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春街花 - haru・machi・bana - ♡第8話 結莉の告白♡


「また……またこんな風に、デートに誘っても良いかい? 結莉ちゃん」


 羽矢斗の瞳は本当に綺麗、と夢見心地の魔法にかかったような気分の結莉。


「はい、もちろん」

 ちょっぴり俯きがちに答えた。


「結莉ちゃん、あの……オレ、不器用だからこんな風に単刀直入な質問になっちゃうのだけど……」


 なんだろう?


「ン? なんですか? 羽矢斗さん」


「あ、うん……。結莉ちゃん、好きな人って……居るの?」


(ンもう! 羽矢斗さんたら、鈍感なのかな。手まで繋いだのに)


 正直に答えた、結莉は「羽矢斗さん以外に居ません」と……。


 でもその瞬間、会ったこともないジャンくんのことを思い出した。けれど必死でジャンくんとのSNSのやり取りを、記憶の底に沈めた。


「良かった。オレ……そうだよな、駅から手を繋いで来た女性に向かってこんなこと訊くなんて……許してね、結莉ちゃん。オレ、結莉ちゃんが好きだ」


 店内はブルージーなジャズが大き目な音量でずっと流れていたし、ランチタイムを迎え、かなり賑やかになっていた。

 二人の愛の告白は大切な内緒ごとにされている。


「あたしは、最初から羽矢斗さんを好ましく感じていました。気づかなかった?」


 羽矢斗は、握っていた食後のコーヒーカップを一度ソーサーへ戻し「え、そうだったの!」と驚いている。


「うん、電車であたしを守ってくださった時、胸がときめきました。羽矢斗さんの華やかな見た目だけではなく誠実さにも心を動かされたの」


 次に羽矢斗は結莉がびっくりすることを言った。


「オレの片想いじゃなかったんだ。二人してひと目惚れだったなんて」


「あ……」


「ああ、誤解しないで! 結莉ちゃん、オレはあの時、もしもこう……なんというのかな……自分にとって素敵だと感じない女性であったとしても助けたさ」


 結莉は微笑み、うんうんと頷き「わかります」と答えた。


 これが夢なら覚めないで欲しい、と結莉は想った。

 でも(あたしが目覚めなきゃ、皐月が可哀相だわ)と娘のこともすぐに思った。


 結莉と羽矢斗はそれからうんとリラックスし、そして心を躍らせつつレストランで会話を楽しんだ。


 羽矢斗は、高校を卒業し、滋賀県から東京に出て来たと言う。


「あたし聴いたことあるわ! なにかで。琵琶湖を海と間違えた人が居るって!」


「ああ、居るんだよね、そういう人。アハハ、確かに湖にしては大きいからね。結莉ちゃんはずっと東京なの?」


「ううん、あたしも田舎から出て来たの。山口で生まれたの。でも引っ越しが多くてね、生まれは山口だけど、その後が静岡、そして鳥取で高校を卒業したのよ。小学校からずっと鳥取だったよ」


「あ、結莉ちゃんもオレも同じ西の地方の人間だね!」


「ネー!」


「結莉ちゃんのことを凄く知りたい。でも嫌なことは答えなくて良いんだ。これから訊くことも。結莉ちゃんはどんなお仕事をしていたの?」


「あ……うん。呑み屋の接客よ。18から離婚するまでずっとね」


「そっかー。凄いな~。オレはごくまれだけど仕事の付き合いでクラブやスナックへ行くんだ。ああいうお店の女性は素晴らしいと思います。頭が下がるよ。だって変な客も居るじゃない」


