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夏祭りと大輪の花火

1. 森の小さな夏祭り


「夏の終わりには、盛大に送り火をする。それが俺の故郷の風習なんだ」


猛暑が過ぎ、夜風に少しだけ涼しさが混じるようになった頃。 俺はログハウスの前の広場を飾り付けていた。 「ムーン・トマト(夜に発光するトマト)」をくり抜いて作ったランタンを、木々の間に吊るしていく。 淡い光が幽玄に揺れ、森は一気にお祭りムードに包まれた。


「わぁ、綺麗……! 星が降りてきたみたい!」 浴衣(俺の手作り)に着替えたシルフィが、くるりと回って見せた。 淡いピンクの生地が、彼女の金髪によく似合っている。


「カイト様、この格好は動きにくいですが、身が引き締まるです!」 ポン太も法被はっぴ姿で張り切っている。


2. 焦がし醤油の魔力


祭りの主役は、やはり「屋台飯」だ。 俺は鉄板(ホットプレート農具)の前に立ち、腕を振るった。


「へいらっしゃい! 焼き立てだよ!」


メニュー①:『サン・コーンの焼きとうもろこし』 太陽の光を浴びて育った黄色い宝石のようなトウモロコシ。 これを「自家製醤油」と「焦がしバター(ミルクの木の樹液から精製)」を塗って焼き上げる。 ジュッ、ジュワワァ…… 醤油の焦げる香ばしい匂いが、周囲の空気を支配する。これは暴力的な香りだ。


メニュー②:『黄金のソース焼きそば』 ゴールデン・ウィートの中太麺を、大量のキャベツ、人参、そして「肉厚な森のキノコ」と共に炒める。 味の決め手は、野菜と果実を煮詰めた「特製ウスターソース」。 ジャージャーッ! 鉄板の上でソースが踊り、酸味のあるスパイシーな香りが食欲を刺激する。


3. 屋台飯の虜


「……んん〜っ! 卑怯ですわ、この匂いは!」


視察に来たエリシア(今日は紺色の浴衣姿)が、たまらず焼きとうもろこしに食らいついた。 「ハフッ、熱っ……! あまじょっぱい! 醤油の香ばしさが、トウモロコシの甘みを極限まで引き立てています……! バターのコクも罪深いですわ!」


シルフィは焼きそばを頬張っている。 「ズルズルッ……うん! このソース味、最高! 野菜だけなのに、すごくガッツリくる! お箸が止まらないよぉ!」


ピコとポン太も、口の周りをソースだらけにして笑い合っている。 堅苦しいテーブルマナーはいらない。 立ったまま、熱々の料理を頬張る。それが祭りの醍醐味だ。


4. 夜空に咲く魔法


お腹が満たされた頃、俺は皆を集めた。


「さて、メインイベントだ」


俺は広場の中央に、「ヒート・ストーン(粉末)」と「光の魔石(粉末)」、そして数種類の金属粉を混ぜた筒をセットした。


「みんな、空を見上げて」


俺は導火線に魔力を送った。 シュゥゥゥ…… 小さな火花が走り、筒から光の玉が空高く打ち上がった。


ヒュ〜〜〜……


静寂。そして。


ドンッ!!


夜空に、巨大な光の華が咲いた。 赤、青、緑、金。 色とりどりの火花が、柳のように垂れ下がり、キラキラと消えていく。


「……っ!!」


シルフィが息を呑んだ。エリシアが口元を押さえた。 誰も言葉を発しない。ただ、空を見上げている。


続けて二発、三発。 ドンドンとお腹に響く音と共に、森の夜空が昼間のように明るく染まる。


5. 来年も、この場所で


最後の特大花火が消え、静けさが戻ってきた。 火薬の匂いが微かに漂う。


「……すごい。魔法よりも、ずっと綺麗で、儚かった……」 シルフィが夢見心地で呟いた。


「『花火』っていうんだ。夏の終わりに、こうして火を眺めて、過ぎた季節を惜しむんだよ」


「……素敵ですわ」 エリシアがそっと涙を拭いた。 「一瞬で消えてしまうからこそ、心に焼き付くのですね」


「カイト。……来年も、見れるかな」 シルフィが俺の袖を掴んで、不安そうに見上げてきた。


「ああ。来年も、再来年も。俺たちがここにいる限り、毎年上げよう」


俺は彼女の手を握り返した。 その手は温かく、少しだけ焼きとうもろこしの匂いがした。


異世界の夏が終わる。 けれど、俺たちのスローライフは、秋に向けてさらに色づいていくのだ。

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