聖夜のケーキと赤い服の精霊
1. 冬至の夜の訪問者
「ねえカイト、今日は『星降る夜』よ」
コタツで丸くなっていたシルフィが、窓の外の雪景色を見ながら言った。 この世界では冬至の夜、赤い服を着た「冬の精霊」が森を巡り、良い子に祝福を与えるという伝承があるらしい。
「へえ、サンタクロースみたいだな」 「サンタ? ……よくわからないけど、美味しいご馳走を食べてお祝いする日なの!」
結局は食い気だ。 だが、せっかくのイベントだ。俺も腕を振るうことにした。
「よし、今日はとびきりのケーキを作ろう」
2. 森の切り株
俺はキッチンに立ち、【万能農具】を『ハンドミキサー』に変化させた。 作るのなら、森の生活にふさわしいケーキ――**『ブッシュ・ド・ノエル(薪のケーキ)』**だ。
まずはスポンジ作り。 「ゴールデン・ウィート」の粉と「コカトリスの卵」、砂糖を混ぜ合わせ、ふんわりと焼き上げる。 焼き上がったら、熱いうちに濡れ布巾で巻き癖をつけておくのがコツだ。
次にクリーム。 先日焙煎した「ブラック・ビーンズ(コーヒー豆)」を細かく砕き、生クリームに混ぜ込む。 ほろ苦いコーヒー風味のホイップクリームだ。
「これを塗って……巻く!」
クルクル……
ロールケーキ状になった生地の表面に、残りのクリームを塗る。 フォークで筋をつけて「木の皮」のような模様を描き、粉砂糖を雪のように振りかければ完成だ。 見た目は完全に、雪を被った森の切り株だ。
3. 温かい飲み物と共に
「わぁ……! 本物の木みたい!」 シルフィとピコが歓声を上げる。
「飲み物はこれだ」 鍋で温めた**『ホット・グレープ(山葡萄ジュース)』**。 シナモン(森で採取したニッキの皮)とオレンジの輪切りを浮かべ、スパイスの香りを効かせている。 ノンアルコールだが、体の芯から温まる大人の味だ。
「では、聖なる夜に……乾杯!」 「「「乾杯!!」」」
エリシアも今日は公務を休み、コタツに入って参加している。 「……んっ。このケーキ、生地がしっとりしていて、クリームの苦味が絶妙ですわ。甘すぎなくて、いくらでも食べられそう」
「ホット・グレープも最高! スパイスの香りで体がポカポカする!」 外は吹雪だが、ログハウスの中は甘い香りと笑い声で満ちていた。
4. 迷子のサンタ?
その時。 ドサッ……
屋根の上で何かが落ちる音がした。 「……今の音、何?」 全員が顔を見合わせる。
俺が警戒しながらドアを開けると、そこには雪まみれになった小柄な老人が倒れていた。 真っ赤なローブを着て、白い髭をたくわえている。
「あいたた……。トナカイが滑ってしまってのぅ」
「だ、誰ですの!?」 エリシアが杖を構えるが、老人はニコニコと笑っている。
「ただの通りすがりの精霊じゃよ。……おや、いい匂いがするのぅ」
5. 幸せのお裾分け
怪しいが、邪気は感じられない。 俺は老人を招き入れ、コタツで暖まってもらった。 残っていたブッシュ・ド・ノエルと、熱々のホット・グレープを差し出す。
「ほう……。これは見事な薪じゃな。……パクッ」
老人は目を細めた。 「……美味い。冷えた体に染み渡るわい。こんな温かいもてなしを受けたのは、何百年ぶりかのぅ」
彼はあっという間に平らげ、満足げに髭を撫でた。
「礼をせねばならんな。……そこのお嬢さんたち」
老人が指を鳴らすと、シルフィとエリシア、ピコの膝の上に、小さな箱が現れた。
「えっ? プレゼント!?」
中を開けると、シルフィには「銀のフォーク(食べ物が美味しくなる)」、エリシアには「氷の結晶の髪飾り」、ピコには「蜜が溢れる花の種」が入っていた。
「そして、料理人殿にはこれを」
俺の手には、一袋の種が握らされていた。 『ミステリー・シード:春になると「希望」が芽吹く種』
「わしからの感謝の気持ちじゃ。……では、良い夜を」
老人はウィンクをして、煙のように消えてしまった。 外を見ると、空飛ぶソリの軌跡が、オーロラのように夜空に残っていた。
6. 最高の聖夜
「……本物の精霊だったのかしら」 「きっとそうね。カイトのケーキが美味しかったから、お礼に来てくれたのよ」
シルフィは新しいフォークを大事そうに抱きしめた。 エリシアも髪飾りをつけ、鏡を見て頬を染めている。
「来年の春に何が育つか、楽しみだな」 俺は不思議な種をポケットにしまった。
聖夜の奇跡は、確かに俺たちのログハウスに訪れたのだ。 コタツに戻った俺たちは、再び温かい夜を過ごした。




