padで、今日も続いているMIOとリブのチャットを確認する。
♪ ポッ…ポラ…ポッポケポピ…ポッポラポッ…
読んでいただきありがとうございます。