「そうね、でもはっきり言って元夫に比べれば、皆さんまともな男性だったわ」


「あ……」

 羽矢斗が返答に困っていると「アハハ! 今は笑えるわ。今が幸せだから、良いのよ。羽矢斗さん」と言い放つ結莉。


「うん。結莉ちゃん、結莉ちゃんをたくさん笑顔にさせてあげたいな」と羽矢斗。


 なんだかその言葉は余りにも胸に突き刺さり、優しく……泣けてきた。

 バッグからハンカチを出し、伏せた長いまつげの下、頬へ流れゆく涙にあてがう結莉。


「結莉ちゃん?」


「はい」

 涙をぬぐいつつ返事をする結莉。


「今度ドライブへも行こう。日本海の紺碧は美しいよね。関東で海へドライブ、となると……湘南かな。海行かない? 結莉ちゃん」


「嬉しい」

 結莉は泣き笑いしつつ返事をした。


「羽矢斗さん、あの海の色を見たことがあるのね」


「うん、社内旅行でね、訪れた。鳥取からバス移動し、島根の出雲大社にも行ったよ!」


 結莉にとっては出雲大社もお馴染みの場所であった。より一層羽矢斗に親近感がわきほっこりする。


「そうなんですね! 出雲大社の大しめ縄凄いでしょー。境内が清々しくて、あそこは大好きよ」


「うん。あれは圧巻だったね……。いつか、結莉ちゃんと旅行……したいな」


 結莉はちょっぴりはにかみ「ええ」と答えた。


 極上のナポリタンを平らげた結莉。

 羽矢斗が「どう? ケーキは食べられそう? 結莉ちゃん」


「ううん、満腹です~、ウフフ。食べてみると思ってたよりボリューム満点でした!」


「そう? オレはナポリタンのあとはレアチーズケーキを食べるんだよ。それもレモン味が効いててめちゃ美味しい」


「わー、そうなのね! じゃあ、今度『ローザ・フェルグ』へ来たら戴くわ」


「うん、うん」


 羽矢斗が店内の時計を見た。

「1時15分か~。どうしよう」


 その言葉に、結莉も羽矢斗の視線の先に目をやると、アンティークな雰囲気の大きな柱時計だ。木製の装飾が細やかで美しい。


「綺麗な時計ですね、羽矢斗さん」


「ああ、うん! 向こうにはグランドピアノもあるよ」


「あ!」

 羽矢斗の指さした先、つまり結莉自身の後ろを振り向くと、艶やかなボディーの大きなピアノがひっそりと佇んでいた。


「ここ、ライブをするのですか?」


「うん、夜はお酒と食事を楽しむ人のためにライブがあるよ。不定期だけどね!」


「良いな、良いな~!」


「音楽、好きなの? 結莉ちゃん」


「はい。あたし、なんでも聴きます。ロックもジャズもなーんでも!」


「そうなんだ、オレも実は音楽が凄く好きなの。学生の頃はバンドでギターを弾いてたよ」


「え! そうだったんですか、素敵!」


 二人のテーブルにはもうごちそうはないが、会話の盛り上がりは続いている。お冷やを口にしつつ楽しい時間。


「ああ、このあとどこか行きたい所、あるかな? 結莉ちゃん」


 結莉は……今すぐにでも羽矢斗さんと一つになりたい! と強く感じた。

 けれど、ファーストデートでそんな誘いをかけるなんて嫌われるかも、と思い言えない。


「ンー、羽矢斗さんについて行きます。羽矢斗さんのアイディアに賛成するわ」


「そか。ンー、そうだな~。オレとしたことが、デートコースを考えてなかった。ごめんね。結莉ちゃんに逢えればそれだけで幸せで……約束したおとといから胸がいっぱいだったんだ」


「あ、あたしもずっとあれからドキドキしていました」


「あ! そうだ! 結莉ちゃん、行きたい所がオレ、あるんだ。一緒に来てもらっても良い?」

 と唐突に羽矢斗。


 結莉は嬉しそうにそう言う羽矢斗が愛おしく「はい」と微笑んだ。


(どこへ行くのかしら……ンフフ)


 羽矢斗は、駅を出た時と同じよう、歩き出す際結莉の小さな手を握った。しっとりしている掌。

 二人の周りだけ春の花たちが一斉に咲き誇ったかのようにキラキラなムード。


 羽矢斗は、歩くのが遅い結莉に合わせる。


 こんな幸せな時に、結莉は元夫を思い出した。


 ――――「おい! モタモタすんなよっ。もっと速く歩け!」

 元夫は、結莉に向かって口癖のように言った。

 まだ幼かった皐月に対しても、せかすような態度が多く「もうパパは行くぞ!」などと怒鳴りつけていた。

 心底悲しかった。娘への態度が赦せず、本当に悲しかった。


「優しいのね、羽矢斗さん……」

 小さくつぶやくように伝える結莉。


 羽矢斗は、その言葉の直前に結莉の顔色が曇っていたことを知っていた。

「そうかい? 結莉ちゃん、なにか辛いことでも思い出したの? 大丈夫?」


「う、うん。元夫がね、あたしのノロノロ歩きをよく怒っていたの。それだけならまだしも娘に対してね、怒鳴ったりして……胸が苦しかったわ。でも今は違う。思いやりのある羽矢斗さんとあたしは並んで歩いてる」


