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春街花 - haru・machi・bana - ♡第17話 永遠と呼ぶ日♡


「ママ、わかった! 次の日曜日は……羽矢斗さんのご都合、どうかな?」


 結莉は単刀直入に皐月に訊いてみた。

「皐月? 今羽矢斗さんにママ、電話してみても良い?」


 結莉は少し皐月の反応が怖かった。

 しかし、皐月は嬉しそうに目を細め「うん! 遊園地に行きたいもんっ」と言った。



 羽矢斗に夕方電話することなんてまずない。それで何事かと思ったのだろうか、羽矢斗はコール音がするや否や電話に出た。


「あ、羽矢斗? 電話に出られたということはもう退社されているのね」


『うん、結莉、夕方に電話って。なにかあったの? それと、皐月ちゃんは嫌がらないの?』


 すると結莉は「羽矢斗、ちょっと待ってね」と言い、大胆にもスマホを皐月に渡したのだ!


「皐月、さっきママに話してくれたこと言ってごらんよ」

 満面の笑みの結莉。なんというギャンブラー……。


『あ、皐月……ちゃん?』


「はい! 羽矢斗さん、あたし、遊園地に連れて行ってほしいです!」


 ギャンブラー結莉は賭けに勝った。さすが親子だね。皐月の喜びと期待がとても純粋であることを感じ取っていたのだ。


『ああ! 本当!? 良いのかい』


「はい! 羽矢斗さん、今週の日曜日はダメですか?」


『もちろん良いよ! じゃあ三人でさ、車で行こうね!』


「はいっ」


 そしてスマホは結莉の元へと戻った。


「そういうことです。ウフ!」と結莉。


『あ、ありがとう。オレ……』

 電話の向こうで羽矢斗が声を詰まらせている。

『ごめん、感極まっちゃって泣いちゃったよ』


 スピーカーフォンでしゃべっていたので、その羽矢斗の様子を皐月も聴いていた。とてもイイお顔をしている皐月。眉が少し下がり、優しさに溢れた表情だ。


                  *


 ――――三人が心待ちにした日曜日がやって来た。


 朝の8時に羽矢斗が車で結莉宅へ、結莉と皐月を迎えに来る。


 朝早くから母子でおにぎりを握った。鰹節・梅干・焼き鮭・ツナマヨの4種だ。


「羽矢斗さん、喜ぶよ~。皐月もいっしょに握ったと知ったら」


「そうかな」

 少し照れている皐月。


「当たり前じゃない!」と結莉が返す。


 おにぎりが山ほど出来上がった。

「凄い量だね~」と笑い合う親子。


 結莉はなんと3時に起きて、先に入浴・お化粧を済ませていた。皐月は毎日夜にお風呂に入っているから5時起きだった。

 さあ、二人はお出かけ用の洋服に着替える。

 結莉は今日は動きやすいようにと、デニムパンツと真っ赤なモヘアのニット。白いリボンがたくさんあしらわれている。歩きやすい赤いスニーカーを履く。

 皐月はベージュのスカパンに薄手のフリル付きハイソックス。黒いフリル付きのブラウスとピンク色した薄手のカーディガン。足元は厚底スニーカーだ。


 ――――8時05分。玄関チャイムが鳴った。


 よほど遊園地が嬉しいのだろう。

「はーい!」と皐月が玄関に駈けて行った。

 ニコニコの結莉がその後を追う。


 扉を開けると「来たよ! 結莉、皐月ちゃん」嬉しさを隠し切れない表情の羽矢斗が立って居た。


「荷物持つよ。ン? クーラーボックス?」と羽矢斗。


「アハハ」と顔を見合わせる結莉と皐月。


「おにぎりをね、皐月とい~っぱい作ったのよ? 羽矢斗! 食べてね」


「ほんとう? 嬉しいなー! ありがとう、結莉、皐月ちゃん」


「うん!」と皐月。


 皐月の中ではもう、お目当ての乗り物が幾つも決まっているらしい。

 遊園地と言えばいつも同じ所へ昔から行っていた。今日も皐月の大好きなその遊園地へ行くのだ。


「じゃあ、出発!」

 いつになく茶目っ気のある羽矢斗。


 そんな羽矢斗を見て結莉は、心から(羽矢斗と家族になれたら良いのになぁ~)と思った。


 ――――約1時間車で走り、遊園地に到着。


「羽矢斗、運転、お疲れさまです」と声をかける結莉。


「ううん、素敵なドライブだよ」

 羽矢斗は運転がとても好きだ。

 遊園地の乗り物はどうなのだろう……?

