はじめての小屋建設
1. 野宿の限界と決意
「……う、背中が痛い」
異世界生活数日目の朝。俺は全身のきしみと共に目を覚ました。 鳥のさえずりは優雅だが、現実は厳しい。ベッド代わりの草は湿っているし、小さな虫が這い回る感触で安眠どころではなかった。
横を見ると、エルフのシルフィが丸太を抱き枕にして、器用に眠っている。 「……むにゃ、もう食べられないわよぅ……」 相変わらずの寝言だ。この無防備な居候のためにも、ちゃんとした「家」が必要だ。
2. 鉄のように硬い木
俺は【万能農具】を『斧』の形状に変化させ、森の探索に出た。 狙いは、先日見つけておいた特別な木材だ。
『アイアンウッド:鉄のように硬いが、火には弱い木材。加工には【風魔法】が必要。頑丈な家具になる』
普通の斧なら刃が欠けてしまうほどの硬度だが、俺の【万能農具】の前では豆腐も同然だ。 「よし、いくぞ」
カーン!
心地よい金属音に近い音が響き、巨木が揺れる。 俺は必要な分だけのアイアンウッドを切り倒し、その場で枝を払った。 切り口からは、スパイシーで清涼感のある香りが漂ってくる。
3. チートな大工仕事
ここからが本番だ。 俺は農具を『ノミ』と『カンナ』に変化させる。
「イメージしろ……頑丈で、温かみのあるログハウス」
硬いアイアンウッドの表面をカンナで滑らせると、シュルシュル と薄い木の膜が鰹節のように舞い上がった。 本来なら熟練の職人が数日かける工程が、一撫でするだけで終わる。 表面は赤ちゃんの肌のようにスベスベになり、美しい木目が浮き上がってきた。
【万能農具】の『設置機能』を使い、加工した丸太を組み上げていく。 釘は一本も使わない。木と木を噛み合わせる「校倉造り(あぜくらづくり)」だ。
ドスン、ドスン と重厚な音が響き、森の中に四角い構造物が姿を現していく。
4. 木の香りに包まれて
「……んん? 何かうるさいわねぇ……」
ようやく目を覚ましたシルフィが、目をこすりながら起き上がった。 そして、目の前にそびえ立つ建物を見て硬直した。
「は……? え、ええええっ!? 何これ! 昨日までただの空き地だったじゃない!」
「おはよう、シルフィ。今日からここが俺たちの家だ」
俺は完成したばかりの扉を開けた。
中はまだ家具一つない空間だが、濃厚な木の香りで満たされている。 アイアンウッドの壁は外気を完全に遮断し、室内は驚くほど静かだった。
「すごい……」
シルフィはおずおずと中に入り、壁に頬をすり寄せた。
「ひんやりしてて、滑らか……。それに、この守られている感じ。森の中にいるのに、ここだけ別の世界みたい」
俺も床に座り込んでみた。 土の冷たさも、虫の気配もない。ただ、木の温もりだけが背中を支えてくれる。
「ああ、これで今夜からは熟睡できるな」
安堵のあまり、俺は完成したばかりの床で大の字になった。 天井を見上げると、隙間なく組まれた木組みが頼もしい。
「ちょっと! 私の部屋はどっちよ! まさか一緒の部屋じゃないでしょうね?」
「はいはい、奥のスペースを使っていいよ。カーテン代わりの布はあとで作るから」
「ふふん、なら許すわ! ……ありがと、カイト」
最後の一言は、蚊の鳴くような声だったが、俺の耳にはしっかりと届いた。 衣食住の「住」を手に入れた満足感。 今日の夕飯は、きっといつもより美味しくなるはずだ。