 羽矢斗はそっと繋いだ手を離し、その右腕を結莉の細い腰に回した。


「辛かったね……結莉ちゃん。結莉ちゃんはゆっくり歩くから、綺麗なお花を見つけられるんだよね」


 結莉はハッとし、そのスウィートな安らぎに身を任せた。


「結莉ちゃんへのね、ホワイトデーのプレゼントをこれから買いに行こう」


「あ……あたしチョコ渡していないのに……」


「うん、それはまたのお楽しみに取っておこう!」と羽矢斗。


 駅ナカまで二人は戻った。たくさんのジュエリーショップや洋服店、雑貨店などが並んでいるビルが併設されている駅だ。


 たまたまエレベーターは二人きり。結莉と羽矢斗は再び手を繋いでいた。そして7階までのエレベーター内、なんだか結莉の女が疼いた。


 ギュッ!


 結莉は、羽矢斗に向かい合い抱きついたのだ。すると、羽矢斗は痛いほど抱きしめ返してきた。


「いたずらっ子の結莉ちゃん、可愛いよ、好きだよ」


 結莉はコクリ、と頷いただけ。


 フロアボタンが『7』をオレンジ色に光らせた。二人はピッタリ寄り添いながら歩いてエレベーターをおりた。


 そのフロアーはジュエリーの階だった。


「結莉ちゃんにアクセサリーをプレゼントさせて欲しいの」


「キャ! 嬉しい! あ、あたしったら厚かましですね……。本当に良いんですか? 羽矢斗さん……」


「もちろん。オレの気持ちを結莉ちゃんに受け取って欲しいよ」


(キャ――――! 羽矢斗さんは王子様だし、ここは宝箱の中だわ!)

 いろんな意味で目がハートになっている結莉。


「いらっしゃいませ」

 上品な女性店員が声をかけてきた。


「あ、こんにちは」と結莉。


「指輪をお探しですか?」


 結莉は丁度ガラスケースの中の指輪の数々に見惚れているところだった。


「結莉ちゃんの欲しいものを買ってあげるよ」だなんて、羽矢斗が夢のようなことを言う!


 そこで結莉は想った。

(ペアリングが良いわ! カッコいい羽矢斗さんが、あたしのものだという証よ?)


「ねぇ羽矢斗さん?」


「なんだい、結莉ちゃん」


「あたし、わがまま言っても良い?」


「もちろんだよ。結莉ちゃんのお気に入りにしようね!」


「うん、じゃあ、プラチナのペアリングが良いわ」


 お安くはない……。わかっている……。でも結莉は羽矢斗に思いっきり甘えたくなった。そんな風に男性に甘えたことがこれまで一度もない。


「うん、良いよ」


「今すぐ二人ではめたいわ!」ともお願いした。


 ……とは言ったものの、やはりガラスケースの中で輝くリングたちのお値段を見ると気が引けて来る……。

 結莉は、比較的お安い物(……それでももちろんウン万円だ……)の中から、ピンと来た素敵なデザインを選んだ。


「名前、入れられますか?」と羽矢斗が店員に尋ねる。


「はい、承っております。長くて1時間ぐらいお時間を戴きますが」


 羽矢斗が結莉の目を優しく見た。

 うんうん、と頷きOKサインを出す結莉。


(すごく嬉しい! 名前を入れ合ったペアリングだなんて!)


 二人で話し合った結果、指輪には『H&Y♡Eternal』と入れることにした。

 もちろん『H』と『Y』は互いのイニシャル。

 そして『Eternal』……。あっという間に二人はまるでそう、タロットカードの『The Lovers』のように、何者かに陶酔を迫られるかの如く一気に恋に堕ちた。

 それが『永遠』に続くと予感し二人は『Eternal』の文字を選んだのだ。


「じゃあお茶にでも行こっか、結莉ちゃん」


「はい」


 甘やかな香りに二人は包まれた気がした。


 名入れに時間がかかるため、いったんジュエリーショップを出た結莉と羽矢斗。

 店を出てすぐに結莉は歓びの余り羽矢斗の腕にしがみついて、顔をのぞき込んだ。


「ありがとう、こんなに豪華なプレゼントをあたし……。凄く嬉しいです。そして高級なことだけじゃなく、羽矢斗さんの……愛情が、嬉しい」


「オレの気持ち、本気なんだ。結莉ちゃん、喜んでもらえて嬉しいよ」


 しばし二人は黙ってそぞろに駅ナカのビルを歩いた。


「地下へ行こう。地下にカフェがあるよ」


「うん!」


 さっきのようにイチャイチャしたかったけど、エレベーターには人がたくさん乗った。

 ただ、二人の握った手はずっと離れない。


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