 ちなみに結莉は恐ろしくてジェットコースターなんて乗れない。

 娘の皐月は大大大好きだ!


 昔からそう。「ネ~、ママ―! 一緒に乗ろうよぉ」と観覧車にジェットコースターにと誘われ、手を引っぱられた。断固と拒否をしてきた結莉であった。


「皐月ちゃんはどんな乗り物が好きなの?」と羽矢斗が歩きながら訊く。


「あたしはね、ジェットコースターが一番好き!」


「あ! 僕と気が合うじゃん! 皐月ちゃん、一緒に乗らない?」


「わー、嬉しい! だって、ママはいつも乗ってくれないから、あたしがひとりぼっちで『ワーキャー』言ってるんです」


「そうか、そうか」


 日曜日なので人出が多く、人気のジェットコースターは列になっていた。それでも、並ぶのだから(なに考えてんだろ)と、羽矢斗と皐月に半ばあきれる結莉。でも幸せなのだ、結莉は。

(皐月があんなにはしゃいでいるの、久しぶりに見る)


 30分待ち、やっと皐月と羽矢斗がジェットコースターに乗る順番が回って来た。


「いってらっしゃ~い」

 下から手を振る結莉。しかし、自分が乗ったら……と瞬間的に想像してしまいゾクッとした。

 でもウキウキと、安全ベルトを装着した羽矢斗と皐月をスマホにおさめる結莉。

 すぐにジェットコースターが発車した。


「あら~っ!」

 大事な二人の存在を目で追い、首をのけぞらせ口をポカンと開ける結莉。


 グルン! ゴ――――! グルン! ガ――――ッ! ダンッ! ガタガタガタ! ビューン!

