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森の番人と黄金のパスタ

1. 黄金の小麦


トマトの収穫から数日。俺、カイトの異世界生活は順調そのものだった。 【万能農具】と【植物鑑定】のおかげで、拠点の周りはちょっとした菜園になりつつある。


「今日の狙いは、これだ」


俺の目の前には、腰の高さまで育った黄金色の穂が風に揺れていた。


『ゴールデン・ウィート:黄金色に輝く小麦。製粉すると、バターを使わずとも芳醇なコクが出る』


パンもいいが、今日の気分は麺だ。 俺はクワを「鎌」に変化させ、ザクザクと小麦を刈り取っていく。 さらに【万能農具】を「製粉機」と「製麺機」の機能を持った台座に変化させる。このスキル、本当に便利すぎる。


挽きたての粉に、【クリスタル・ウォーター】(近くの湧き水)を加えて練り上げる。 艶やかで弾力のある生地が出来上がった。


2. 腹ペコのエルフ


「……ん?」


調理の準備をしていると、背後の茂みがガサリと揺れた。 野獣か? 俺は農具を構えて振り返る。


そこから転がり出てきたのは、野獣よりも危険で――美しい生き物だった。


透き通るような金色の長い髪。宝石のような緑の瞳。そして、特徴的な尖った耳。 間違いなくエルフだ。しかし、その高貴な美貌とは裏腹に、彼女はフラフラと千鳥足で……。


「ぐぅぅ〜……」


盛大な音が森に響いた。 彼女は俺(というより、俺の手元の食材)を睨みつけるように指差した。


「そ、そこな人間! 私はこの森を守る高潔なるエルフ、シルフィよ! ……その、良い匂いをさせている罪は重いわ。直ちに私に献上しなさい!」


どう見ても、ただの空腹による恐喝だった。


3. 森の恵みのトマトパスタ


「はいはい、わかったよ」


俺は即席の石窯(これも農具で作成)に火を入れた。 メニューは決まっている。 先日収穫した「野生のトマト」をたっぷり使った**『特製トマトパスタ』**だ。


フライパンに、刻んだ香草と保存しておいた脂身を入れる。 ジュワァァァ…… 食欲をそそる香りが爆発的に広がり、シルフィの喉が「ゴクリ」と鳴るのが聞こえた。


そこに、完熟トマトを投入。 ヘラで潰しながら煮詰めると、トマトは鮮やかなルビー色のソースへと姿を変えていく。 最後に、茹でたての自家製生パスタを絡めれば完成だ。


「お待たせ。熱いから気をつけて」


4. 陥落の瞬間


木の器に盛られたパスタは、湯気と共に酸味と甘みの混じり合った極上のアロマを放っている。 シルフィは震える手でフォークを受け取った。


「べ、別にこれくらいで感謝なんて……いっただきまーす!」


彼女は行儀よく、しかし素早くパスタを口に運んだ。


その瞬間、エルフの長い耳がピーンと立った。


「んんっ――!!?」


目を見開き、口元を押さえるシルフィ。


「な、何これ!? 麺が……信じられないくらいモチモチしてる! 噛むたびに小麦の香ばしさが鼻に抜けていくわ!」


続けて、ソースを絡めてもう一口。


「それにこの赤いソース! 甘い! でもただ甘いだけじゃなくて、爽やかな酸味が後から追いかけてくる……! 太陽の光をそのまま煮込んだみたいに濃厚なのに、後味はスッキリしていて……フォークが、止まらないっ!」


ズルズル、モグモグ。 高潔な森の番人の姿はどこへやら。彼女は一心不乱にパスタを吸い込み続けている。


「ふぅ……おかわり」


空になった器を突き出し、彼女は少し頬を染めて上目遣いに俺を見た。


「……ま、まあまあね。人間にしてはやるじゃない。特別に、この森での居住を許可してあげるわ。その代わり――」


「その代わり?」


「明日もこれを作りなさいよ! いいわね!?」


こうして、俺の平穏なスローライフに、騒がしくも可愛い居候(大食い)が加わることになったのだった。

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