第一章 第一話
誰でも一度はあの日に帰ってやり直せたらと思ったことはあるはずです。今は脳の病気の後遺症で車椅子生活を送っている私は尚更です。そんな思いを小説にしました。
もう、こんなヤツとは別れた方がいいよ。」私は8年付き合った彼女とこの一言で関係を終わらせた。私は今年44才になる。脳の病を患い、一年前から車椅子生活だ。彼女への未練はたっぷりあるが、彼女の将来を考えたら、遅すぎた別れだった。
しかし、何故、こんな身体になってしまったんだろう。8年前のあの日に帰りたい。やり直したい。と激しく嗚咽しながら、枕を涙で濡らしながら、眠りに落ちた。
ムッとする草いきれの匂いが鼻をついて、私は目を覚ました。目を開けると、川の土手に寝転んでいた。目の前には幅が結構ある川が静かに流れていた。どこか懐かしい風景だった。ここはどこだろう。何故、私はこんなところにいるのだろう。
病院のベッドで寝ているはずなに。混乱した私の耳元に懐かしい声が聞こえてきた。「待ってくれよ。」高校時代に一番仲が良かった俊ちゃんの声だった。私は土手をかけあがり、土手の上の道路に立った。そこは高校時代の通学路だった。そして学生服姿の俊ちゃんともう一人の学生が自転車で走り過ぎていった。「どういうことだ。」私は呟いた。