「キャ――――ッ!」

 歓喜と興奮に満ちた無数の雄たけびが聴こえて来る。満員だ。


「ハー、ただいま~! 結莉」


「おかえり、皐月、羽矢斗。あたし、見ているだけで酔いそうだったよ」


「え、ママ、大丈夫?」


「うん、大丈夫だよ!」


「結莉、なにか飲み物でも飲むかい? 皐月ちゃん、ソフトクリームとか好きじゃない?」


 皐月は大喜びだ。

「食べる、食べる~。イチゴソフトが良いっ」


「あたしはイチゴシェイクが飲みたいな~」と結莉。


 羽矢斗は「わかった。じゃあスナックコーナーへ行こう」と言った。

 おなかを空かせた人達でここも賑わっている。


 羽矢斗はアイスコーヒーを飲んだ。


「楽しいな!」

 三人で椅子に腰かけ飲み物を飲んでいる時に皐月がそう言った。


 結莉はその時、神様は居るのだと思った。余りにも嬉しくて。皐月が喜ぶと体中に力が湧いて来る。

 そんな結莉を優しく見守る羽矢斗。


 皐月は「あたし、ポップコーンも食べたい」と、羽矢斗に向かって言い出した。


「さぁつーきぃ? ママが買ってあげるから、ね!」

 厚かましいのは良くない。結莉はそう思いお財布を取り出した。

 すると羽矢斗が「良いって、結莉。任せて、ね!」と言う。


「ありがとうございま~す!」と結莉よりも先に言い、ポップコーンを買いに行こうと席を立ち上がる皐月。


「まったく、もう!」……と言いながらも、結莉は、羽矢斗に素直に甘えている皐月を見ていると凄く嬉しくなった。

 羽矢斗の愛は大きいな。


 乗り物の中でもなぜか……グルグル回るコーヒーカップ・メリーゴーランドと回転ブランコには乗れる結莉。恐らく回るものが好きなのだろう、と自分で思う結莉。


「あ、ママ、あれは乗れたよね?」と皐月が指さしたのはコーヒーカップ。


「うん、ママね、コーヒーカップは好きなの。可愛いし」

 ということで三人で乗った。


「わ~い!」

 とても楽しい結莉。羽矢斗と皐月も溢れんばかりの笑顔だ。


 羽矢斗と皐月はその他にも、ヒューッと上に上がって突然ストーンと落ちる、結莉にとっては非常に怖い乗り物に乗ったので、結莉はカメラマンに徹した。


 途中、皐月がおトイレに行くなどして、結莉と羽矢斗が二人きりになるシーンがあった。

 ギュッと結莉の手をホットに握る羽矢斗。そんな時、結莉は恥じらいつつも流し目を送った。


                  *


 結莉と羽矢斗と皐月は、それからというもの、外食を共にしたり、結莉宅でたこ焼きパーティーをしたり、遊園地へも毎月三人で行ったり、映画も三人で観に行った。


 皐月はそのうち、羽矢斗と腕相撲をするほど、羽矢斗に心を許すようになった。高校生の女子がなにゆえ腕相撲なのか、結莉には意味不明だが。


 皐月の気持ちがほぐれて行くのに合わせ、結莉が皐月にきちんと伝えた上で、羽矢斗は前のように有休をとった。そうして結莉とのディープな愛をさらに艶やかに深めても行ったのだ。



 ――――三人の絆がどんどん深まって行き、1年経った頃のこと。


 ある日、羽矢斗がお肉を買うからと言うので、結莉宅でお家焼き肉をすることになった。

 大盛り上がりだ。くいしんぼうの皐月のテンションが上がる。

 そんな皐月が、箸を置き、真顔で急に言った。


「羽矢斗さん、ママと結婚してくれるなら、お部屋がもう1つあるマンションか家が良いよ」


 突然の発言に、結莉と羽矢斗は顔を見合わせた。


「皐月、ママと羽矢斗さんの結婚を認めてくれるの? 一緒に暮らすことを認めてくれるの?」

 結莉はびっくりしつつ皐月に確認した。


「うん。だって、羽矢斗さんはママを大切にする人だってわかったもん。あたしの腕相撲の相手もしてくれるし」


 最後の言葉にズッコケそうになる二人。


「ありがとう、皐月ちゃん。そうだな、3LDKの家を探すよ」


 結莉宅は現在2LDKのマンションだ。



 皐月が高校2年生の夏、結莉と羽矢斗は、皐月を含めたフォトウェディングを挙げた。

 皐月の望み通り、3LDKの良いマンションも見つけた。


 嬉しいことは他にも。結莉と羽矢斗が結婚した直後、皐月に1才年上の彼氏が出来たのだ。同じ高校の先輩で、彼はずっと皐月にホの字だったらしい。バスケットボール部のキャプテンを務める爽やかな青年だ。


 最近では遊園地も映画へも、その恋人と行くようになった皐月である。


 結莉は専業主婦だが、通っているクリニックの松田ドクターの勧めで、現在、クリニック内にあるデイケアに通う仲間のためのピアカウンセラーとして活躍している。

 ピアカウンセラーとは、専門的なカウンセラーではないが、同じ心の病を持つ仲間として、悩み事を熱心に聴いたり、時にアドバイスをする役割だ。


 羽矢斗も毎日『うちわ金魚』で大好きなデザインの仕事に精を出している。蓋を開けるのが毎日楽しみな愛妻弁当は、彼の大いなる原動力の源だ。


 結莉は自分の母親を反面教師にしたのだ。だから、と言うわけではない。でもなぜか、鳥取に暮らす母親のことを今、結莉はやっと赦せた気がする。


                  *


 毎週土曜日夜9時になると、結莉&羽矢斗……つまり、リスナーである『つむじちゃん』と『ジャンくん』の自宅では、アゲアゲDJロリポップの『ハートのたまご』が流れるようになった。

 久しぶりに結莉は『ハートのたまご』を聴いている。


 ロリポップさんが、やけに真面目な声で話し始めた。

『え~とね……びっくりしないでね。話します。コホン。――――今日は! なんとジャンくんから大事なお知らせがあります。みんな、心して聴いてね。読むよー?お便り。“ロリポップさん、皆さん、こんばんは! オレね……つむじちゃんと結婚しました――――ッ!”ですって! キャ――――! おめでとうっ。いつの間に――――!』

 大喜びしつつ、そこで拍手を贈ったロリポップさん。


 もうもう、もっちろんSNSは大騒ぎだ!


『つむじちゃん、心配してたよ。急に居なくなったからさ』

『そうか、ジャンくんの胸の中に隠れていたのね!』

『結婚おめでとう!』

『おめでとう! 嬉しいよ。なんか自分のことみたいに嬉しい!』

『ジャンくん、つむじちゃんを守ってあげるんだぞ?』

 そんな中に『マジか――――ッ! 俺、つむじちゃん狙いだったのにな~』などという書き込みがあり「ハハハ」と乾いた声で笑う羽矢斗の目は笑っていなかった。


 H&Y♡Etarnal.


 ハートのたまご、孵ったね!




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