畑の泥棒とマヨネーズ
1. 消えたトマト
「……ない」
朝、いつものように畑の見回りに行った俺は、愕然とした。 丹精込めて育てていた「野生のトマト」の赤い実が、いくつか消えているのだ。 地面には、小動物のような小さな足跡が点々と残っていた。
「私のトマトが! 昨日、一番赤いやつを目をつけておいたのに!」
後ろからついてきたシルフィが、悲鳴を上げる。 彼女にとっても、このトマトは毎日の楽しみなのだ。 これは見過ごせない。俺たちは「犯人確保」の作戦を立てることにした。
2. 魅惑の調味料
「犯人を捕まえるには、極上の餌が必要だ」
俺は【万能農具】を『ミキサー』に変化させた。 用意したのは、前回プリン作りで余った「コカトリスの卵」の黄身、そして「植物油」と「果実酢」。
「まさか、また何か美味しいものを作る気?」 シルフィがゴクリと喉を鳴らす。
「ああ、野菜を美味しく食べる魔法のソースだ」
ミキサーの中に材料を入れ、魔力で回転速度を調整しながら撹拌する。 ウィィィン…… 黄色い液体が徐々に乳化し、もったりとしたクリーム色に変わっていく。 最後に塩を少々。これで、酸味とコクのバランスが完璧な**『特製マヨネーズ』**の完成だ。
俺は採れたてのキュウリやニンジンをスティック状に切り、マヨネーズをたっぷり添えて、畑の真ん中に置いた。
3. 小さな食いしん坊
その夜。 俺たちは物陰に隠れて様子を伺っていた。 月明かりの下、ガサガサと草が揺れ、小さな影が現れる。 それは、背中に透明な羽を生やした、手のひらサイズの少女だった。
「あれは……森の妖精?」 シルフィが小声で呟く。
ピクシーは警戒しながら野菜スティックに近づき、恐る恐るマヨネーズを指ですくって舐めた。
「!!」
ピクシーの目が輝いた。 そこからはもう止まらない。自分の体ほどもあるキュウリを抱え、マヨネーズをたっぷりとつけて、一心不乱にかじりついている。 ポリポリ、ムシャムシャ……
「今だ!」 俺たちは飛び出した。
「ぴぎゃっ!?」 驚いて逃げようとするピクシーだが、口元にはマヨネーズがべっとりとついている。もう言い逃れはできない。
4. 畑の守護者
「ごめんなさいぃ……お腹が空いてて……」
捕まったピクシーは、涙目で謝罪した。 どうやら森の奥の果物が不作で、ここまで降りてきたらしい。
「盗みはいけないけど、正直に言えば分けてあげたのに」 俺は残りのマヨネーズ野菜を差し出した。
「これ、食べていいの?」 「ああ。その代わり、条件がある」
ピクシーは野菜スティックを受け取ると、幸せそうに頬張った。 酸味の効いたマヨネーズが、瑞々しい野菜の甘さを引き立てる。その味が、彼女の警戒心を完全に解いたようだ。
「条件って?」 「この畑の管理を手伝ってほしい。虫がつかないように見張ったり、受粉を手伝ったり。できるか?」
「やる! マヨネーズくれるなら、毎日やる!」 ピクシーは即答した。
5. 賑やかになる食卓
こうして、我が家の食卓にまた一人、小さな同居人が増えた。 名前は「ピコ」。 彼女のおかげで、トマトの収穫量は倍増し、虫食いもゼロになった。
「カイト、私もマヨネーズおかわり!」 「ピコもー!」
野菜嫌いだったはずのシルフィまで、マヨネーズの魔力に取り憑かれたように野菜を食べている。 新鮮な野菜と、それを最高に美味しくする調味料。 これさえあれば、スローライフは安泰だ。
……たぶん。




